新卒採用、中途採用にかかわらず、人材の採用が厳しくなっています。
特に中小企業では採用に投資する人的資源や予算も限りがあるため、その傾向はいっそう強まります。
新卒採用では、大手企業に対して採用力で劣ってしまいがちな中堅企業や、学生からの認知度で不利なBtoB企業もやはり採用活動が困難を極めていると聞きます。
本記事では、人材採用にお困りの中小企業経営者さまをはじめ、本気で採用力を高めたいと考えているご担当者に知っていただきたい施策の一つを、背景やトレンドと共にご紹介したいと思います。
目次
人材が採用しづらくなってきた背景
「人手不足を感じる」と回答している中小企業が74%にのぼっています。
その理由のひとつは各社の求人増加により、採用活動が人員計画通り進んでいないことも一因です。
有効求人倍率は1973年に次ぐ高い水準を記録しており、2018年3月時点で1.59倍にのぼります。
もはや、これまで通りの採用活動をしていては、運よく採用ができていたとしても、ジリ貧になってしまいかねない状況です。
労働生産人口も減少傾向であり、増加することはあまり期待できそうにありません。
これまでIT化が遅れている業種業態などにおいても、IT化による業務効率化や、業務そのものをAIなどに代替していく動きなども加速していきそうです。
とはいえ、事業を推進し、維持し、成長していくためには人材確保が必要です。
そして人材がパフォーマンスを発揮できるような職場づくりを行っていくことも併せて必要です。
中小企業によくある採用課題
ただでさえ不利な採用市場で、中小企業はどのような採用課題があるのかふりかえってみます。
まず、1つ目にそもそも採用専任担当者がおらず、採用活動に注力できないことでしょう。多くの場合、採用担当者は兼務していることがしばしばです。経営者、または総務担当や、事業部門長が兼務していることも多いのではないでしょうか。
2つ目には、採用活動に関する情報やノウハウのストック不足です。
新卒採用などは、毎年採用をしていなければ、学生の就職活動や求人方法のトレンドにも疎くなってしまいがち。
中途採用でも同様に、欠員補充程度しか行っていなかったとしても、採用市場のトレンドを抑えておかなければ、厳しい採用市場では後手にまわってしまいます。
3つ目に、求職者から見て圧倒的に知名度がないということ。
よっぽど新規事業をしてたり、ニッチな領域でナンバーワン企業であったり、何かしらの分野で有名であることなどと特別なことがない限りは認知は無いに等しいです。
4つ目に、労働条件や福利厚生面で大手企業と比較されると厳しいことがほとんどです。
基本的な条件面で比較すると、勝負することが難しいことがほとんど。
「しっかりと安定的な条件を提示している」としても、それが差別化につながることもありません。
経済産業省中小企業庁の調査から、中小企業における「人材を確保できている企業」と「確保できていない企業」に関する比較データが公開されています。
差分を比較すると
- 人材確保のためのノウハウ・手段(19.3)
- 労働条件(労働時間、職場環境、休暇制度等)(15.7)
- 賃金(基本給・ボーナス)(15.3)
- 福利厚生(住宅手当、子育て・介護支援等)(12.3)
の順に差異が大きく、特に「人材確保のためのノウハウ・手段」について顕著です。
そもそも人材確保のためのノウハウ・手段は、日進月歩であり、採用活動が比較的に成功しているといえる企業では、「ノウハウ」といえるほど多様な手法に挑戦しながら、自社に合う採用法を探っているように思います。
ノウハウ以外の部分は、職場の制度や環境・風土などによるものも多い。
独自の取組みをしていたとしても、うまく企業広報や採用広報に活かしていなければ、効果的ではない。
人材確保のために採用情報を認知させる採用プロモーション手段とともに、自社の働き方や風土の特徴をしっかりと広報していくこと、その両面が大切でしょう。なぜなら、せっかくの応募者や内定者が条件面や風土面を危惧して辞退されてしまうということもあるからです。
例えば、就職活動をする学生が内定をもらったら、多くの場合に親御さんに相談されるでしょう。ブラック企業ではないか?安定はしているか?評判はどうか?子どもを安心して預けられるような会社か。(自律した大人なんだからどうとか、そのへんの議論はここでは割愛しますが!)
