あなたのまわりに、なぜか分からないけれど危機管理能力に長けていて、予知能力でも持っているかのように先回りの対応ができる人、いませんか?
「こんなこともあろうかと!」と、まるで事件が起きることを知っていたかのように、解決策や打開策をパパっと思いつく人。
あるいは、そもそもそんな危機的状況に陥ることもなく、常に状況を把握し、時代の流れを読んだ判断ができる人。
そんな有能な人たちは、いったいどんな思考でビジネスを判断して、商機を見出しているの…?
と不思議に思ったこと、一度や二度はあるのではないでしょうか。
もしかしたらその人たちは、状況を推測し予測する能力「コンセプチュアルスキル」を持っているのかも知れません。
目次
マネージャーに求められる新しいスキル
米国の経営学者ロバート・カッツは、マネージャーに求められる能力を3つに分類した「カッツモデル(カッツ理論)」を提唱しています。
【カッツモデルの3つの分類】
1.テクニカルスキル(業務遂行能力)
2.ヒューマンスキル(対人コミュニケーション能力)
3.コンセプチュアルスキル(概念化能力)
変化の激しい令和時代。
特に、これからのマネージャーにはコンセプチュアルスキルが求められていくでしょう。
ただし、コンセプチュアルが高い社員がいたとしても、その人が権限を持っていなければ、組織内で十分な力を発揮できません。
また、上司や経営者のコンセプチュアルスキルが低い場合、部下が説明や説得に時間を費やさなくてはならず、意思決定までの時間を浪費してしまうことになるでしょう。ましてや、上司も部下もスキルを持っていなければ…ずれたコミュニケーションが横行し、いったい誰が何を言いたいのか、何が課題なのかも分からない組織ができあがってしまいます。
コンセプチュアルスキルは、役職に関係なく、全メンバーが身に付けるべき必須スキルといえるのです。
コンセプチュアルに考えるってどういうこと?
コンセプチュアルスキルという言葉は、まだビジネスの現場に定着しているとはいえません。そのためまずは、最初に導入し、学ぶ人が、正しく理解する必要があります。
コンセプチュアルスキルとは、「正解のない」問題に直面したとき、物事を論理的・創造的に考えることで、周囲の人が納得できる答えを導き出す能力。つまり組織や社会の全体を視野に入れながら、総合的に情勢を判断し、政策決定を行うスキルを指します。
「うちのマネージャーにそんなスキルがあったらなあ…」なんて嘆く声も聞こえそうですが、コンセプチュアルスキルは、何も管理者やマネージャーにだけに求められているわけではありません。むしろ、部下が身に付けることで、自分や組織の力を最大化し、上司に翻弄されない環境をつくれるともいえます。
コンセプチュアルスキルを高めるためには、管理職やリーダーは「どのような理念やビジョンを共有してチームメンバーを引っ張るか」そして「チームメンバーのパフォーマンスをいかに引き出し、最大成果を得るか」を考え抜き、目先の事象にあたふたしてはいけません。
また、部下側も、「目の前の問題を分かりやすく組み立てて、図(概念)として認識してみる」または「顧客はもちろん、従業員も納得するコンセプトとは何なのか考える」という脳内訓練を行えば、自然に仕事の全体感をつかめるようになるでしょう。
そして、上司部下ともに、自分の働く動機や技術を見定め、「どのように自身を高めていくのか」という思考を常に持つようにしていくべきです。
コンセプチュアルスキルを高めるために必要なこと
コンセプチュアルスキルは、勝手には高まりません。もしあなたが、組織にこの考え方を浸透させたいと思うならば、以下の3つのポイントを念頭に置き、行動していきましょう。
① どんどん行動・経験する、させる
まずは、メンバーに業務を任せ、意思決定できる環境をつくります。人は問題を発見しても、解決策を打つまでの道のりが長いと、見て見ぬふりをするものです。そうではなく、気が付いた人が自分の裁量で問題解決できる環境を与えましょう!
その経験の積み重ねが論理的思考力を磨き、論理とは一見相容れなさそうな直感力・柔軟性を生み、他者に説明し具現化するスキルにつながります。
②チェック項目をつくり、可視化する
コンセプチュアルスキルを人事評価制度(能力評価)に加えるという手もあります。自身の評価にかかわるのであれば、今まで興味を示さなかったマネージャーたちの意識を変えさせることもできるはずです。
また、評価者自身も、意識して取り組む必要が出てきますから、一石二鳥です。
コンセプチュアルスキルを評価に取り入れる際のポイントを5つ、あげておきます。
【課題発見】問題を構造的かつ本質的にとらえ、課題として正当に認識しているか。
【課題分析】現状を客観的に正しく認識して、分析的に把握しているか。多面的に核心部分の構造を解明し、整理できているか。
【課題解決】問題・課題の打開に向けての視点と、企画提案は明確か。
【論理的思考】論理性と、柔軟な思考の幅と深み、時間的・空間的な分析を踏まえた論理展開をしているか。
【主体性】課題に対する取り組みの姿勢に、自己の主体性があるか。
どうでしょう、あなたの組織に上記の5つを満たすメンバーが増えたら、認識のずれが起きにくくなったり、価値観共有がスムーズになったり…という、理想の組織に近づくのではないでしょうか。
③ やりっぱなしは禁物! リフレクションする
最後に、スキルアップにつながる行動や経験をやりっぱなしにせず、その人のパフォーマンスを正しく評価することも大切です。チームビルディングのすべてに言えることですが、「やって終わり」ではいけません。
特に今まで「言われたことを忠実にやってきた」タイプの人は、突然コンセプチュアルスキルを身に付けろと命令されても、なかなかうまくいかないでしょう。だからこそ、小さな取り組みや、学びの結果に対し、こまめなフィードバックが必要です。
そして、誰かのコンセプチュアルスキルが高まった結果、プロジェクトの遅れが取り戻せた…チームの数字目標が達成できた…という定量的な成果が出たならば、全員で喜びましょう。
コンセプチュアルスキルを持つ人が少しずつでも増え、じわじわと伝播していくようなチームであれば、いつの間にか大きな目標を成し遂げられるでしょう。
まとめ
コンセプチュアルスキルの向上は、そうそう容易ではありません。チームとして中~長期的に取り組むべきで、すぐの成果を求めては、逆効果です。
一時的にパフォーマンスが落ちることもあるでしょう。しかし、コンセプチュアルスキルが向上すれば、個々の問題解決力が高くなり、現場で問題の解決がスムーズになるはずです。
柔軟で、先入観のない自由な発想ができるようになる。
新しい着眼点からのイノベーションが生まれる。
他者の心理をおもんばかれるようになり、人間関係が改善し、人材定着につながる。
いいことづくめのコンセプチュアルスキル。個人としてスキルを磨く取り組みはもちろんですが、組織としてもスキルアップの後押しが必要です。あなたが管理職、リーダーの立場にあるなら、数年先のチームのためにも、コンセプチュアルスキルを持つ部下の育成に取り組んでみてはどうでしょうか?