団塊世代の退職により安全衛生のノウハウの継承が途絶え「現場力」が低下していることが挙げられます。また、現場経験の浅い未熟練労働者の増加、危険に遭遇する機会の減った若年労働者の「危険感受性」の低下なども指摘されています。
このような状況において、新入社員や若手社員に対する安全衛生教育の重要性はますます高まっていると言えます。
また、ベテランの持つ技能やノウハウをいかにして若手・次世代に伝えていけばよいのか。多くの企業における課題なのではないでしょうか。
安全意識またノウハウ伝承について考えていきます。
若手の意識 周囲の関わり方
新年度を迎え、職場に多くの新入社員を迎えたという現場も多いのではないでしょうか。
経験3年未満の労働災害の占める割合(厚生労働省資料より引用)
<業種別> ○ 食料品製造業が最も多く、約3分の1を占めている。
○ 次いで、金属製品製造業、化学工業が多い。
<年齢別> ○ 製造業の未熟練労働者の労働災害は20歳台が最も多く26%。
○ 全労働者に対する未熟練労働者の死傷災害の割合は、20~29歳では未熟練者の災害が約7割を占めている。
職場には、様々な危険があり、機械やロボットの進化・現場での作業や作業援助がいくら進もうとも、労働災害の発生は残念ながらなくなっていないのが現状です。中でも若手社員が労働災害を発生させる確率は高い、と言えます。
労働災害を防止するためには物が不安全な状態にならないように、そして人が不安全な行動をとらないように施策を講じなくてはいけません。人が不安全な行動をとらないために教育が必要となります。
職場の危険への認識が薄いことを自覚し、自ら危険を回避し安全な作業を身につけること。新入社員・若手社員には必要となってきます。
・安全は「知っている」だけでは意味がない
・実際に安全な「行動」をする
・不慣れな場合は特に「教育」の内容を意識し実施する
・安全な行動を繰り返すことで身につく
とはいえ、新しい環境、現場のことも人間関係もよくわかりません。質問すること自体が難しいということもあるでしょう。聞けないから、自分で考えてやってしまう。危険なやり方、最悪な場合、事故につながってしまうのです。
またそもそもその作業自体が危険、その場所が危険といったことの認識もできていない状況です。
職場の周囲のメンバーがしっかりと行動を把握することが重要です。そして、しっかりと教育することも大事です。
では新入社員の安全に対する教育、どこから意識していくのがいいでしょう。
「かもしれない」の意識づけ
まずは、「かもしれない」という意識付けが大切です。
機械に衣類が巻き込まれるかもしれません。電源コードが抜かれていなければ勝手にスイッチが入り機械が動き出すかもしれません。立っているポールにつまずいて転ぶかもしれません。常に「かもしれない」という意識を持ち作業をすること、その場所における危険を察知し、安全を確認することが重要です。
仕事の内容、今から取り掛かる仕事に対してどのような危険性があるかをあらい出し、指差し呼称を行いましょう。これにより安全かつ仕事をスムーズに進める事ができます。安全に作業ができる環境整備と段取り、周囲のメンバーが先頭だって行うことが大切です。
また日ごろから、ヒヤリ・ハット報告、顧客からの苦情・称賛といったものを部署や部門、事業所の壁を越え共有することが大切です。まだまだ経験が少ない若手社員にとって安全・安心に対する知識を学ぶ機会となります。
危険要因を働く人々全員があらかじめ予知。その危険要因が生じた場合の災害事象を、災害に結び付かせないためには、労働者、スタッフ、事業主がそれぞれの立場で何をすべきで何ができるのかを日ごろから考えることが大切です。
決められた作業手順やルールを守ることを徹底
作業手順書に示されている作業手順を繰り返し練習し、体得することが重要です。
その際には安全上やるべきことやってはならないことを理解し、作業手順がわからない時は作業を止め、すぐに周囲へ確認をすることです。周囲のメンバーも若手社員や新入社員に対し、慣れたころのケガや無理やりな動作に対してはしっかり注意していくことが必要です。
この作業手順書は若手や新入社員でも分かりやすいように、文章で説明するのではなく、まず写真ですぐにイメージがわかるようにして、重要な事項は文章で補足、という形が理想です。定期的に見直しをかけ、必要と判断されれば再修正しブラッシュアップを図ることが大切です。
ルールや手順が定着するよう日頃から見えるようにしておくこと、また新入社員や若手社員の教育、配置転換時教育等にも活かすことで徹底されていきます。
ノウハウの若手への伝承
熟練者層のノウハウ、 技術。若手にいかに伝承していくか、多くの企業の課題ではないでしょうか。
そもそも問題として熟練者層は、自らが技術や技能を習得する際に先輩などから教えられた経験が少ない世代であるということです。昔は上司の背中を見て学べ、という時代もありましたが現在の若手にはそれは通用しません。とはいえ熟練者たちは若手へどのように教えていいのかが分かりません。
また、業務効率化の影響により、熟練者に若手を指導できるだけの時間的余裕があるともいえない状況です。
まずは、マニュアル作成を行うこと。仕事内容の標準を作ることができるようになり、会社全体の業績向上にもつながります。
ここで大切なのは、マニュアル化・標準化が進んだ内容は一部での実施ではなく、全社的な活動として全員に共有されることです。継続的に実施していくための組織や計画、体制の整備も必要となります。
単に標準化・マニュアル化を進め、OJTを通して技術・技能を伝承していくだけでは足りない、ということに認識が必要です。組織全体で取り組みを継続する、支援していく姿勢が必要なのです。
作業の手順やポイント等はたった一度熟練者と若手社員が一緒に作業をするだけで身につくもの、とは言い難いと思います。何度も繰り返し確認する、継続して取り組む、そういったことが重要なのです。
長期的・戦略的な視点、それこそが技術やノウハウの伝承にとって重要であることを忘れてはいけません。
次代の中核を担うのが今の若手社員です。
若手社員への知識・技術の伝承し育成していくこと。若手が活躍できそれ以外のメンバーも活躍できること。お互いに支え合い尊重し合える風土づくりに根気よく取り組むこと。
強い「現場」を創ることにつながります。