企業が存続していくという現実。
新型コロナウイルスの影響による業績の悪化、休業や廃業といった選択をせざるを得ない企業が増加。また、単に国内競争に打ち勝つだけでなく国際競争の中で勝ち残る競争力、優位性が求められています。
目次
イノベーションが進まない現実
経営者は厳しく苦しい現実に向き合いながら、イノベーションのチャンスを見い出し、アイディアを新たなビジネスとしてカタチにしていくこと、に取り組み続けなくてはなりません。
アイディアが出せる環境づくりの構築が求められています。しかし、実際には新しい考えを出すことに困難を感じるだけでなく。そのアイディアや考えを実行に移し成し遂げる。「成し遂げる」という部分で実行者がなかなかいないことに頭を悩ませる経営者の方が多いのではないでしょうか。
求められているのは、クリエイティブな夢追い人ではないはずです。自らリスクを背負い、地道に周囲を巻き込みながらビジョンを行動に移せる人。自律的に動ける人材が本来必要なのです。
ではそれらを実現する、実現できる風土はどうしたら形成されるのでしょうか。
当事者意識や自主性をどう作るか
優秀な人材を集めたからといって、イノベーションが起こる、他社に勝る・優位性を保てるわけではありません。
組織のビジョンを理解共感し、そのうえでいかにビジョンの具現化のために動けばいいのか。社員一人一人が当事者意識をもって、自分のキャリアに自分で責任を持たないと何も生み出せません。そういったカルチャー・風土が組織には必要なのです。
人事部主導で制度の設定はできる。しかし、制度を設定したから風土が変わるかといえば、「違う」のではないでしょうか。
風土づくり
では風土づくりはどう進めていけばいいのでしょう。
みなさんの会社の上司と部下による目標設定や評価の面談。そして日常での会話。
「~しなければならない」「~すべき」といったやりとりになっていないでしょうか。
会社の方向性、チームの方向性に沿った連動性をもったものが目標として設定される。もちろん目標や方向性の統一は必要です。しかし、会社が一方的に与える目標をこなすことが本当のいい評価だと言えるのでしょうか。
今の時代上司からの指示を受けその通りに進める、それが成果に必ずしもつながるといった仕事は少なくなってきました。また、そういった中で育ってきた人材に自身でアイディアを出す、行動することを求めたとしても応えられるでしょうか。
WILL、CAN、MUST
ではどういった会話にしていくか。
WILL、CAN、MUSTの概念を持つことが重要です。
MUSTは会社や組織の方向性。これらは確かに大切であり、軸であることは間違いありません。しかし一方的に押し付けられてやる気が上がる人は少ないでしょう。
キャリアに繋げる、成長に繋がる部分はどこなのか。やりたい、チャレンジしたいところはどこなのか。WILLの視点を忘れないようにします。やる気も上がるでしょう。
そのうえで、強みや能力、経験才能、そしてスキルを用いる。その人だからできるCANの部分をうまく活かしていく。
この概念を持って互いに向き合えているか。そういった会話が交わされているか、そういった目標設定の仕方をしているか。「君だからこそ任せたい」といったWILL、CAN、MUSTが混ざり合った部分を上司が部下ごとに理解できているでしょうか。
何気ない日常のやり取りや上司と部下との会話。そのやり取りこそが、当事者意識の醸成、風土づくりに繋がることを忘れてはいけません。
年齢・役職・性別・国籍関係なくチャレンジできる環境作り
年齢や性別といった意識をなくすことも大切です。
グーグルの人事部は採用時に、国籍、性別、年齢、顔写真などは見ないといいます。
2020年7月工業製品の品質基準などの規格をつくっている「日本規格協会」は、就職活動などで使う履歴書について、性別や年齢、顔写真の欄があった様式例を取りやめたとしています。また、文具大手のコクヨは性別欄をなくした履歴書を発売する方針を発表しています。性別や外見、年齢などにとらわれない、本質的な採用が日本でも問われ始めています。
今何をやっているか、過去どのようなキャリアでやってきたか、将来の希望はどうか、この点をみることが必要。年齢・役職・性別・国籍はチャレンジやイノベーションには本来関係ないはずです。
イノベーション能力は衰えない
事実、イノベーション能力が年齢で衰えないことは研究でも示されています。
香港大学ビジネススクールの Ng 博士とジョージア大学の Feldman博士イノベーション関連能力と年齢の関係を調査。
その結果、イノベーション関連能力に関する値は年齢とともに衰えることはなく、経験の積み重ねや、それに伴う思考力や判断力、プロジェクトや組織への対応能力等の向上により、上昇することが示唆されました。
脳は年齢と共に構造が変化。瞬発的な処理能力は18歳頃がピークだとされていますが、年を重ね経験を積んでいくに従って伸びる能力もあります。
元プロ野球選手 イチローからみるイノベーション
