「手応えを感じていた期待の新人が、数ヶ月で退職してしまった…」 「OJTトレーナーから『今年の新人はどう育てていいか分からない』と悲鳴が上がっている…」
こうした悩みを、つい「本人の資質」や「現場の体制」のせいにしていないでしょうか。実は、新入社員の育成と定着に効果のある、研究に裏付けられた「科学的なアプローチ」が存在します。それが、「心のチカラ(=心理的資本)」を育むという視点です。
目次
なぜ今、新入社員の育成・定着に「心のチカラ」なのか?
科学的根拠(エビデンス)が示す重要性
「心のチカラ(学術的には「心理的資本」と呼ばれます)」とは、単なるポジティブシンキングやモチベーションとは一線を画す、経済学や心理学の分野で学術的な裏付けを持つ概念です。
近年の研究では、この「心理的資本」が、
- 望ましい態度・行動(生産性、組織への愛着、主体性)と正の相関
- 望ましくない態度・行動(離職、ストレス、メンタル不調)と負の相関
があることが明確に分かっています。
つまり、「心のチカラ」を育むことは、新入社員のパフォーマンス向上と早期離職の防止に直結する、合理的な戦略です。
「心理的資本」を構成する4つの要素「HERO」
「心理的資本」は、以下の4つの要素(頭文字をとってHERO)で構成されています。これらは生まれ持った性格ではなく、誰でも後天的に開発できる「思考のスキル」である点が最大のポイントです。
- Hope(ホープ): 目標達成への意欲と、そのための道筋を描ける力。
- Efficacy(エフィカシー): 困難な課題にも「自分ならできる」と取り組める自信。
- Resilience(レジリエンス): 逆境や失敗、困難に直面しても立ち直り、乗り越える力。
- Optimism(オプティミズム): 現実的かつ柔軟に物事のポジティブな側面を見出し、「なんとかなる」と成功を信じる力。
【イメージしてみてください】心のチカラが不足している社員 vs 充実している社員
心のチカラが不足している社員:
- 「毎日タスクをこなすだけで、特にどうなりたいとかない」
- 「やっぱり自分にはできない、助けてももらえないし」
- 「あの失敗、どう思われてるのかな」
- 「自分はついてない、違う部署だったらいいのに」
心のチカラが充実している社員:
- 「自分には目指すものがあって、この大変な毎日はその糧になる」
- 「少しずつだけど自信もついてきた、次は⚪︎⚪︎先輩のやり方を真似てみよう」
- 「あの失敗から学べることは何だろう?」
- 「一番やりたい仕事ではなかったけど、人間関係には恵まれた」
あなたの会社の大切な新入社員、どちらのように育ってほしいでしょうか?
早期離職の原因?新入社員がぶつかる「2つの大きな壁」
なぜ、あれほど輝いて見えた新入社員が、現場配属後に活気を失ってしまうのでしょうか。そこには「2つの壁」が存在します。
壁①:リアリティショック(理想と現実のギャップ)
これは私自身の経験でもあります。学生時代のアルバイトでは要領よく仕事をこなし、生意気にも「自分はできる方だ」と思っていました。しかし、社会人として入社した途端、電話応対一つ、議事録作成一つまともにできず、「当たり前のことができない自分」に愕然としました。
他にも仕事内容に感じるギャップ、会社の雰囲気に感じるギャップなど、いろいろあるでしょう。この「理想と現実のギャップ(リアリティショック)」こそが、新入社員のEfficacy(自信と信頼の力)を一気に奪う最初の壁です。
この壁を乗り越えるために、新入社員研修は「心のワクチン」接種の場であるべきです。 「必ず壁にぶつかる」ことを前提とし、その時の「心の持ち方=HERO」を事前にレクチャーしておくのも良いでしょう。その時はピンとこなくても、ギャップに落ち込みそうになった時に、そういえば研修でこんなことも聞いたと思い出してくれるかもしれません。
壁②:受け入れ側(上司・OJT担当者)の「育成スキル」不足
第二の壁は、新入社員本人ではなく「受け入れ側」にあります。 現場の上司やOJTトレーナーが、業務に関する知識・スキルに習熟しているだけでなく、「どうフィードバックすれば部下のEfficacyが高まるか?」「どういう1on1をすればHopeを引き出せるか?」 という「心のチカラの高め方」を知らなければ、育成はうまくいきません。
新入社員本人だけでなく、育成する側こそが「HERO」の概念と、それを高めるかかわり術を学ぶ必要があります。これは、単なる「優しさ」「甘やかし」ではなく、「育成の技術」です。人事としては、これらを体系立てて説明し、ポイントだけでも理解してもらい、受け入れ体制を整える支援もする必要がありそうです。
