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目標設定の「常識」はウソだった?あなたの生産性を爆発させる、意外な5つの真実

なぜ、目標は達成されないのでしょうか?

新年、新年度、新しい四半期――私たちは節目ごとに意気揚々と目標を掲げます。しかし、その多くがいつの間にか忘れ去られ、達成されることなく終わってしまうのはなぜでしょうか?

世の中には「SMARTゴール」のような、目標設定に関する優れたアドバイスが溢れています。しかし、それらのテクニックだけでは不十分かもしれません。実は、産業・組織心理学者のエドウィン・ロックとゲイリー・レイサムが40年以上にわたる研究で体系化した「目標設定理論」には、私たちの「常識」を覆す、驚くべき、そして非常に強力な真実が隠されています。

この記事では、40年にわたる科学的研究の成果を、あなたが明日から使える具体的な「戦略」に翻訳していきます。一般的に見過ごされがちな、科学的根拠に基づいた5つの意外な事実を掘り下げ、あなたの目標達成率を劇的に変えるための洞察を提供します。ご一読くださいませ。

1. 「ベストを尽くせ」は、実は最悪のアドバイスだった

「ベストを尽くして頑張ります」という言葉は、意欲的に聞こえる一方で、目標設定においては最も効果の薄いアプローチの一つです。なぜなら、「ベストを尽くす」という目標には達成度を測るための客観的な基準、つまり外部参照点が存在しないからです。これは、個人が主観的にパフォーマンスレベルを決めることを許容し、結果として低い成果につながることが少なくありません。

対照的に、ロックとレイサムが400以上の研究を分析した結果、「具体的で、困難な目標」は、「ベストを尽くせ」という曖昧な指示よりも一貫して高いパフォーマンスを引き出すことが証明されています。

例えば、営業担当者に対して「売上を向上させよう」と伝えるよりも、「今月は10件の新規契約を獲得しよう」という具体的な目標を設定する方が、行動は明確になります。なぜこれが強力なのでしょうか?目標の具体性は、認知的な曖昧さを排除し、私たちの注意という限られた資源を最も重要な活動に自動的に振り向けるからです。明確なゴールポストがあるからこそ、人は最大限の力を発揮できるのです。

しかし、このように具体的で困難な目標を掲げることには、一見するとネガティブに思える心理的な副作用が伴います。それが、次にご紹介する「達成と満足のパラドックス」です。

2. 高い目標を掲げる人は、なぜ「満足度」が低いのか? ― 達成と満足のパラドックス

目標設定の研究には、非常に興味深いパラドックスが存在します。それは、最も高い成果を出す人々(困難な目標を設定する人々)が、しばしば自身のパフォーマンスに対する満足度が最も低いという事実です。

しかし、これは決して悪いことではありません。彼らの高い生産性は、まさにその「不満足」から生まれているのです。彼らは低いレベルの成果では満足しないため、より高い基準を目指して努力し続けます。この一見ネガティブな感情こそが、現状に甘んじることなく常に上を目指すための燃料となる「生産的な不満足」なのです。

高い目標を持つ人々は、より少ないものに満足しないために、より高いパフォーマンスを発揮しようとします。彼らの満足度の基準は、高いレベルに設定されているのです。これが、彼らが簡単な目標を持つ人々よりも多くのことを行う動機付けとなる理由です。

ある研究(Mento et al., 1992)では、成績評価で「A」を目指す学生は、「C」を目指す学生よりも実利的な利益(良い就職先など)を期待していた一方で、パフォーマンスに対する満足度の予測は低いことが示されました。

この「生産的な不満足」を受け入れることこそが、個人としても組織としても、継続的な成長を遂げるための強力なエンジンとなるのです。

3. 目標達成の鍵は「全員参加」ではなかった ― モチベーションの意外な源泉

「部下を目標設定のプロセスに参加させれば、モチベーションが上がるはずだ」というのは、多くのマネージャーが信じる常識かもしれません。しかし、研究結果は異なる真実を示しています。

