コラム

働き方改革が進む中、あらためて「健康経営」を考える

ホワイト500(経済産業省が顕彰する「健康経営優良法人認定制度」)への注目が高まる中、健康経営は経営においてチャレンジすべき施策、として認知が広がってきています。

健康経営が難しい理由

健康経営が経営の施策としても注目されています。
しかし、各担当者の話を聞く限り、「いったい何を持って健康経営といえるのか」、また「従業員の健康に関与するといっても、いったいどこまで踏み込めるものなのか」、といった戸惑いやためらいがあるのも事実です。

なぜ、健康経営が難しいと感じるのでしょうか。
難しいと感じる理由のひとつには、健康経営の定義がさだまらないこと、があるようです。健康診断の実施、健康への啓発は、度合いはあるものの、企業における安全配慮義務の一環としてやり続けています。なので、あえてこれが健康経営なのかという戸惑いがあるのかもしれません。
また、健康は個人で管理せざるを得ないもの。とすれば、経営として個人の健康にどこまで関与することが健康経営といえるのか、不明瞭だと感じているのでしょう。

安全配慮義務と自己保全義務

労働契約法とは経営側に定められた義務です。

労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とあります。
これに対応する労働者側の義務について「信義に従い誠実に,権利を行使し,及び義務を履行しなければならない」(同法第3条第4項)と書かれています。

健康管理は、極めて個人の意識、行動、習慣に委ねられます。経営側の安全配慮義務に対して、労働者にも自己保全義務(健康管理に関する労働者自身の義務)が問われているのです。

あらためて「健康経営」について考える

健康経営に取り組んでいるという担当者の中には、糖尿病などの疾病に罹患している従業員の対応を考えているという話を聞くことがあります。

健康経営の提唱者であるNPO法人健康経営研究会、岡田邦夫理事長から、働き方改革と健康経営を考えるWell-Being Osaka Labのキックオフイベントの基調講演にて「疾病への対応は医療職が行うもの、健康経営は健康な従業員に対して経営側が行うもの」との話がありました。
疾病に罹患している従業員への対応は、重要なことではあります。しかしこれをもって健康経営、とも言い切れないかもしれません。

心身の健康を保つ方法は、「食事」「運動」「睡眠」が最善最強です。健康経営とは従業員の「食事・運動・睡眠」に対する意識を高め、行動を促進することではないかと考えます。

そのためには、企業組織側はまず、健康増進に対する知識や情報を提供し、自発的、継続的な健康行動を支援する施策が必要です。

例えば、

食事・・・「何をたべるのか」(栄養バランス・カロリー)
「いつ食べるのか」(血糖値・消化など)
「どうやって食べるのか」(食べる順序・よく噛む、など)
運動・・・毎日8000歩以上歩く
週に1~2回は汗をかく程度の運動をする
階段を使う
掃除をする
1時間以上、座りっぱなしにしない  等
睡眠・・・1日7時間以上睡眠をする
午前0時以前に就寝する
寝る前にスマホを見ない  等

以上のような健康増進行動に対する知識を提供し、行動の継続、習慣化を促します。
行動が継続できていない人の支援を行うことが、健康経営の一丁目一番地のように思います。

そして、健康経営にもうひとつ重要なのは、人間関係などを含めた良い職場環境づくりです。うつ病の原因に「人間関係によるストレス」「環境変化によるストレス」の影響が大きいといわれています。

このことは、健康経営であり、働き方改革の取り組みでもあります。
いかにひとりひとりがイキイキと仕事に向き合えるように、柔軟な働き方を含め、環境を整備すること。そして、互いに信頼しあえる人間関係が築けるような組織マネジメントを実現することが、健康経営に欠かせない点だと思います。

「健康経営」は健康をテーマにした「自律型人材の育成」と「管理者育成」プログラムと考えてみる

健康を保持・増進させるには、食事、運動、睡眠を自発的に行動できる、すなわちセルフマネジメントができることが求められます。健康への自発的な行動を促進することは、自律型人材の育成と関連した施策でもあると思います。

また、職場でいかにイキイキと働いてもらうか、成果や成長を実感してもらえるかは、心の健康に直結した課題です。これはマネジメントスキルであり、まさしく管理者育成でもあります。

健康経営を健診結果の数値管理ばかりに気を取られていると、健康経営が目指すイキイキとした組織づくり、イキイキとした人材づくりに基づいた高い生産性向上という目的から離れてしまいそうです。
それよりも、イキイキと健康的な人材育成、イキイキとした職場をつくるマネジメントスキル向上施策として取り組んでみてはいかがでしょう。

働き方改革と健康経営は一体として取り組む

働き方改革の象徴的な取り組みに長時間労働の是正があります。これは、労働強化による心身の疲労が安全配慮義務違反に問われかねないところから起こっています。まさしく従業員の健康が脅かされるという問題が背景にあるのです。

働き方改革には、在宅勤務や直行直帰、副業の許可など柔軟な働き方も検討されています。このことは、いかにイキイキとした組織をつくり、従業員のイキイキを引き出し、生産性を向上させるのかという課題解決の施策の模索でもあります。

健康経営は働き方改革と一体として考え、取り組んでいくこと
ー健康経営の取り組みがより具体化するように思います。

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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執筆者プロフィール

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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