年齢という衰えの固定概念。元プロ野球選手 イチロー(鈴木一郎)さんを見ていればイノベーションと年齢は相関しない、とみなさんも実感されるのではないでしょうか。
自分の可能性を広げることに突き進んできたイチロー選手。そして誰よりも自身が自分の可能性を信じ抜くことができる人物。数々の記録を塗り替え続けたという結果も残しています。イチローこそイノベーターと言えるのではないでしょうか。
イチロー元選手の野球に対する意欲、準備、集中力は、いろいろな形でチームに好影響を与えていました。
実績のある人が、若手と一緒に同じ立場でプレーをする。過去の実績や年齢関係なく、同じ仕事に取り組む。新しく見えてくるものや、相乗効果、イノベーションが生まれていたのです。
ダイバーシティとイノベーションの関係性
「イノベーションの父」と呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペータ。ジョゼフ・シュンペーターは、「馬車の数が増えるだけ」のような単なる量的拡大成長ではなく「馬車から鉄道へ」というような進化を伴った経済発展こそが重要であることを指摘しています。
『新しい知は常に既存の知の組み合わせで決まる』
ジョセフ・シュンペーターの言葉が表すように、もし既存アイデアの組み合わせがイノベーションの源泉だとすれば、組織や人材が多様性に富むほど、新しいビジネスを生み出せる可能性が高くなるはず。
日本経済新聞と一橋大学イノベーション研究センターが共同で作成した「日経・一橋大イノベーション指数」。世界の主要企業のイノベーション力を数値化されています。首位は米アマゾン・ドット・コムで「GAFA」と呼ばれる米IT大手が上位を独占しています。
(独自データで読み解くグローバル200社の革新力/https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/innovation-index/#/year/latest/)
イノベーションや新規事業を次々に成功させているGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple GAFA)や、ユニコーン企業。多国籍で価値観の異なる人材がチームを作っています。
女性の活躍とイノベーション
家事や育児や介護は社会が支え、男女ともシェアするという考え。日本では未だに制度も考え方も浸透が進んでいません。
世界経済フォーラムが2019年12月、「Global Gender Gap Report 2020」を公表し、その中で、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数を発表。2020年の日本の総合スコアは0.652、順位は153か国中121位(前回は149か国中110位)。G7では最下位です。
- GIIは、保健分野、エンパワーメント、労働市場の3つの側面から構成されており、男女の不平等による人間開発の可能性の損失を示しています。0から1までの値を取り、1に近いほど不平等の度合いがより高いことを示します。
日本の労働生産性、半世紀に渡り先進7ヶ国で最下位。競争力は30位(2019年)です。
欧米ではクオータ制(議員や会社役員に、一定数の女性を割り当てる制度)が導入され、女性の活躍推進を後押ししています。
市場の多様化、競争力強化のために人材多様化を推し進める。国としての強い危機感から迅速な変化を自国に課してきていたのです。
日本は他国からかなり遅れを取っていることがわかります。女性の活躍は企業のイノベーション・価値創造を実現するためにも不可欠な要素であり、ダイバーシティの一環です。政府が行った調査では、「女性が活躍する企業は業績や株価パフォーマンスが良い」という結果が示されています。
イノベーションが生まれる土壌の整備。女性の活躍推進、企業にとって喫緊の課題として取り組む必要がありそうです。
まとめ:イノベーターを生み出すために
冷静に職場を見回してみると、「こうすればうまくいくんじゃないかな」「こういったツールがあればいいのに」といったアイディアは多く交わされているはずです。自社製品やサービスに対する「うちの製品ここがこうなればいいのにね」といった意見。イノベーションの種は現場で溢れているのです。
しかし、課題となるのはそれらを実際にカタチにすること。技術、予算、周囲からの意見。そしてアイディアが成果に繋がると信じて突き進めるか、その力があるか否か。
構想を具現化するために、素早い行動をとり変化への対応していく力。本来のイノベーターとは発想を具現化する力のある存在であるはずです。
イノベーターの適性とは、アイデア・発想の豊かさではなく、チャレンジし続ける、変化し続けることができる力があるか否か、なのかもしれません。
その力は生まれ持った素質だけで決まるのではなく、誰でも行動を変えることで身に着けられる。イノベーション人材育成のためにも「行動している人を批判して自分は行動しない」といった環境を変えていくこと、土壌づくりが求められています。