ロック、レイサム、エレズによる共同研究では、目標の目的や根拠が明確に説明されれば、上司から一方的に「割り当てられた目標」も、部下が「参加して設定した目標」と同等のモチベーション効果を持つことが明らかになりました。もし目標が「これをやってください」と理由の説明もなく無愛想に与えられた場合、パフォーマンスは著しく低下します。重要なのは「参加」という行為そのものではなく、その目標がなぜ重要なのかという「なぜ(Why)」を伝えることなのです。

この発見がマネジメントにもたらす示唆は大きいですが、参加の主な利点はどこにあるのでしょうか?それはモチベーション向上ではなく、認知的(Cognitive)な側面にあります。参加を通じて情報交換が活発になり、目標を達成するためのより優れた戦略が生まれやすくなるのです。

これは前半で述べた原則と深く結びついています。具体的で困難な目標は、それを達成するための最良の戦略と組み合わさって初めて最大の効果を発揮します。そして、参加がもたらす認知的な利点(情報交換)こそが、チームがその優れた戦略を発見するのを助けるのです。リーダーにとっての実践的な教訓は、「全員の合意形成を必ずしも目指す必要はないが、目標の背景にある『なぜ』を伝え、コミットメントを引き出すことは不可欠である」ということです。

4. 特定の目標がパフォーマンスを「下げる」ときがある

具体的で困難な目標が常に最善とは限りません。ある特定の状況下では、パフォーマンス目標を設定することが、かえって成果を妨げる可能性があります。

それは、個人が「新しく、複雑なタスク」に直面し、まだ効果的な戦略を確立できていない場合です。

このような状況で「Xという結果を達成しろ」という具体的なパフォーマンス目標を課すと、成功へのプレッシャーや不安が生じます。その結果、体系的な学習を怠り、手当たり次第に解決策を探そうとしてしまい、結果的に失敗し、何も学べないという事態に陥りかねません。

ここで、2つ目の項目で触れた「生産的な不満足」という強力なエンジンを思い出してください。通常、このエンジンは成長を加速させますが、複雑で未知のタスクに直面したとき、その強力なエネルギーは暴走し、学習プロセスを破壊しかねません。

研究が示す解決策は、このエンジンを安全に導くための仕組み、つまり具体的な「学習目標(Learning Goal)」を設定することです。例えば、「この問題を10分で解決する」というパフォーマンス目標の代わりに、「この問題に取り組むための3つの異なる戦略を発見する」という学習目標を掲げるのです。

これにより、焦点は目先の結果から、スキルや戦略の習得へとシフトします。そして、その学習こそが、最終的に複雑なタスクにおける高いパフォーマンスへとつながるのです。

5. 目標設定の「ダークサイド」― 視野狭窄と非倫理的行動のリスク

強力な効果を持つ目標設定ですが、その適用方法を誤ると、深刻な副作用、いわば「ダークサイド」が顔を出します。リーダーはこれらのリスクを理解し、慎重に舵を取る必要があります。

視野狭窄(Tunnel Vision): 特定の目標達成に過度に集中するあまり、チームワーク、創造性、長期的な戦略的思考といった、他の重要な側面を無視してしまうリスクです。目標は羅針盤であるべきですが、時に視野を遮る壁にもなり得ます。

硬直性(Rigidity): 目標への高いコミットメントは、状況が変化した際に柔軟な対応を妨げる原因となります。当初は正しかった目標も、市場の変化や新たな情報によって時代遅れになることがあります。硬直的な目標追求は、変化への適応を阻害します。

学習の阻害(Stifled Learning): パフォーマンス目標への過度な集中は、リスクを取ることや失敗から学ぶことをためらわせる可能性があります。これは第4節で述べた「学習目標」の重要性と表裏一体の問題であり、結果を急ぐあまり、成長の機会を失うことにつながります。

目標の対立(Goal Conflict): 適切に調整されていない個人の目標が、チームや組織全体の目標と対立することがあります。個人の成果が組織の利益を損なうような状況は、慎重な目標設計によって避けなければなりません。

