- 氏名
- 小助川 宏明
- プロフィール
- 化学メーカー勤務。生産管理部門の管理職。社内の人財育成推進プロジェクトにも参画。全社員が幸せにイキイキ働くことの実現を目指し活動している。
本記事では、社内人財育成プロジェクトである「ウェルネス活動」の取り組みについてお聞きすると共に、ご推進にあたって心理的資本の概念やPsyCap Master認定講座での学びをどのように活かしておられるのか、話を伺いました。(聞き手:Be&Do 赤澤 智貴)
「イキイキ働くってなんだろう?」と考えて、心理的資本の概念に辿り着いた
赤澤:この度は、PsyCap Master認定講座の修了お疲れ様でした。まずは、小助川さんのお仕事と、心理的資本の概念に着目された経緯を教えてください。
小助川さん:化学メーカーで工場の生産管理の業務をしています。私自身はこの部門の管理者になります。部門ミッションとしては、「安全を第一に、安定した品質の製品を計画通りに製造していくこと」です。会社の従業員数は90名弱ですが、そのうち50名以上が私たちの生産部です。生産部では製造の最前線で働く交替勤務のオペレーターが約9割を占めておりますので、全従業員のうち半数が製造のオペレーターという構成になっています。
会社のビジネススタイルとしては、ファインケミカルの受託製造という形を取っています。お客様の原料をお預かりして、それを私たちの技術で加工してお客様に返します。ですから、私たちのサービスは最前線で働くオペレーターの皆さんの技術力に掛かっていると私は常日頃から考えています。
PsyCap Master認定講座を受講しようと思ったのは、2020年に開始した「ウェルネス活動」という社内の人財育成プロジェクトがきっかけです。当社の中期経営計画の中で健康経営を取り入れていく方針となり、保健師さんと一緒に現場の管理者である私も参画することになったんです。
ウェルネス活動を進める際に、まずは当社の健康経営宣言の中にある「幸せで生産性の高い社員組織であること」「イキイキと働く」という言葉に焦点を当てました。「イキイキ働くって具体的には何だろう?」と考え、「外的要因に左右されず、困難な状況であってもポジティブさを持って主体的・能動的に自ら事を進めていける」という考え方を定義しました。これに近い概念はないだろうかと色々と調べて辿り着いたのが、「心理的資本」であり、「HERO」のフレームワークだったんです。
赤澤:まさに、イキイキをうまく言語化している概念が心理的資本と言えますね。真の健康を追求されているのが印象的です。
小助川さん:「健康」というと身体的な側面に注目されがちですが、私たちは精神的にも社会的にも満たされた状態、つまり健康であること=幸せであることだと考えています。
ウェルネス活動では、心理的資本ともう一つ、コミュニケーション能力の向上にも着目しました。幸せとは一人ではなく相互関係の中で生まれてくるものだと考え、これを「コミュニケーションの本質」と表現しています。自分を知り相手を知り、お互いが肯定的に認め合う。それがコミュニケーションの本質です。心理的資本の土台としてコミュニケーションの本質があると位置づけています。
ウェルネス活動の目標を、「コミュニケーションの本質を向上させること」、そして「心理的資本の概念を浸透していくこと」として、活動を開始しました。
健康経営と自部門の課題が結びつき、ウェルネス活動として全社に発展
赤澤:ウェルネス活動と製造現場での課題がリンクするような点はありますか?現場で小助川さんがお感じになっておられることを教えてください。
小助川さん:健康経営を取り入れていく方針を経営層が検討していた頃、生産部門ではあるトラブルが発生していました。そのトラブルが起こってしまう原因に、「コミュニケーションの齟齬」があるんじゃないかと私は考えていました。製造管理スタッフがレシピ(指示書)を詳細に書いて製造内容をオペレーターの皆さんに伝えるようにしていますが、レシピの書き方であったり、その読み取り方であったり、また交替勤務で申し送りがあったりする中で何らかの齟齬や誤解が生まれるとトラブルに繋がってしまいます。自分が伝えたつもりになって、相手が理解できるように落とし込む双方向のコミュニケーションに課題があると感じていた状況でした。つまり、送り手は相手が理解できるように工夫し、また相手も送り手が何を伝えたいのかを理解しようとすることが必要なんだと考えていました。
