新型コロナウィルスによる「働く環境」の変化で、これまで必要だと思われていたものが実はなくても大丈夫だったり、やはりなくてはならない、と再確認したり…と、ものごとの必要性について考える機会が増えました。
たとえばハンコや名刺。今まで必要不可欠とされてきたアイテムも、社会変化の中で重要度を下げています。逆に重要度が上がったものは何でしょうか。家のWi-Fi速度や、WEBカメラなどは、すでに「ないと仕事ができないもの」のレベルに達していますよね。
重要度が再認識されたのは、アイテムに限りません。人とのコミュニケーションやつながりの形など、人やソフト面にもスポットが当たり始めています。
今回は、人にかかわることの中でも重要性を再認識されている、「メンター制度」について考えてみたいと思います。
目次
メンター制度とは
メンターとは、新入社員や若手社員の悩みに対してアドバイスやサポートする先輩のこと。メンターには年齢や社歴の近い、中堅層の先輩社員が選ばれるケースが多く、サポートされる側は「メンティ」と呼ばれます。
客観的なアドバイスができるよう、一般的にはメンターはメンティとは別部署の人が選ばれます。仕事上の目標のためだけではなく、人間関係の悩みなどにもアドバイスし、メンティの自発的な成長を促す方法です。
メンター制度が注目される背景
メンター制度が求められるようになったのには、3つの理由があります。
【理由1:人材育成に掛ける時間が確保できない状況】
終身雇用や年功序列が当たり前だったころは、ゆっくりと時間をかけた新人育成ができました。しかし、今や終身雇用制や年功序列は崩壊寸前。今までのように新人教育に時間をかけることが難しくなり、並走して育成できる仕組みが必要になりました。
【理由2:師弟関係を築くことが難しい】
先行きの見えないVUCAの時代です。会社員の経験が長ければ正解を持っている…というわけでもなくなりました。必ずしも、直属の先輩がいい指導ができるかというと、そうとは限りません。縦割りの師弟関係を築くことが難しくなったため、相性を加味したメンター制度に注目が集まっています。
【理由3:サイロ化や孤立化が進む】
労働時間の短縮や働き方の多様化により、若手社員が孤独を感じる場面が増えました。チームワークや人とのつながりの減少は、若手社員の早期退職を増やす可能性があります。メンター制度に期待される最大の効果は、「若手社員の離職防止」。さらにメンターとメンティの間に親密な関係性を築くことができれば、社内の雰囲気も明るくなり、全体的な社員満足度の向上も期待できます。
メンター制度のメリット
メンター制度のメリットを、メンター・メンティそれぞれの立場からもう少し詳しくみてみましょう。
●メンティのメリット
・ささいな悩みを相談できる相手がいる安心感
・年齢や社歴が近いメンターなら、将来のキャリアを想像しやすい
・孤立感がなくなる
●メンターのメリット
・メンターとして責任感が増す
・改めて会社や仕事について深く学ぼうとする
・マネジメント能力が向上する
テレワークで高まるメンターの必要性
一気に普及したテレワークですが、同じオフィスで他のメンバーと働くのとはかなり勝手が違います。チームメンバーとのコミュニケーションに悩んでいる人も少なくはないでしょう。
ある程度、社会人経験のある人でもやりにくさを感じるのですから、社歴の浅い若手社員はなおさら不安を感じています。ちょっとした気晴らしになる雑談的コミュニケーションもなく、たった1人で、長時間もくもくと行うテレワークには、相応のストレスがかかります。気づかないうちに負荷が溜まり、メンタルヘルスに不調が出てくるかもしれません。
そこでメンターの登場です。気軽に話せるメンターがいるということだけで、若手社員の不安は軽減し、心は晴れやかになるでしょう。そのためにも、日頃から気軽に相談できる関係性が必要ですね。
テレワークで求められる理想的なリーダー
テレワーク時代の若手に必要なのは、メンターだけではありません。それぞれが自主的に動ける環境と、自律性の育成です。
チームメンバーの自律性を成長させるために必要なのは「サーバントリーダー」です。「サーバントリーダー」は「支援型リーダー」とも呼ばれ、従来の「支配型リーダー」とは異なります。命令して部下を動かすのではなく、部下を信頼し、協力しながら仕事をこなす新しいタイプのリーダーともいえるでしょう。
この「サーバントリーダーシップ」の考え方は、「メンター」の心得にも通ずるところがあります。メンター制度と並行して、サーバントリーダーシップも取り入れてみることをおすすめします。
テレワークだからこそ メンターのためのテクニック3選
メンターの立場の方に、すぐに取り入れられるテクニックを3つご紹介します。
「メンター制度」という名前が付いていなくても、部下とコミュニケーションを取り、組織を気持ちよく回すべき立場の方には、ぜひ実践していただきたいテクニックです。
1.相槌は声を出して
メンターとメンティ二人のオンラインでの会話では、意識して相槌を打ちましょう。「あなたの話、聞いていますよ」とアピールすることは、相手の安心感につながります。むやみやたらに声を出さずとも、同意や共感を示すことができますよ。
2.名前を呼んで
相槌と一緒に「相手の名前」を呼ぶ回数を増やすと、より一層効果的です。これはネームコーリングといわれる心理学の手法。名前を呼ぶことで、相手に対し、
・関心
・親近感
・社交性
を伝えることができます。また、「自分のことをしっかり覚えてくれている」と伝われば、メンティの自己承認欲求が満たされ、質問の数も増える傾向にあります。きっと会話が弾みますから、ぜひお試しください。
3.オウム返し&質問も積極的に
オンラインでも対面でも、信頼関係が築けるまでは沈黙の時間が流れがち。そんな時は意識的に、相手の言葉をそのまま繰り返しましょう。いわゆる「オウム返し」です。繰り返しで、相手の伝えようとすることを理解し、共感を示します。とはいえ、オウム返しばかりでは相手を不快な気分にさせる可能性もあります。そんな時は一言質問をプラスしましょう。例えばこんな風に。「〇〇かぁ、それでそのあとどうなりましたか?」「〇〇なのですね。因みに□□の場合はどうしますか?」
これら3つのテクニックは、どれにおいても、「まずは相手の味方になる」「肯定してから、指摘する」という共感意識が大切です。もし、「メンターとしてうまく振舞えない」と悩んでいるなら、コミュニケーションの方向性を少し変えることから始めてみてはどうでしょうか?
ちなみにこれら3つは、サーバントリーダーシップでもっとも重要視される、「傾聴」の特性にも当てはまるテクニックです。
メンター制度はメンティとメンター、両方の成長につながる
メンター制度の導入で得られるもっとも直接的な効果は、若手社員の不安の解消。その不安が解消されれば、離職者が減ります。若手社員の生産性の向上も期待できるでしょう。しかし、それだけではありません。同時にメンターも成長し、マネジメント能力が向上するはずです。
若手社員と同じくらい、中堅社員も大切。その両方にいい刺激が加わり、相互成長が促せるなら…マネージャーにとって、とても意義のある制度ではないでしょうか。若手と中堅層が盛り上がりを見せれば、マネージャークラスもうかうかしていられません。メンター制度は、会社に新しい風を吹き込む一手となるかも知れませんよ。