ブログ

自己効力感(エフィカシー)とは?高め方とマネジメントへの活かし方を解説

「挑戦したい」「課題を解決したい」という気持ちがあっても、なかなか実際に行動を起こせないことがあります。この状況を打破するために何が必要でしょうか?多くの方は、「問題を解決するための具体的な方法」を検討することが大切だと考えるでしょう。

方法の検討は必要です。しかしこれが行動を起こすための全てではありません。もうひとつの鍵は、「自分ならできる」と心の中で自分を信頼できているか、という心の状態にあります。

「自分ならできる」という行動への自己信頼は、「自己効力感(Efficacy – エフィカシー)」という心理学の概念で理解することができます。本コラムでは、この自己効力感について、実際の職場での活用を念頭において解説します。

本記事を読むことで、自身の自己効力感を高めること、さらには他者の自己効力感を高めるサポートのヒントを得ることができます。ぜひノウハウを活かしてもらえると嬉しいです。

自己効力感(エフィカシー)とは?

自己効力感の定義

自己効力感とは、「自分はある状況で、必要な行動をうまく実行できるという、自分の能力に対する信念や自信のこと」を指します。心理学者のアルバート・バンデューラによって提唱された概念です。重要なのは、これが漠然とした自信ではなく、「自分はできそうだ」「自分になら可能だ」という、特定の目標や行動に対する具体的な感覚であるという点です。

自己肯定感との違いの明確化

自己効力感は「自己肯定感」と混同されがちですが、両者は異なります。

項目 自己効力感 (Self-Efficacy) 自己肯定感 (Self-Esteem)
対象 特定の領域に対する目標や行動
(例: 英語でのプレゼン)
自分自身の価値全体
(自分には価値がある)
内容 特定の領域に対する目標や行動を
遂行できるという能力への知覚
自分自身の存在価値そのもの
に対する感情的な評価

例えば、自分自身を尊重し受け入れる「自己肯定感」が高い人でも、全く経験のない英語でのプレゼンテーションを前にして、「自分には無理かもしれない」と「自己効力感」が低くなることは十分にあり得ます。逆に、「自己肯定感」が低い人でも、英語のプレゼンに対しての自己効力感を持つことができます。両者は関連するので、自己効力感が高まることで、ひいては自己肯定感が高まることがあります。

管理職が部下のサポートにおいて特に注目すべきは、自己効力感です。なぜなら、自己効力感は特定のタスクに紐づいているため、直接介入して支援することができるからです。

モチベーション(やる気)との関係性

「やる気が出ないから行動できない」と考えがちですが、やる気とは一時的でアップダウンしやすい感情をさす概念です。一方で、自己効力感は安定的であり、人が行動を起こすためのより確固たる土台となります。また、自己効力感は計測が可能で、かつ高めることが可能です。

なぜ今ビジネス現場で自己効力感が重要なのか?

パフォーマンス向上との関連性

自己効力感が高い人材は、ビジネスにおいて高いパフォーマンスを発揮する傾向があります。

  • 挑戦を前向きに受け入れ、難しいタスクや高い目標を自ら選ぶ
  • 目標達成のために行動を起こし、その努力を惜しまない
  •  困難な状況に直面しても、粘り強く耐えることができる

自己効力感は、このように挑戦意欲、努力の持続性、そして逆境への耐性を高めるため、個人の生産性と組織全体のパフォーマンスを左右する決定的な心理的要因であると言えます。

離職への影響(特に、20代プロパー社員)

転職経験とワーク・エンゲイジメントの関係を取り上げた会社員2万人への調査(三菱UJFリサーチ&コンサルティング)の調査によると、20代のプロパー社員のワーク・エンゲイジメント(仕事への熱意や没頭度)を改善する上で、エフィカシー(自己効力感)が他の年代・属性に比べると非常に重要な要素として位置づけられていることが結果として明らかになりました。20代プロパー社員の離職問題は企業の喫緊の課題です。

なお、同調査で楽観性(オプティミズム)は、ワーク・エンゲイジメントを高める上でプロパー社員・中途社員のどちらにも共通して重要な因子として明らかにされていますが、この楽観性は自己効力感と関連が深いものです。これは次の「心理的資本」についての解説で述べます。

「心理的資本」の中核としての重要性

近年、ビジネス界で注目されているのが「心理的資本(Psychological Capital / PsyCap)」です。これは「目標達成や課題解決のために前に進もうと行動を起こすためのポジティブな心のエネルギー」を指します。人的資本経営の土台であり、ワークエンゲージメントを高める要因のひとつです。