しかしながら裏を返せば、小回りの利く中小企業では、従業員を大切にする取組みは、経営者の判断さえあれば実行できるのではないでしょうか。これらをちゃんと広報するかどうかです。
最近注目されている採用手法をとともに、採用広報にも活用できる自社の従業員に対する取組みですぐにでも投資できる方法についてご紹介します。
多様化する採用活動の手法
伝統的な採用活動方法では、ハローワーク、教育機関の紹介(学校の就職担当者)、公的機関からの紹介、就活・転職サイト(求人サイト)、求人情報誌への掲載、人材紹介会社による仲介、自社のホームページでの告知、インターンシップの実施、知人友人の紹介、ジョブカフェなどがが採用活動としてよく聞くところではないでしょうか。
現在では、ソーシャルリクルーティング、ダイレクトリクルーティング、リファラル採用etc…様々な採用ツールも登場しています。これまで王道といわれるような採用手法も、HRTech分野の隆盛により役立つものも増えているようです。
ダイレクトリクルーティング
逆求人型で、求職者に対して企業側からスカウトするアプローチ方法です。
これまでも、求人情報ポータルサイト(リクナビやマイナビetc..)に、スカウトメール機能はありました。
オファー型という、休職者一人ひとりがプロフィールを充実させ、企業が直接接触を試みることができるサービスです。成果報酬型をとっているサービスが多いようです。
代表的なものとして、OfferBox(アイプラグ社)などが知られるところです。
OB訪問型リクルーティング
OB・OG訪問というものは、以前からよくありましたが、ここにもHRTechの活用がはじまっています。
企業力だけでは採用が難しくとも、社員の魅力で学生にアプローチする方法です。
就職活動中の学生だけではなく、幅広く学生に対して情報発信をして接点を持っていくことで企業をブランディングしていくことができるようなツールです。
代表的なものとしてVISITS OB(VISITS Technologies)などが知られるところです。
ソーシャルリクルーティング
SNS(FacebookやTwitterなど)を活用して行う採用活動を指します。
求人情報を載せることができるSNSも存在します。例えばビジネスSNSのLinkedinや、求人をベースとしたビジネスSNSのWantedly、名刺アプリを基盤としたビジネスSNSのEightなども求人情報を掲載できるようになっています。
採用ホームページ
会社情報に、ハードデータだけを載せるような求人情報では、求職者への魅力付けはできないに等しいです。
インターネットで応募前に情報を集める人が多い中、自社専用の採用Webサイトを作成することも、重要な施策になっています。場合によっては、マーケティング活動同様に、自社採用Webサイトに集客をするための施策を徹底するというようなことも行う価値があります。
とはいえ、自社で制作するのはコストもかかる…管理することも難しい…。
きれいな採用専用Webサイトを作成できるような採用管理ツールも登場しています。
代表例はengage(エン・ジャパン)などでしょうか。
リファラルリクルーティング
社員の友人知人を中心に、人的ネットワークから人材を紹介してもらう方法です。
昔ながらの方法ですが、これらをITを活用して行いやすくするサービスも登場しています。
代表例は、Refcome(リフカム)や、MyRefer(パーソルキャリア)などが有名です。
タレントプール
企業と求職者がゆるくつながりながら、接点を持ちながら応募意欲を醸成していくための仕組みです。
マーケティング活動でいうところの、CRMのような仕組みで、気軽に求職者は企業をフォローしていくような仕組みです。この人はうちの会社に向いているな、と感じた人を文字通りプールしておくことも企業側ができるようです。
代表例はTalentCoud(タレントクラウド)などでしょう。
適正マッチング型のサービス
既存の社員の調査情報をもとに、組織風土や人材とのマッチングをはかり、入社後のミスマッチを防いでいくタイプの仕組みです。アルゴリズム、人工知能によるマッチング支援が行われるようです。
代表例はInober(MetaAnchor)、mitsucari(ミライセルフ)などでしょう。
健康経営施策への投資を行う意義
「働き方改革」が推奨されています。その本質は、多様な人材が活躍しやすくすることで、生産性を維持向上することにあるように思います。(長時間労働是正が焦点にあたりがちですが、それはほんの一部に過ぎず)
求職者は、その会社が“ブラック”かどうかを、応募から入社を決めるまでの間にしっかりと見定めるものです。
インターネットを検索すれば、あらゆる情報が見つかるでしょう。