「心のチカラ」を育む、オンボーディング3つの具体策
では、具体的に何をすべきか。私からの提案は次の3点です。
提案①:新入社員研修のアップデート
新入社員の世代は、根拠のない”精神論”に厳しい目線を持つ傾向があります。フワフワした「心の持ち様」の話は、精神論に厳しい彼らには響きません。 「心のチカラ」を「HERO」という4つの要素にロジカルに分解し、「逆境を乗り越える技術」「自信をマネジメントする技術」として、セルフマネジメントの「スキル」としてインストールします。
個人的には特に社会人なり立てのタイミングでは、精神論は蔑ろにはできないと思っています。しかし、そういったものに拒否反応を持つ人は少なくないですし、他人から押し付けられることを嫌がるのは、何も今の新入社員世代に限った話ではありません。
HEROは、ある意味で、成果を出す人に必要な時代を越えた思考法です。それを伝える・身に着けることが、新入社員育成の場ではふさわしいように思います。
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氏名
藤原 裕史(信和ホールディングス 人事部長)
プロフィール
1987年より関西の子供服メーカーで人事業務全般を経験。2022年1月より現職。開発から建設、仲介までワンストップで手掛けるデベロッパー&コンストラクション事業で成長著しいグループ企業の人材戦略全般を担当。社...
自信を持つためのマインドを、もう一歩踏み込んだ言葉で説明できる
提案②:個々の特性を踏まえた配属後の面談やフォローアップ
「心のチカラ」の育ち方、あるいは「つまずきやすいポイント」は、人によって異なります。 例えば、HEROIC診断などで、「心のチカラ(=心理的資本)」の状態に加え、行動性向・思考特性タイプを見える化することは有効です。
心のチカラの状態が見えることで、具体的にHEROのどのポイントに焦点を当てて話すと良さそうかの見通しが立てられます。また問いのスキルに自信がなかったとしても、結果を見ながら話しをすることで自然と自己開示が進みます。
また、行動性向・思考特性タイプも新入社員本人だけでなく上司のタイプも明らかにしておくことで、「このタイプの上司は、このタイプの部下に対して、こういう言葉(例:激励のつもりの厳しい言葉)をかけがちだが、それは部下のEfficacyを著しく下げてしまう」 といった、コミュニケーションで発生しやすい問題を事前に想定し、対策を打つことができます。
提案③:「心のチカラ」の状態の定点観測
新入社員の「内面の状態」は外から見えにくいものです。 HEROIC診断などを活用し、「心のチカラ(=心理的資本)」の状態を定点観測することで、「最近、〇〇さんの数値が落ち込んでいる」といったリスクを早期にキャッチできます。
これにより、人事や上司が「手遅れになる前に」適切なタイミングで1on1などの支援を行うことが可能になります。
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「辞めたい」と言われる前に問題を拾い上げ、環境を改善する
会社名 株式会社ホンダカーズ大分中央 事業内容 新車販売、中古車販売、車検・点検・整備・修理、自動車損害保険代理業、リース、レンタカー、部品用品 導入目的 従業員のES(従業員満足度)向上 1年前(2024年)からHEROIC診断(心理的資本診...
新入社員の可能性を最大化するために
新入社員の「心のチカラ」は、生まれ持ったセンスや性格ではありません。それは、誰もが後天的に開発できる「スキル」です。

しかし、新入社員本人に「折れない心を持ってください」と言うだけでは不十分です。 最も効果的なのは、人事、そして現場のOJT・管理職が「育成の技術」として、HERO(心のチカラ)の高め方を体系的に学ぶことです。
新入社員の可能性を最大化し、「折れない心」で主体的に活躍してもらうために、まずは育成を担う皆様から、科学的根拠に基づいた「育成の技術」を学んでみませんか?
▼新入社員研修・管理職研修・OJTトレーナー研修に「科学的な育成術」を取り入れる
PsyCap Master認定講座では、「心のチカラ」を高める理論と実践スキルを体系的に学べます。
2022.09.02
PsyCapMaster(心理的資本開発指導士)認定講座
PsyCap Master®(サイキャップマスター/心理的資本開発指導士)認定講座とは、㈱Be&Doのクライアント支援の実績と知見に実績に基づき体系化された心理的資本開発手法(ガイディング)を習得し、人と組織の成長支援を行う指導士となることができる10週間のオンラインプログラムです。 ...