経営資源を活かすのは「人」
「企業は人なり」は松下幸之助さんの名言と言われています。経営の資源は「人・モノ・金・情報」であり、人材はその経営資源を効率的に活かす力を有します。まさしく人的資本と言われる所以です。
上場企業が人的資本の開示の背景には、経営資源を活かしながら事業を成長させることができる人材の価値を見直されたからではないでしょうか。
ところで事業をする上で、人の存在は重要ですが、多くの会社では、人事部門は人の管理部門であり、成果を出す人を活かす使命は現場の事業部門に委ねられています。
人事部門の人も、管理だけでなく、なんとか現場に貢献したいと考えている人も多いはず。しかし、残念ながら、「人事は、所詮、ヒトゴト」という声もまだまだ聞こえてきます。
「人事はヒトゴト」
なぜ、「人事はヒトゴト」と思われてしまうのでしょうか。
ある上場企業の事業部門責任者の人の話です。
「エンゲージメントサーベイの結果が悪いとすぐに管理職研修をやろうとする。でも研修をやって職場のエンゲージメントが簡単に解決するわけはない。打ち手として研修をやるのは対外的に「やっています」をアピールしているだけだ。人事が事業部門のエンゲージメント向上支援をおこなうなら、もっと現場課題に向きあってほしい。」
「人材育成は現場で行われている。現場では、メンバーのモチベーションが業績に直結することを身をもって知っている。なので、現場ではひとりひとりに向きあい、適材適所のマネジメントが求められている。しかし、人事部は研修を人材育成という。研修は学びの機会ではあるが、これを人材育成といわれると少しズレているように感じる。」etc ……
このように、人事側の想いとは裏腹に、事業部門の現場からは「人事は形だけの取り組みをやってポイントをとろうとする。これでは現場に負担をかけているだけで、事業の成長に効果的な支援をしていない」と見られてしまいがちです。人の側面から業績の向上を支援するには、画一的な研修や制度企画・運用だけでなく、個に注目し、事業部門の課題に向きあうことが求められていますが、事業の現場に立ち入れない人事側としては、仕方のないところでもあります。
CHROの役割
現場の業績向上に人の側面から関わるために、CHRO(Chief Human Resource Officer 最高人事責任者)が大変重要です。経営幹部の一員として、事業価値を高める人材の登用や手法、評価制度の確立など、経営へのメリット・デメリット、リスクを相対的に捉えて実行に移す役割です。どうしても組織の人事管理に終始せざるを得なかった人事部の役割を大きく超えて経営の観点から人材や組織を見ていきます。
これはまさしく社長の仕事です。それだけにCHROの役割は重いのです。
CHROの肩書を持つ人の中には社内コンサルタント的な人や人事部長のような人もいるのが現状です。人事部門は専門性が必要なことも多く、会社組織の人事管理を担っていることもあり、法律の知識や管理ノウハウが必要です。ただ、私はCHROは人事の専門家というより「人を活かす立場」と考えています。
CHROがいるのに「人事はヒトゴト」と言われている会社は、CHROが機能していないのかもしれません。
人事部門の人も現場の課題解決にもっと向きあうことで、真の人材育成が実現できるのではないでしょうか。
事業部門の業績向上には管理職の心理的資本を豊かにしよう
事業部門の業績向上には、管理職の困りごとの解決支援があると思います。今の管理職は業績の管理だけでなく、人手不足、離職対策、ハラスメント、コンプライアンス、働き方改革など向きあうことが多々あり、業務のインフレ状態です。
そこに、人事部門から「おたくの部門はエンゲージメントが低いからなんとかせよ」といわれるとうんざりするのは当然のこと。その解決の糸口として管理職を支援し、心理的資本を豊かにすることから始めてみてはいかがでしょうか。
心理的資本への介入(ガイディング)は幸福や業績にも効果をもたらすという成果が研究によって示されています。
※Lupșa, D., Vîrga, D., Maricuțoiu, L. P., & Rusu, A. (2020). Increasing psychological capital: A pre‐registered meta‐analysis of controlled interventions. Applied Psychology, 69(4), 1506-1556.