心理的資本は、以下の4つの要素「HERO」から構成されています。

  • Hope: 意志と経路の力(目標へ向かう『意志の力』と、そこへ至る道筋を描く『経路の力』)
  • Efficacy: 自己効力感/自信と信頼の力(自分ならできるという自信)
  • Resilience: 乗り越える力(逆境から立ち直り、成長する力)
  • Optimism: 柔軟な楽観力(現実を肯定的に捉え、未来を良くしようとする力)

この中でも、Efficacy(自己効力感)は心理的資本のコア(中核)となる概念です。となぜなら、「自分ならできる(Efficacy)」という確信がなければ、未来への希望(Hope)を具体的に描くことも、逆境を乗り越えよう(Resilience)とする意志を持つことも、物事を楽観的(Optimism)に捉えることも困難になるからです。

自己効力感を開発する4つのアプローチ

自己効力感は、生まれ持った才能ではなく、後から開発できるスキルです。バンデューラは、自己効力感を高めるための具体的な4つの方法を提唱しています。

1. 達成体験 (Enactive Mastery Experiences)

自己効力感を高める上で最も効果的な方法です。重要なのは、必ずしも華やかな成功体験である必要はなく、試行錯誤のプロセスそのものから得られる「ここまでできた」という実感です。たとえ失敗に終わったとしても、挑戦した経験自体が次への自信の糧となります。

  • 個人の実践例: 「1億円売り上げる」という大きな目標ではなく、「まず今日は営業先候補を10件リストアップする」といった「ステップ・バイ・ステップ法」で行動目標を立て、それを実行する。
  • マネジメントでの活用例: 部下に大きなタスクを丸ごと任せるのではなく、小さなステップに分解し、一つひとつの完了を支援することで「できた」という体験を積み重ねさせる。

2. 代理体験 (Vicarious Experiences)

自分と似たような立場の同僚や仲間の成功・努力する姿を見聞きすることで、「あの人にできるなら自分にもできるかもしれない」と感じる体験です。ロールモデルを見つけることで、成功への具体的なイメージを描きやすくなります。

  • 個人の実践例: 自分と近いキャリアを持つ先輩の仕事の進め方を観察し、真似してみる。
  • マネジメントでの活用例: チームミーティングで個々の成功事例を共有する場を設け、「自分ごと」として捉えられる機会を作る。

3. 言語的説得 (Verbal Persuasion)

上司や同僚、専門家など、信頼する他者からのポジティブなフィードバックや励ましの言葉です。「あなたならできるよ」「その調子でよくやっているね」といった声かけは、人の行動を後押しします。特に、尊敬・信頼する相手からの言葉は効果が高いとされています。また、「自分ならできる」と自身に声をかけるセルフトークも有効です。

  • 個人の実践例: 自分にポジティブなフィードバックをくれる人を見つける/困難なタスクに取り組む前に、「自分なら大丈夫」とアファメーション(肯定的自己暗示)を唱える。
  • マネジメントでの活用例: 部下の望ましい行動に対し、「(状況)の時に、(行動)してくれたことが、(影響)という良い結果に繋がった。素晴らしいね」といった、具体的な行動と結果をセットで伝えるフィードバックを実践する。

4. 情動的喚起 (Physiological and Emotional States)

心と体の健康状態も自己効力感に影響を与えます。過度な緊張や疲労、不安は行動を抑制しますが、適度な緊張感や「ドキドキ・ワクワクする」といったポジティブな高揚感は、行動へのエネルギーとなります。

  • 個人の実践例: 大きなプレゼンの前には十分な睡眠をとり、リラックスできる時間を作るなど、自身のコンディションを主体的に管理する。
  • マネジメントでの活用例: チームメンバーが安心して挑戦や発言ができる「心理的安全性」の高い環境を構築する。これが、ポジティブな生理的・情動的状態を組織的に育む土台となる。

上記の実践例、活用例は一例です。自己効力感を高める様々な方法は、長年、自己効力感を含む心理的資本開発の支援実績のあるBe&Doが「ガイディング」として体系化しています。


※無料の下記オンライン動画講義でも自己効力感(エフィカシー)を解説しています。

ー行動につながる自信の正体ってどんなものなのか?エフィカシーを解説!
ー行動につながる自信を育む4つの方法を知る!エフィカシーの開発法とは?

