悩みが尽きない苦しい話題、人事評価。
どのような立場の人からみても正当な評価を下し、部下の個性に合わせたマネジメントが求められますが、100点の評価はなかなか難しいはずです。
今回のテーマは「イノベーションと評価」です。
イノベーションを起こすには、自由闊達な企業風土が必要です。柔軟に頭を働かせ、既存の枠をぶち壊すような、新しいアイデアを必要としている組織も多いでしょう。
しかし、なかなか若手社員からイノベーションが生まれないのはどうしてか?
それは、今までと違うことをしても、「いい評価」が得られないと、思い込んでいるからです。
上司が会社のマネジメント方針を理解し、適切な評価行動を取れていないと、イノベーションなど起きるはずはありません。あなたの会社の評価は、どうなっているでしょうか。
目次
加点評価が必要なのはなぜか?
長らく、日本の評価方法では、「減点評価」がとられてきました。
今でも教育現場では、減点評価が中心となっています。
しかし、減点評価を徐々にやめて、加点評価を取り入れる教育現場が増えてきています。日本人の、日本人的な平均主義をやめ、なにかひとつに特出した人材を育てようとし始めているのです。
そう、たとえば『Apple』を創業したスティーブ・ジョブズ氏のような、イノベーションを起こせる人材が育つ土壌づくりを目指して。
そして同じように、イノベーティブな人材を育成していくという課題に対し、加点評価の考え方をとり入れようとする企業が増えています。
加点評価とは、最初は0点であっても、良いところを見つけるたびに加点して評価をしていく方式です。
自社の中でイノベーション人材を育成するには、「失敗しても評価が下がらない」「学んで、挽回できる」という文化が組織に根付く必要があります。
しかし、企業体質はそう簡単には変わりません。そのため、新しい評価方法の導入はうまく浸透しないケースがほとんどです。さらに、古い社員から「加点評価は甘やかし」という誤った認識を持たれがちなのも、導入の妨げになっています。
とはいえ、まずは会社・上司が考え方を変えなければ、イノベーションは起こせません。
部下が評価を恐れずに自由に発言し、提案し、評価者とコミュニケーションが取れる雰囲気を作り出す必要性があるのです。
そもそも減点評価の方法とは
加点評価に対する減点評価では、100点満点であることが基準となっています。
ミスはそこから減点されていきますから、100点以上の評価は存在しません。
ノルマが達成されないと、減点。
作業手順を間違えれば、減点。
というように、最初の100点から、ダメな所を見つけるたびに減点されていきます。
また、基本的に加点されることはありません。さじ加減として、部間ごとの調整や、営業成績などの達成率が想定以上に良かった場合は、例外的に加点されることもあるでしょう。しかし基本的にはミスをするたび、非達成項目があるたびに、点数が引かれていくのです。
働く側としては、ヒヤヒヤしますよね。
そうなると、仕事の結果が数字で評価されている企業の場合は、リスクを冒して減点されるよりは現状維持を望むようになるのは、仕方ないかも知れません。
減点評価を取り入れている以上、部下が消極的になるのは避けられませんし、イノベーションが巻き起こる環境とも、言えなさそうです。
加点評価が必要となってきた背景
減点評価が当たり前だった日本企業に、少しずつでも加点評価の考え方が入り始めたのは、どうしてでしょうか。
それは、日本社会の成熟に関係しています。
かつて日本は、外国の真似をし、日本なりの技術を加え発展させることを得意としていました。
工業製品をつくるときも、まず外国製のお手本製品があり、それが「ほぼ理想の形」とされていたのです。
そして、目の前にある完成形を目指し、そこから逆算して仕事が行われていきました。
問題はここからです。
100点の製品ができても、それは目標物のコピーでしかありません。
さらに、できあがった製品がお手本と異なると、その差異分が減点されます。
