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はじめに:なぜ、優秀な人材が集まってもチームは停滞するのか
組織開発に携わる方々で、こんな「壁」にぶつかることがありませんか?
それは、「個々のスキルセットは申し分ないのに、なぜかチームとして機能していない」という現象です。
採用要件は満たしている。ロジカルシンキングもできる。技術力もある。しかし、あの人とはやりづらい」「会議がまとまらない」「士気が上がらない」といった声が現場から聞こえてくる。
私たちはつい、その原因を「まだスキルが足りないのではないか」「役割分担が不明瞭なのではないか」と、ハード面やテクニカル面に求めがちです。
しかし、多くの組織課題において、真のボトルネックは「目に見えるスキル」ではなく、その土台にある「行動・思考特性(タイプ)の不協和音」に潜んでいます。
本記事では、個人の「弱み」や「対立」を、排除すべきリスクとしてではなく、組織を強くするための「リソース」として捉え直すアプローチについて考えます。
1. チームが機能しない原因:「スキル」の氷山と、水面下の「特性」
私たちは普段、他者を評価する際に「何ができるか(Doing)」に注目しがちです。会計知識がある、プログラミングができる、営業トークがうまい。これらは可視化しやすく、評価も容易です。
一方で、コミュニケーションの摩擦を生むのは、その人の「あり方(Being)」や「行動のクセ」です。
例えば、同じ「高い専門性」を持つAさんとBさんがいたとします。二人が協力すれば最強のはずが、なぜか対立する。よく観察すると、Aさんは「走りながら考える直感型」、Bさんは「リスクを潰してから動く慎重型」だったりします。
この時、組織開発担当者が見るべきは、二人のスキルの優劣ではなく「認知のフィルターの違い」です。
人は無意識に、自分の行動特性を「標準」として世界を見ます。
Aさんから見れば、Bさんは「動きが遅い人」に見え、Bさんから見れば、Aさんは「無計画で危なっかしい人」に見える。この相互の誤認こそが、チームの生産性を奪う見えない摩擦の正体です。
2. 弱みとは「強みの影(Shadow)」である
ここで重要な視点の転換(リフレーミング)が必要になります。
それは、「弱みとは、能力の欠如ではなく、強みが過剰に発揮された(あるいは裏目に出た)状態である」という考え方です。あらゆる特性には「光(強み)」と「影(弱み)」の側面があります。
- 「行動力」がある人(光)→ 裏を返せば「飽きっぽい」「計画が粗い」と見られる可能性がある(影)。
- 「慎重・分析的」な人(光)→ 裏を返せば「決断が遅い」「理屈っぽい」と見られる可能性がある(影)。
組織開発において「弱みと向き合う」とは、単にダメな部分をさらけ出して反省することではありません。
「私のこの弱点は、実は強みの裏返しかも」と、構造的に理解することです。
この視点を持つだけで、メンバー間の対立は「善悪の戦い」から「特性のすり合わせ」へとレベルアップします。「あの人が悪い」という人格否定から、「あの人の特性が、今は影の面として出ている」という客観的な観察へと変わるのです。
3. 組織の「化学反応」を起こす3つのステップ
では、具体的にどのように介入(Intervention)を行えば、この「弱み」を組織の力に変えられるのでしょうか。以下の3つのステップでプロセスを設計します。
Step 1:メタ認知による自己理解(Self-Awareness)
まずはリーダーを含むメンバー全員が、自分の「光と影」を言語化することです。
「自分はこういう強みがあるが、ストレスがかかるとこういう弱み(影)として現れやすい」
これを自覚するだけで、コミュニケーションの質は変わります。
例えば、アイデアマンのメンバーが「自分は拡散思考が得意だが、収束させるのが苦手で、時に一貫性がないように見えるかもしれない」と自己開示できれば、周囲はそれを「無責任」ではなく「特性」として受け止め、サポートの準備ができます。
Step 2:ラベリングを外す他者理解(Other-Acceptance)
次に、他者への眼差しを変えます。
「あの人は細かいことばかり言う」というネガティブなラベリングを外し、「あの人は、自分が見落としているリスクを検知してくれている(慎重さという光)」と解釈し直すのです。
組織開発担当者は、ワークショップや対話の場を通じて、この「翻訳作業」を支援する必要があります。
「もしかすると、Aさんの発言にイラッとしたかもしれませんが、Aさんの強みの視点から見ると、どういう意図があると思いますか?」
こうした問いかけが、メンバーの認知バイアスを解除していきます。
Step 3:システムとしての相互補完(Team Dynamics)
個人の特性が明らかになったら、最後はチーム全体を一つのシステムとして捉えます。
「私たちのチームは『アクセル(行動)』が強いメンバーが多いが、『ブレーキ(慎重さ)』役がいない。だから事故(ミス)が起きやすいのか」「議論好きなメンバーが多いから、決定のプロセスにタイムリミットを設けよう」
このように、メンバーの特性分布(ポートフォリオ)を客観視することで、精神論ではない、実効性のあるチーム運営のルールが作れるようになります。
4. 「共通言語」としてのツールの活用
こうした対話を進める際、組織開発担当者の武器となるのが、客観的なアセスメントツール(タイプ診断など)です。
生身の人間同士が「あなたのそういう所が苦手」と直接伝え合うのは、心理的ハードルが高すぎますし、感情的なしこりを残すリスクがあります。
しかし、診断結果という「データ」を間に挟むことで、「あなたと私」の問題ではなく、「タイプAとタイプB」の傾向の問題として、客観的に議論できるようになります。「共通言語」を持つことは、組織文化を変えるための最短ルートです。
おわりに:不完全な個人が、心理的安全性の高いチームをつくる
組織開発の目的は、衝突のない仲良しクラブを作ることではありません。
健全な衝突(タスク・コンフリクト)を恐れず、そこから新しい価値を生み出す「心理的安全性の高い組織」を作ることです。
そのためには、「私たちは一人ひとりが不完全である」という事実(Vulnerability)を直視する勇気が必要です。
自分の弱さを認め、他者の強みを頼る。他者の弱さを許容し、自分の強みで支える。
この相互補完のサイクルが回った時、チームは個人の総和を超えたパフォーマンスを発揮します。
「うちのチーム、なんか惜しい…」
もしそう感じているなら、それはスキル不足ではなく、互いの「影」に足を取られているだけかもしれません。
まずは、お互いの「弱み」という名の「強みの裏返し」を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。それこそが、最強のチームへの第一歩となるはずです。
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2022.09.01
HEROIC(ヒロイック)診断
ひとりひとりの“前向きな心の状態”と“思考行動のタイプ”を見える化。人と組織の可能性を引き出すアセスメントがHEROIC診断です。 HEROIC診断は、「心理的資本(Hope・Efficacy・Resilience・Optimism)」と「行動性向タイプ」を同時に可視化するアセスメントです。 個...