非倫理的行動(Unethical Behavior): 最も深刻なリスクとして、過度なプレッシャーや高すぎる報酬は、非倫理的な行動を引き起こす可能性があります。目標達成のために品質や安全基準を軽視したり、データを改ざんしたりといった行動は、短期的な成功と引き換えに、組織に長期的なダメージを与えます。

リーダーは、目標が組織全体の価値観と一致していることを常に確認し、意図せぬ結果が生まれる可能性を考慮しなければなりません。目標を達成する「結果」だけでなく、その「プロセス」がいかに健全であるかが、組織の持続的な成功には不可欠なのです。

結論:目標を「科学」して、未来を変える

効果的な目標設定は、単なるSMARTのような覚えやすいフレームワークを超えた、奥深い科学です。「ベストを尽くせ」という言葉の罠、達成と満足のパラドックス、参加型目標設定の本当の価値など、科学が明らかにした事実は、私たちの常識に挑戦を投げかけます。

これらの知見を、単なる知識としてではなく、あなた自身の目標を科学的に設計・検証するためのツールとして捉えてみてください。あなたの目標を「願い事」から、これらの原則を使って自ら実行する「実験または試行錯誤」へと変えてみるのです。そうすれば、これまで届かなかった成果を手にすることができるはずです。

私たちが提案するのは「心理的資本」のHEROのフレームワークですが、今回のテーマは心理的資本の要素のうちのHope(意志と経路の力)とEfficacy(自信と信頼の力)に大いに関係しています。

目標は具体的かつ測定可能で、チャレンジングだけど達成可能なストレッチ目標を設定する。インボルブメントを進めるためには、メンバーの参加や自己決定・自己選択を促しますが、加えて論理的に目標の意図を説明し納得を引き出せているかどうかはHopeの高まりに大きく影響します。

満足してしまった瞬間に「Will」が曖昧となり、目指す目標地点なくなります。そうすると推進力を失います。Hopeが弱くなります。そして、どんな分野領域も、本来はいくらでも追求・探究は可能で、青天井で成長ができるものなのです。これはEfficacyにつながる話です。

心理的資本の開発法について学ぶPsyCapMaster認定講座では、こうしたことも学んで実践的にケースをイメージしながらとトレーニングします。また、HEROIC診断を活用し、その結果としてHopeの値が低ければ、目標設定について丁寧に対話をすることをオススメします。

橋本豊輝

橋本豊輝

株式会社Be&Do 取締役 COO/日本心理的資本協会 事務局担当理事。PsyCap Master® Exsecutive Guide。組織活性化プログラムの開発・提供や、人材育成サービスの開発、マネジメント支援ツールの設計に携わる。企業の管理職や従業員など働く人のWellbeingをサポートする外部メンターとしても活動中。心理的資本を高める手法を追究している。著書に「心理的資本をマネジメントに活かす」(共著)中央経済社,2023年がある。

心理的資本の概要/高める方法を資料で詳しく見る!心理的資本とは、人が何か目標達成を目指したり、課題解決を行うために前に進もうと行動を起こすためのポジティブな心のエネルギーであり、原動力となるエンジンです。「心理的資本について詳しく知りたい」方は、以下の項目にご入力のうえ「送信する」ボタンを押してください。
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・心理的資本が求められる背景
・心理的資本の特徴
・構成要素「HERO」の解説/開発手法とは? など

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執筆者プロフィール

橋本豊輝

橋本豊輝

株式会社Be&Do 取締役 COO/日本心理的資本協会 事務局担当理事。PsyCap Master® Exsecutive Guide。組織活性化プログラムの開発・提供や、人材育成サービスの開発、マネジメント支援ツールの設計に携わる。企業の管理職や従業員など働く人のWellbeingをサポートする外部メンターとしても活動中。心理的資本を高める手法を追究している。著書に「心理的資本をマネジメントに活かす」(共著)中央経済社,2023年がある。

研究員リスト

  • 赤澤智貴
  • 小西ちひろ
  • 橋本豊輝
  • 石見 一女
  • Li Zheng
  • 心理的資本研究員
  • 下山美紀
  • 舞田美和
  • 岡本映一
  • 雪丸由香

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