このような自部門の課題があって、コミュニケーション向上や自らの意志でイキイキと働いていける人を増やす取り組みを自部門で進めたいと私は考えまして、経営層に「これをやらせてください」と話をしました。すると「それなら会社全体でやりなよ!」という風に言ってもらったんです。そうやって健康経営と自部門の課題が結びつき、ウェルネス活動として全社に発展していきました。
社内へ紹介する際の説得力が高まると期待して、PsyCap Master認定講座を受講
赤澤:経営層の方が同じ目的意識を持って、小助川さんのご推進を後押しされていることは非常に心強く感じます。小助川さんはウェルネス活動を2020年に開始され、その後2023年9月にPsyCap Master認定講座を受講開始されました。ご受講を決意された経緯を教えてください。
小助川さん:「イキイキと働く」を実現すべく、当初は保健師さんと一緒に心理的資本の文献を読んだり、「こころの資本(書籍)」を購入して独学で学んでいました。
ウェルネス活動の取り組みは、年に3回、工場を止めて全社員が一堂に集まって実施する「教育訓練」の機会がありますので、そこでワークショップを実施しています。あとは不定期で社内メルマガを発行しています。
推進の流れとしては、まずは「コミュニケーションの本質の向上」に関するテーマを扱った教育訓練から実施していきました。急に心理的資本の概念を取り上げると、抵抗感を持つ人もいるかもしれません。それよりもコミュニケーションがテーマの方がみんなにとって身近で取り組みやすいと考えました。そうやって徐々にコミュニケーション力が整ってきたので、いよいよ本格的に心理的資本の概念やHEROを紹介・浸透していくことにしました。そのタイミングで、思い切ってPsyCap Master認定講座を受講してみようと決めたんです。
受講によって、自分自身がしっかりと系統立てて知識やスキルを身につけること、さらに第三者からの認定を頂くことで、社内へ紹介するにあたっての説得力が高まると期待しました。自分たちで調べた外部の情報を引用という形で紹介していくよりも、PsyCap Master(心理的資本開発指導士)として自分たちの言葉で紹介していくほうが良いと考えました。
赤澤:いよいよ心理的資本を社内に浸透していくというタイミングでご受講を決意されたのですね。実際にご受講いただいて、いかがでしたか?
小助川さん:コンテンツのeラーニング学習は通勤時間を活用して電車やバスの中で取り組みました。レポート課題や活動条件のクリアは大変さもありましたが、自分たちの現在進行形の取り組みとリンクしながら興味を持って進めることができました。これがすごく良かったです。
毎週火曜日のワークショップは普段接することがない色々な分野の方たちと話す貴重な機会と捉えて参加しました。ただ正直、最初の頃は自分の考えを話すことにとても難しさを感じていました。普段の業務であれば技術的な議論が主ですので、「Aさんをテーマにどうガイディングするか」を考えるワークショップは、遥かに難しく感じていて…。参加されている皆さんに対して「なんて上手く喋るんだ」と羞恥心とか劣等感を持っていました(笑)。それも含めて、総じて良い経験ができていると感じながらチャレンジできましたし、ワクワク感の方がすごく上回っていましたので、8週間プログラムの間は毎週ワークショップにフル参加させてもらっていました。ディスカッションの中で「そういうふうに考えられるんだ」という他の受講者さんの言葉も多々あり、日常業務の中に早速取り入れたものもあります。非常に有用な機会でした。
赤澤:ご受講は現場のリーダーの方以外にも、組織開発を専門とされるコンサルタントの方や研修講師の方も多いです。普段接することがない分野の方々と同じ受講生という立場で関わるのは大きなチャレンジだったかと思いますが、その分得るものは大きかったということですね!