組織・個人の自己効力感の計測方法

自己効力感の計測方法は、アルバート・バンデューラ博士が提唱した「一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)」などがあります。

ウェブツールによる組織や個人における自己効力感の計測は、HEROIC診断(Be&Do提供)で行うことができます。Webアンケート方式で31問の設問に答えることで、自己効力感を含む心理的資本の構成要素(HERO)および関連項目の測定が可能です。質問票は、大阪大学大学院経済学研究科教授 開本浩矢氏の監修により、Be&Doが独自に開発したものです。

実際のHEROIC診断を活用した支援事例は、以下の記事をご確認ください。

①「辞めたい」と言われる前に問題を拾い上げ、環境を改善する(㈱ホンダカーズ大分中央)
全社員で診断を行い、「新卒+数値が低い方」を中心に面談者を選定して、人事担当より面談フォローを行っています。

②メンバーの内面の支援に「心理的資本診断」を用いた1on1が有効(㈱最上インクス)
現場リーダーが診断結果レポートを用いた1on1を行っている具体事例です。

③心理的資本診断を活用した研修の現場レポート(講師:山崎さん@大分市)
HEROIC診断結果を活用したリーダーシップ研修の事例です。

まとめ

きっとこの記事にたどり着き、ご覧くださった方の多くは、人がいきいきと取り組み、成果を出すためには “内面的なエネルギー” が大切だということを、すでに経験から感じておられるのではないでしょうか。
この内面的なエネルギーはビジネス現場において、これまでどこかつかみどころがなく、曖昧なものとして扱われがちでした。また、企業の人事も環境整備には取り組んできたものの、個々人の内面の状態への支援は現場に任せるという姿勢をとり続けてきた側面がありました。

しかしいま時代が進み、自己効力感や心理的資本といった概念に注目が集まり始めました。多くの研究者が積み重ねてきた知見を活用しない手はありませんし、すでにビジネス現場での実践も進んでいます。
ぜひあなたの職場でも、自己効力感や心理的資本の考え方を味方につけ、大いに活用していただければと思います。

PsyCap Master(心理的資本開発指導士)認定講座はこちら
HEROICライセンスパートナーはこちら

赤澤智貴

赤澤智貴

株式会社Be&Doの事業開発ディレクター。学生時代、野球部キャプテンでチームマネジメントの失敗を経験し、「人を怒りでコントロールするのではなく、前向きな気持ちやモチベーションを引き出すリーダーシップ」が重要と気づく。新卒で採用支援会社にて企画営業を経験した後、2019年に株式会社Be&Doに参画。事業開発全般を担い、個人・組織の心理的資本の向上を追及している。また、アンガーマネジメントの普及活動にも取り組み、関西支部副支部長 兼 本部委員としてコミュニティ運営にも携わる。プライベートでは2025年より社会人お笑いに挑戦中。

心理的資本の概要/高める方法を資料で詳しく見る!心理的資本とは、人が何か目標達成を目指したり、課題解決を行うために前に進もうと行動を起こすためのポジティブな心のエネルギーであり、原動力となるエンジンです。「心理的資本について詳しく知りたい」方は、以下の項目にご入力のうえ「送信する」ボタンを押してください。
◆資料内容抜粋 (全16ページ)
・心理的資本が求められる背景
・心理的資本の特徴
・構成要素「HERO」の解説/開発手法とは? など

関連記事

執筆者プロフィール
赤澤智貴

赤澤智貴

株式会社Be&Doの事業開発ディレクター。学生時代、野球部キャプテンでチームマネジメントの失敗を経験し、「人を怒りでコントロールするのではなく、前向きな気持ちやモチベーションを引き出すリーダーシップ」が重要と気づく。新卒で採用支援会社にて企画営業を経験した後、2019年に株式会社Be&Doに参画。事業開発全般を担い、個人・組織の心理的資本の向上を追及している。また、アンガーマネジメントの普及活動にも取り組み、関西支部副支部長 兼 本部委員としてコミュニティ運営にも携わる。プライベートでは2025年より社会人お笑いに挑戦中。
研究員リスト
  • 赤澤智貴
  • 小西ちひろ
  • 橋本豊輝
  • 石見 一女
  • Li Zheng
  • 心理的資本研究員
  • 下山美紀
  • 舞田美和
  • 岡本映一
  • 雪丸由香
最近の記事
  1. 自己効力感(エフィカシー)とは?高め方とマネジメントへの活かし方を解説

  2. 【組織開発】チームが噛み合わない原因は?個人の弱みを資産に変える相互補完のアプローチ

  3. 従業員の「なんとなく不調」、放置していませんか?年間7兆円の経済損失を生む「見えないコスト」の正体と、今すぐできる対策

TOP