最近の企業内では、上司が部下に気を使い、気疲れする現象が増えていると聞きます。
「〇〇ハラスメント」と名付けられる事象がニュースを賑わす昨今。
コンプライアンス研修やハラスメント防止研修で指導された内容が頭をよぎり、部下相手に厳しい指導がしにくい…という管理職は多いはずです。
パワハラ
セクハラ
セカハラ
モラハラ
マタハラ・・・
今や、ハラスメントの種類は50を超えるとも言われ、今後も人事労務の問題が生まれるたび、新しいハラスメントが生まれるとも予想されています。
また、部下の気持ちを慮る(おもいはかる)ばかりに、自分の意見をストレートに言えないこともあるでしょう。
叱ってはみたものの、「あんまり伝わっていないかもなぁ」と実感しても、果たしてどう伝えればいいものか、どこまでキツく指導していいものか…上司の悩みどころですよね。
そこで今回は、「アサーティブコミュニケーション」という新しいコミュニケーション方法を提案します。
強制力のある言葉を使わずに、部下との対話を進めるためのヒントとして活用ください。
目次
アサーティブコミュニケーションとはどんなもの?
「アサーティブコミュニケーション」の「アサーティブ」は、「主張する」という意味の英単語です。
「アサーティブコミュニケーション」を直訳してしまうと、「自己主張すること」となってしまいますが、実際の「アサーティブコミュニケーション」では、自分の主張よりも、相手側に立つ想像力を持つことが求められます。
ここで大切なのは、自分と相手を対等の立場として考える思考。相手が誰であっても、まずは同じ目線で向き合います。たとえ相手が、大失敗をした部下であっても、頭ごなしに上から話をしてはいけません。
その上で、相手を不快にさせない言い方・言い回しで、自分の意見や主張も伝える方法が、アサーティブコミュニケーションです。
アサーティブコミュニケーションを取り入れて欲しいのはこんな人
アサーティブコミュニケーションは、すべての人に学んで欲しいスキルですが、特に以下のような悩みを持っているビジネスマンにおすすめです。
- 職場で言いたいことが言えず、もやっとしてストレスが溜まっている
- 自分の主張をしただけのはずなのに、なぜか周りから反発されてしまう
- 周囲を巻き込み、同じ目標に向かった行動をさせたいが、どうしたらいいか分からない
- 上司や先輩からの頼まれごとを断れない。さらに後輩からの相談も断れず負担が大きい
上記のような状態を放置しても、ネガティブな気持ちが続くだけで、決してプラスにはなりませんし、ストレスや悩みを抱えたままでいると、その積み重ねが大きな負荷となり、日常パフォーマンスを落としかねません。
あなたが上司の立場ならなおさらです。
たとえば、常にいっぱいいっぱいで余裕がなく残業三昧、まして仕事を持ち帰ってどうにか消化している部下はいませんか?そしてあなたも、その状況を見て見ぬふりをしてはいませんか?
単に「早く帰れ」などと言うだけでは、事態は悪化するだけなのは分かっているはずです。上司として部下と対話する余裕を持ち、双方の課題を解決するためのコミュニケーションの時間が求められます。
そしてそんなときこそ、アサーティブコミュニケーションが有効です。
部下の主張、悩み、課題を聞き出し、決して命令にならないように課題に向き合いましょう。
アサーティブコミュニケーションで、人間関係はどう変わる?
「アサーティブコミュニケーション」が身につくと、立場を超えた人間関係がスムーズになります。
あなたの会社に、「上司は偉い、何を言ってもいい」という雰囲気はありませんか?