働き方改革の一環としてオススメな施策があります。
それは「健康経営®」です。
(※健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の商標です)
健康経営は「健康管理」ではなく、従業員がイキイキと働き続けられるような取り組みへ積極的に投資を行っていく行為です。(健康管理がHeathcareとすれば、健康経営はWell-beingを追い求めるイメージです)
もちろん従業員の安全配慮義務という面などを考慮して、健康診断の受診や、50名以上の事業所ではストレスチェックというような健康管理施策を実施していることはコンプライアンス上やっていて当然のことです。リスクマネジメント上、守りを固めるという意味で重要です。
一方で健康経営は、どちらかというと攻めの施策と言っていいのではないでしょうか。
しっかりと経営判断をして積極的に投資をしていくことで、企業イメージの向上、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。
企業イメージの向上は、求職者がその会社に応募するかどうか、内定承諾をするかどうかの判断の一つになりえます。従業員を大切にしているかどうかや、人間関係が良さそうかどうか、職場の雰囲気が良いかどうか、働きやすい職場かどうか。こうしたことを重視する求職者は多いものです。
また、従業員のエンゲージメント向上は、定着率向上やパフォーマンス向上に効果があると言われています。せっかく採用した従業員が定着し、成長をし、自律的に職務に取り組んでくれることを経営者は皆さん望んでいるのではないでしょうか。
ステップバイステップで進める健康経営と採用活動
先述した様々な採用活動の手法(伝統的な方法も、新たに登場している方法も)は、求職者に認知をしてもらったり、応募を集めたり、応募者とのマッチングをはかったり、応募者とのリレーションを築いていくための手段でした。
しかしながら、そもそも働く人にとっても求職者にとっても魅力的な会社(組織)にしていかなければ、根本的な解決にはなりません。
求人情報に会社の特徴や、社内の様子を書くときに魅力的な社内の活動や工夫のことを堂々と表現できるでしょうか。また、友人知人などの紹介を得たい場合、社員にとって友人に進めたくなるような職場環境でなければはじまりません。
「この会社で働くと、楽しく働けそうだ!」「イキイキとパフォーマンスを発揮できそうだ!」「長く働けそうだ!成長できそうだ!」というように感じてもらわなければはじまりません。
健康経営は取り組むことで、公的な第三者の認証を得ることもできます。
健康経営優良法人(ホワイト500)の制度や、各自治体が表彰をしていたり、地銀が健康経営を推進している企業に金利を優遇したりしているわけです。これらにチャレンジするというのも一つの方法ですし、第三者の認証には説得力がありますね。
そこまでチャレンジすることが難しくても、すぐにできることはたくさんあります。
大切なことは、第三者認証をとることよりも「実態が伴った」健康経営をすることだと思います。
例えば、下記のような取組みも健康経営のスタートと言っても良いのです。
- 健康経営を進めることを経営者が社内外に宣言をすること
- 健康経営推進の担当者を置く(兼務でも良いので任命する)
- スポーツなどのサークル活動に多少の補助を出す
- 休憩時にお昼寝ができるグッズを購入する
- 毎朝、健康クイズを従業員に配信する
- 各自で歩数を報告して順位表をつけたり、みんなで共通の目標を目指す
- ラジオ体操を15時になったらみんなでやる
- 社内で健康習慣を実践している人を表彰する
- 喫煙所をコーヒーマシンを置いた禁煙カフェスペースにかえる
- 健康をテーマとしたコミュニケーションの場を用意する
小さなことでも良いので、従業員が健康を意識し自律的に取り組むためのきっかけを提供したり、仕事を進めやすい人間関係づくり・コミュニケーションづくりを仕掛けたり、実行していくことでしょう。まずはここから!
慣れてきたら、様々な施策と従業員の健康状態やモチベーションの変化を測定し、PDCAをまわしていくと、かなり高度な健康経営推進になってきます。
さて、ここからが大切ですが、こうした取り組みを、しっかりと広報していくことが大切です。
こんな取組を始めました、ということをプレスリリースしても良いですし、会社のホームページにブログがあれば日々の様子を投稿しても良いでしょう。
先述した様々な手法の多くは、SNSやブログのように投稿をして採用広報を行っていくことに適したものもあります。
こうしたことに、少しだけ時間と手間を投資できれば、採用だけではなく企業価値の向上にも役立てるかもしれません。