小助川さん:年末にはPsyCap Masterのミニ忘年会(大阪)にも参加させてもらったのですが、ある方からの言葉にすごく感謝しているんです。私の活動の話を聞いて、「よく育つ畑の土壌作りをしているんだね」と言ってもらったんです。「畑であっても、作物がよく育つ畑と、そうじゃない畑があるでしょ?会社として何か新しいチャレンジをするときに、「やろう!」とみんなが前向きに取り組んでくれる、そんな土壌を作っている」と表現してくださって、とても自分の自信になりました。そんな刺激をいただけるPsyCap Masterの皆さんとの交流は私にとってすごくありがたい機会でした。
オペレーターの皆さんに前向きな気持ちになってもらうように、レシピ(指示書)の書き方を工夫する
赤澤:PsyCap Master認定講座での学びを、現場でどのように活かされているのか教えてください。
小助川さん:私のほうから製造管理スタッフに対して講座で学んだ知識を日々伝えるようにしています。例えば、オペレーターの皆さんへのレシピ(指示書)に「こういうミスをしないように」とスタッフが書くことがあります。私は文章をチェックする役割なので、「ミス回避ではなく、『こういう風に適切に業務を進めましょう』と表現する方が、伝える相手に前向きな気持ちになってもらえるかもよ」とフィードバックするようにしています。
このフィードバックは心理的資本の「接近目標」の考え方です。講座で「接近目標」やその逆の「回避目標」という考え方を理論立てて学ぶことができたから、その知識でうまく説明ができるようになったと感じています。
赤澤:現場のマネジメントで実際に活かされていることを嬉しく思います。受講によって小助川さんご自身の変化を実感されていることはありますか?
小助川さん:一緒にウェルネス活動を推進している保健師さんは、「小助川さんの使っている言葉が変わったよね」と言ってくれています。自分にそこまで自覚はないんですけど、確かに講座を受ける前後では社内で話すときに言葉が出てくるようになったと感じてます。実は講座テキストは常に現場で持っているんですよ。「これってここに当てはまるなあ」とか、「これ、ここに適用できないかなあ」とかを常に考えながらやっています。「明確にこういう風に定義されていて…」という風に説明を加えることもありますね。
教育訓練の中で体験型のワークショップを実施し、いよいよ心理的資本の概念を社員に紹介
赤澤:まさに、説得力に磨きがかかったということですね!社内のウェルネス活動についてはいかがですか?
小助川さん:直近で実施した教育訓練では、いよいよ心理的資本の概念を言葉として社員に紹介したんです。ある体験型のワークショップを取り入れながら、その間にスライドで心理的資本を紹介するような形式で、保健師さんからレクチャーしてもらいました。今回に関しては、心理的資本という言葉と考え方の紹介に留めて、構成要素であるHEROの一つ一つの言葉までは使わないようにしました。ワークショップはみんな真剣かつ楽しみながら取り組んでくれていたようで、すごく良い雰囲気で進行できたので、反応は良かったと感じています。今後、より深く概念を浸透していくためのメルマガや、新たなワークショップの実施を考えています。
自分から”仕掛けられる人”を現場で増やしていきたい
赤澤:ウェルネス活動と自部門でのご推進の両輪でイキイキ働くことを着実に前に進めておられますね!最後の質問になりますが、PsyCap Master認定講座の受講を特におすすめしたいのは、どのような方でしょうか?その理由も教えてください。
小助川さん:製造現場の管理にガイディングは必要不可欠な力だと思っています。いかに現場の皆さんにイキイキ働いてもらうかが、生産力に直結します。
製造現場では、例えば課題のレベルが高かったり、忙しさであったりで、働く皆さんがくじけそうになることもあると思いますが、そこを自分なりに頑張って、乗り越えて目標達成できたらすごく嬉しいし、その経験が自分の糧になることってあるじゃないですか。あの時苦しかったけど、結果的に頑張ってよかったと思えるような体験はその人の人間性を成長させると私は思います。
ただ、課題に立ち向かうのは一人では難しく、悩んで動けなくなることもありますよね。そんな時に自ら周りの同僚の協力を得ながら進めていったり、また悩んで動けない人に働きかけて、一歩を踏み出す後押しをできるような人がいれば、非常に心強い存在です。そのように自分から”仕掛けられる人”を社内で増やしていきたいと私は考えています。みんながより一層に自分の内面から湧き上がってくる力でイキイキ動けるようになれば、さらに良い環境に持続的な形でなっていけると思っています。
イキイキ働くことを説明してくれているのが心理的資本の概念枠組みであり、それを活用するための学びを提供してくれているのがPsyCap Master認定講座です。製造現場の管理者の方に、この講座を特におすすめしたいです。
赤澤:本日は貴重なお話をありがとうございました。小助川さんと貴社のますますのご活躍とご発展を心から応援しております!