もちろん製品に改良を加えることも可能ですが、「後から付け足す」といった形しか取れないので創造的な製品にはならず、今ある製品の「改良された類似品」しか作れなくなるのです。
いかにも日本的なこの方法は、弱点を補うことには長けています。
不足やミスが出るたび、改善を繰り返せばいいからです。
日本社会に、欠点の少ない、均一的・画一化されたパラメータを持つ人材が多くなった理由は、このような仕事の進め方が「よし」とされてきた背景があるのです。
しかし、技術が発展した結果、お手本となる製品はもうありません。
必要な分だけ、技術が進歩し尽くしてしまった現代においては、お手本と同じものを作るスキルではなく、ゼロから生み出す力が求められていきます。
上記の話は、製造業界に限りません。創造性が求められる時代です。失敗を恐れず、挑戦できる環境を整えることは、企業が次のステージに向かうために必要不可欠なのです。
勘違いされがちな加点評価
ときに加点評価は「マイナスは見ないようにする、甘い評価」と思われがちですが、それは全く違います。
【加点評価における、実績と点の関係】
プラスの実績=プラス評価
実績なし=ゼロ評価
マイナスの実績=マイナス評価
※マイナスはきちんとマイナスとして評価する
※100点の上限がなく、どこまでも点数を付けていい
たとえば失敗をしても、そのプロセスが有益な失敗であったり、巻き返すことができれば、プラス評価されます。つまり、マイナスがあっても、その後の実績でプラスマイナスは相殺され、プラスが大きければ総合的に加点が増えるという仕組みになっているのです。
この加点評価で浮き彫りになるのは、「何もチャレンジしない社員」。今まではプラスもマイナスもなく、のほほんと現状維持をしていた社員は、「実績なしのゼロ評価」という、会社員として辛い立場に追い込まれます。
本人は大変かも知れませんが、チャレンジ精神の高い社員から見ると、新しい仕事に取り組むたびにプラス評価される環境の方がいいに決まっていますよね。
評価を成功させるには、正当性と環境整備が大切
しかし、加点評価の導入だけではイノベーションは生まれませんし、新しい評価軸の導入は、評価者にも被評価者にも混乱を与えます。慣れるまでは時間もかかるため、全社一斉ではなく、トライアルとして部分的な導入から始めることも考えてみてください。
そして、評価方法の変更をイノベーションに結び付けるには、プロセスや戦略を評価するシステムの正当性が重要です。配点の正当性はもちろん、誰の目からみても分かるように、評価方針を開示しましょう。
さらに重要なのは、社員一人ひとりに裁量権があること。
仕事を進めるとき、いちいち上司に確認を取る必要があっては、イノベーションなど生まれません。
今まで「部下のミスは自分の減点にもなる」と、厳しくチェックしてきた上司側こそ、意識を変える必要があるのです。
まとめ:加点評価が新しい価値を創造する
減点評価のままでは、イノベーションの追求は難しいと理解いただけましたでしょうか。
これからの時代の人事評価には、失敗を許し、挽回することのできる加点評価が必要になります。
もちろん、導入が難しい部門もあれば、欧米での加点評価をそのまま受け入れることがマイナスになる企業もあるでしょう。
しかし、企業の性質は、働いている本人であるみなさんが一番よくわかっているはずです。
うまく加点評価をカスタマイズし、上司・部下ともに意識改革を進めていけば、おのずとイノベーションが起こる環境をつくり出せるのではないでしょうか。
減点主義をいつまでも続けていては、社員はいつまでも委縮したまま仕事を進めます。
いくら「アイデアを出せ」「自分の頭で考えろ」とおしりを叩いても、減点されると思えば、やる気が出るはずはありません。
この記事をお読みになったということは、改革を起こさなければ、現状維持すら難しくなる未来がうっすら見えているということでしょう。
人事評価は、成果を出した社員を評価するためでも、成果の低い社員を指導するためのものでもありません。上司と部下がコミュニケーションを取り合い、社内環境をととのえ、社員の能力を発揮しやすいように改善するためにあると、再認識してみてください。