企業規模を問わず、必要に迫られている健康経営の取組み。
その背景の一つは、人材不足傾向の高まりにあります。
ご存知のとおり、日本の人口は、2008年に1億2,808万人をピークに減少の一途をたどっています(総務省統計局の調査より)。人口の減少は、すなわち生産年齢人口(15~64歳)も減るということ。2017年時点で7,656万人だった生産年齢人口は、2060年には、4,418万人まで減少するという推移予測が出ています。つまり、日本全体で言うと、今まで10人で行っていた仕事を6人で行う必要が出てくるということなんです。
帝国データバンクが最新の調査結果を発表していました。
「人手不足倒産」件数は調査開始(2013年1月)以降、半期ベースで最多
2018年上半期(1~6月)の「人手不足倒産」は70件発生し、負債総額は106億7700万円となった。件数は3年連続で前年同期を上回り、調査開始(2013年1月)以降、半期ベースで最多となり、年間合計で初めて100件を超えた2017年(106件)を上回る勢いとなった。ー帝国データバンク
日本全体が働き方、仕事の進め方を大きく見直す岐路に立たされています。
恒常的な働き手不足は、既に中小企業にいち早く押し寄せているようです。昨年時点で、中小企業の約74%が人材不足を感じているという調査結果があります(独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業アンケート調査報告「人手不足に関する中小企業への影響と対応状況」より)。少ない人数で事業を行っている中小企業にとって、業務を担う人手が減少することは経営に直結した大きな課題となることが、これらの数字からも改めて重大性をもって見えてきます。
では、どうやって人手不足を解消していけばいいのでしょうか。
中小企業が採用市場に打つことができる一手
人手の確保のためには、採用市場において自社の魅力を十分に伝え、一人でも多く「御社で働きたい」と思ってもらうことが必要です。でも、大手企業のように知名度もないし待遇面でもPRできそうにない、、、何をPRすればいいのだ?と肩を落とされるかもしれません。
ポイントは、知名度が高くないという点で不利になりがちな中小企業だからこそ、「働きやすさ」の見える化が重要だということ。特に、昨今では求職者はブラック企業ではないか?という点に過敏になっています。逆に、自社のホワイトさ=働きやすさをアピールすることができれば、チャンスになるということです。
働きやすさとは、必ずしも制度や福利厚生が充実していることではありません。例えば、中小企業ならではの働きやすさとして、貴社にもこんな点がないでしょうか。
- (少数精鋭であるからこそ)早い段階で責任のある、やりがいのある仕事を任されることが多い
- (大企業のように部署や担当が細かく分かれていないからこそ)任される仕事の範囲が広い
- (複雑な制度や慣習にしばられないからこそ)柔軟に働くことができる、風通しが良い
- (社長や上司との距離が近いからこそ)自分の意見を提案したり、逆に社長や上司の考えを直接聞ける機会が多い
さらに、自社の「働きやすいさ=ホワイトさ」を伝えるのにうってつけなのが「健康経営」です。
経済産業省では、健康経営優良法人を「ホワイト500」と銘打って認定をしています。自社の従業員の健康を経営戦略の一つとして位置づけ、イキイキと働ける職場づくりを推進しているということを、経済産業省がお墨付きするというものです。つまり、健康経営に取り組んでいること=ホワイト企業であると、求職者にわかりやすく伝えることができるのです。実際に、経済産業省が就職活動生に行った調査によれば、「Q.健康経営が就職の決め手となるか?」という質問に対しては、なんと75%を超える学生が「重要な決め手となる」と回答しています(参考:就活生の企業選び いまどきの”最重要視ポイント”は?)。
実は、従業員の健康を経営課題として捉え、実行力を伴って健康経営に取り組むためには、経営トップがその意義や重要性をしっかり認識するとともに、その考え(理念)を社内外にしっかり示すことが重要であると言われています。経営トップの意向を経営に反映しやすい中小企業こそ、取り組みを推進するアドバンテージがあるとも言えます。
そうは言っても、従業員の健康に投資できるような余裕はないんだよ・・・そう仰る中小企業様は多いようです。ところが健康経営は、大きな費用をかけなくても始められるものなのです。
中小企業でも始められる健康経営の一歩
例えば、健康経営提唱の第一人者である、特定非営利活動法人健康経営研究会の岡田邦夫理事長は、まず「時間投資」から始めることを推奨されています。
健康投資の考え方として、まずは「時間投資をしてください」と言っています。時間投資とは、例えば社長が従業員と健康について話し合う時間をとることから始めるのです。健康について話し合うことで、健康意識を高めるだけでなく、社長が従業員のことを考えているというメッセージにもなります。このことは期待されていると感じることで、成果が高まる「ホーソン効果」を生み従業員のやる気を高めます。
次に「空間投資」をしてください。空間投資とは環境づくりです。例えば喫煙室を廃止して、談話室にするのです。健康によい飲み物(無糖のコーヒーなど)を用意し、従業員間の対話を促進するなど、健康とコミュニケーションづくりの場を提供するのです。
そして利益が出れば、「利益投資」をすればよいのです。利益投資は次の利益を生むことになります。
時間投資として実施できること
大切なことは投資という考え方です。従業員の健康について考えることや、施策を行うことにかける時間は決して「コスト」ではありません。経営者がそのことに気づき、考えることから実は「時間投資」がスタートしているといっても良いのです。では、具体的にどのような取組ができるでしょうか。
- 従業員が健康的に過ごすために必要なことを経営者自身が考える
- 従業員に対して発信するメッセージを考える
- 経営者が従業員の健康について気遣い、声をかける
- 経営者が従業員の健康を推進する担当者を誰にするか検討する
- 従業員の健康を促進するためのイベントを企画する
- 従業員にランチ後の昼寝タイムを15分提供する
- 勤務時間の一部を健康学習の機会にする
ほんの一部ですが、経営者自ら動けば始めることができるものが多いものです。
また、担当者や従業員自身の時間を活用してもらうのも時間投資です。
この時間投資によって、従業員の会社に対する満足度やロイヤリティが上がり、貢献意欲も高まります。
従業員が健康的になり、加えて貢献意欲も高まることは、間違いなく投資に対してリターンも返ってきます。
そして従業員が満足することは、採用力の向上にもつながります。(参照:すぐ実践したい!中小企業の採用力を高める効果的な投資方法とは?)
空間投資として実施できること
時間投資をして、検討したり、従業員と話し合った結果、余力があれば空間投資を実施しても良いでしょう。
空間投資は実際に環境づくりを行うことです。
- 喫煙室を廃止して、コーヒーマシンなどを置き談話室を新たにつくる
- 職場の電灯が暗い場合、作業しやすい明度のものに変更する
- 夏場にエアコンが効きすぎるまたは効かない場合、最良のものを調達する
- オフィスの一画に、気軽に運動できるスペースを用意してマットやトレーニング器具等を置く
- 離れ離れのメンバーと健康の情報を共有できるコミュニケーションツールを用意する
これらもほんの一部ですが、自社の身の丈にあったもので取り組みを始めることはできます。
利益が出ていれば、さらに“利益投資”を時間・空間・人間に対して行うことで、より大きな利益に結び付いていくという考え方です。
人手不足が常態化していくと、既存社員の負荷が高くなり長時間労働をはじめとして労働環境が悪化するという悪循環に陥ります。そうなる前に、今こそ、健康経営のための時間投資から始めてはいかがでしょうか。
時間投資によって、経営者が「従業員のことを考えている」というメッセージは、必ずや求職者に「働きやすさ」として伝わることでしょう。