高圧的な上司はどの会社にでもいますが、感情的に部下を叱っても、ほとんどの部下はそれを適当に聞き流しています。上司に意見を言ったり、歯向かうことはタブー視されているからです。
さらに、上司の感情をまともに受け止める部下は、病みます。そして、いつか辞めてしまうでしょう。このような最悪の事態を、たくさん見てきた方も多いのではないでしょうか。
しかし上司とは、「何を言ってもいい人」ではありません。
部下を指導し、よりよい未来をマネジメントするべき存在です。
上司がアサーティブコミュニケーションの手法を取り入れ、部下と対等な会話ができる関係性が生まれると、職場環境が良好になります。部下一人ひとりの個性や意見が見えてくると、組織の課題解決がスムーズになり、全員が気持ち良く働けるようになるでしょう。
その結果「〇〇ハラスメントだ!」などと声を上げられることも減り、少しくらい厳しく指導をしてもポジティブに受け止められ、信頼関係が生まれていくのです。
アサーティブコミュニケーションの3つのポイント
組織の中でアサーティブコミュニケーションをうまく取り入れるには、以下のポイントを理解しておく必要があります。
1.誰にでも自分の気持ちを素直に表現する権利があることを知る
消極的な部下であっても、意見がないわけではありません。
おとなしく、自己評価が低く、自己主張ができないタイプの人も存在します。
どのようなタイプであっても、うまく意見を引き出し、コミュニケーションが円滑に取れるようになれば、意外な視点で仕事について語ってくれるかも知れません。今まで上から押さえつけられていたタイプの中に、「化ける部下」がいる可能性は、十分にあるのです。
2.ストレートではなく、柔軟な表現をしてみる
自分の要求を通すために、高圧的に相手に伝えることは避けましょう。
表面的には「分かりました」という言葉を聞けても、内心では反発されて当然。
直接に不平不満を言われたなら、マシだと思ってください。大多数の人は不満をため込みますし、しまいには下剋上を起こされ、立場が逆転する…なんてドラマのようなことも、起こりかねません。
3.一方的な納得ではなく、相手と自分の両方が納得できる結果を残す
「言いたいことは伝えた!」というのは、ひとりよがりな考え方。あなたは満足しても、相手の心にストンと落ちていなければ、コミュニケーションとはいえません。常に相手がいることを念頭に置き、会話できるようになりましょう。
ただし、相手に忖度しすぎるのも考えものです。確かに、思いやりと気遣いは大切です。しかし自分の意見が伝わっていなければ、気遣いも逆効果です。
アサーティブコミュニケーション具体例
アサーティブコミュニケーションの具体例を2つ、ご紹介します。
2つとも会社の中でよくある場面なので、ぜひ参考にしてみてください。
例1.部下から上司へ
【問】上司の話がなかなか終わらない、どうしよう。…自分としては仕事に戻りたいし、残業したくない。
【解】申し訳ないのですが、期日が迫っているものがあるため、そろそろ仕事に戻らなくてはなりません。
〇〇さんのお話とても参考になりました。また次回のミーティング前後にお時間あれば、詳しく教えてください。
例2.上司から部下へ
【問】部下に先日頼んだ資料がなかなか提出されてこない。どう催促したものか?
【解】この前頼んだ資料の進捗はどれくらい進んだかな?こちらの都合で急がせて申し訳ないが、とりあえず終わっていないままででも構わないので、現状で一旦提出してほしい。
どうでしょう。自分の主張、要求を伝えることは必要です。とはいえ「こうして欲しい」「こうしろ」という自己主張を一方的にしないことがポイントです。たとえ相手に多少の非があっても、まずは厳しい言い方をせず、フォローする言葉を付け加えましょう。
「アサーティブコミュニケーション」は、上司部下の関係だけではなく、さまざまな人間関係でも使えるコミュニケーションの手法です。実生活にも少しずつ取り入れることで、円滑なコミュニケーションスキルが身につきます。
まとめ:アサーティブコミュニケーションによって信頼関係が構築できる
日本人は「言われなくても分かっているはず」の意識で文化を築いてきた国です。
しかし…それも昔のこと。特に、ビジネスシーンでは、「言わなくては伝わらない」のが当たり前になってきました。
組織の中では「空気を読む」ことも大事ですが、過剰に空気を読みすぎると、自分が動けなくなりかねません。
相手を不快にさせないがために、自分がにっちもさっちもいかず、言葉にもできず、行動に移せないなんて…馬鹿げていますよね。いくら相手の気持ちを考えたとしても、遠回しな言葉では相手に伝わらないですし。
上司と部下に限らず、「言いたいことが、相手に伝わるように言える」ことこそが、良いコミュニケーションへの第一歩です。
相手を尊重し、理解し合うためのコミュニケーション手法として、アサーティブコミュニケーションを学んでみましょう。その先には、信頼できる関係性があるはずです。