目次
- 1 なぜ「優秀な個」を集めても成果が出ないのか?
- 2 三つの資本の相互作用:なぜ人的資本だけでは不十分なのか
- 3 社会関係資本:AI時代に「知恵の総和」を最大化する
- 4 「知恵の総和」を最大化させる土壌
- 5 現代の壁:一歩踏み込むコミュニケーションの欠如
- 6 心理的資本:現状維持バイアスを突破し、変化に適応する
- 7 現状維持を好む本能を「HERO」で打ち破る
- 8 経営・人事が仕掛ける相乗効果のシナリオ
- 9 見えない資本の最大化が、人事の付加価値になる
- 10 【実践編】「見えない資本」を可視化し、開発するために
- 11 1. 心理的資本(PsyCap)の測定と可視化
- 12 2. 「ガイディング」による対話の質的変化
- 13 まずは「自社の状態」を知ることから
なぜ「優秀な個」を集めても成果が出ないのか?
「人的資本経営」が本格化し、多くの企業が社員のリスキリングやスキルアップに巨額の投資を行っています。しかし、人事現場からは切実な悩みが聞こえてきます。
「高度なスキルを持つ人材を採用したのに、チームに馴染めず早期離職してしまった」 「研修を充実させているが、社員が指示待ちのままで主体性が上がらない」
知識、スキル、資格といった「人的資本(What you know)」は、いわばエンジンの排気量です。しかし、どれほど馬力のあるエンジンでも、潤滑油がなければ焼き付き、燃料がなければ動きません。
今、真に取り組むべきは、人的資本を土台としながら、それを価値へと変換するための「社会関係資本(Social Capital)」と、実行のエネルギーとなる「心理的資本(Psychological Capital)の開発です。この「見えない資本」への投資こそが、人的資本経営を成功させる不可欠なピースとなります。
三つの資本の相互作用:なぜ人的資本だけでは不十分なのか
組織のパフォーマンスを最大化するには、3つの資本が互いに影響し合う構造を理解する必要があります。
- 人的資本(What you know): 知識、スキル、経験、資格。
- 社会関係資本(Who you know / How we relate): 信頼関係、ネットワーク、共通の目的意識。
- 心理的資本(Who you are / How you act): 「やってみよう」という前向きな心のエネルギー。
これまで人的資本(研修)には投資するものの、社会関係資本(職場の活性化)や心理的資本(前向きな心の醸成)は「現場任せ・個人任せ」になってしまっているケースが多く見られました。
しかし、どれほど高度な専門スキル(人的資本)を持っていても、周囲との信頼関係(社会関係資本)がなければその知恵は共有されません。さらに、本人の心の状態(心理的資本)が低下していれば、能力を発揮しようとする意欲すら湧かないのです。この3つは独立しているのではなく、密接に絡み合い、相互に増幅し合う関係にあります。

社会関係資本:AI時代に「知恵の総和」を最大化する
企業において「社会関係資本」が重要視される理由は、単に「仲が良い」ことではありません。AIが最適解を即座に提示する現代において、人間が取り組むべきは「正解のない問い」への挑戦だからです。
「知恵の総和」を最大化させる土壌
複雑な課題を解決するには、一人の天才よりも、多様な専門性を持つ人々の「知恵の総和」が必要です。互いの強みを理解し、助け合える関係(=社会関係資本が豊かな状態)では、遠慮のない意見交換が起こり、個々のスキルが結びついてイノベーションが生まれます。
現代の壁:一歩踏み込むコミュニケーションの欠如
しかし、今の職場では社会関係資本の構築が困難になっています。ハラスメントへの過度な懸念や「空気を読む」文化により、他者へのフィードバックや異なる意見の提示が避けられる傾向にあります。表面的な「情報のやり取り」に終始する組織では、信頼関係という資本は目減りする一方です。経営・人事が意図的に、心理的安全性を担保しながら「一歩踏み込む対話」をデザインしなければ、組織の実行力は高まりません。
心理的資本:現状維持バイアスを突破し、変化に適応する
社会関係資本という「舞台」が整っても、主役である個人のエネルギーが枯渇していては意味がありません。
ここで鍵となるのが、ポジティブ心理学をベースにした心理的資本(PsyCap)です。
現状維持を好む本能を「HERO」で打ち破る
人間は本能的に変化を嫌い、現状を維持しようとします(現状維持バイアス)。経営が「DX」や「構造改革」を叫んでも現場が動かないのは、社員の心のエネルギーが不足しているからです。
心理的資本は、以下の4つの要素「HERO」で構成され、これらは個人の性格・気質とは違い開発可能な「状態」であることが科学的に証明されています。
- Hope(意志と経路の力): 目標への経路を自ら描き、進もうとする意志。
- Efficacy(自信と信頼の力): 「自分ならできる」という自信と確信。自己効力感。
- Resilience(乗り越える力): 逆境に直面しても立ち直り、適応する力。レジリエンス。
- Optimism(柔軟な楽観力): 現実的・客観的に先行きを捉える思考。
研究論文でも、心理的資本が高い社員ほど変化への適応力が高いことが示されています。
HEROを高める介入(開発)を行うことは、戦略を遂行するための「土台」を作る作業なのです。
経営・人事が仕掛ける相乗効果のシナリオ
社会関係資本と心理的資本は、個別に存在するのではなく、相乗効果を生み出します。
- 社会関係資本が心理的資本を支える: 「困ったときに助けてくれる仲間がいる」という感覚は、個人のレジリエンスや自己効力感を飛躍的に高めます。
- 心理的資本が社会関係資本を広げる: 前向きな意志(HERO)を持つ人は、自ら他者へ働きかけ、新しい信頼のネットワークを構築します。
これまで「個人の性格の問題」として片付けられてきた領域を、経営・人事が「組織的な資本開発」の対象として認識を強め、開発のアクションをデザイン・実行すること。これが、人的資本経営を単なる「研修制度の拡充」で終わらせないための必須条件です。詳しくはこの後の【実践編】でも触れます。
見えない資本の最大化が、人事の付加価値になる
「人」を資産として捉えるなら、その資産が最も輝くための環境を整えるのが人事の役割です。
2000年代の「スキル至上主義」から、現代は「関係性と心のエネルギー」の時代へとシフトしました。スキル研修という点(人的資本)だけでなく、対話を促す仕組み(社会関係資本)と、HEROを育むマネジメント(心理的資本)を統合的にデザインすること。
それこそが、AIには代替できない、人事担当者にしかできない経営に資する組織開発ではないでしょうか。社員一人ひとりの「HERO」が目覚め、それらが信頼で結ばれたとき、組織は想像を超える成果を生み出し始めることでしょう。
【実践編】「見えない資本」を可視化し、開発するために
「心理的資本や社会関係資本が重要なのはわかったが、何から手をつければいいのか?」 そう感じた人事担当者の皆様へ、具体的な「可視化」と「介入」のステップをご紹介します。
1. 心理的資本(PsyCap)の測定と可視化
心理的資本の最大の特徴は、それが「状態」であり、数値で測定できる点にあります。 まずは現状の個人と組織の心理的資本の状態を可視化することから始めましょう。
- PsyCap診断の活用: 質問紙調査により、組織や個人の「Hope・Efficacy・Resilience・Optimism」を数値化します。これにより、「スキルは高いが、レジリエンスが低下している層」や「目標設定(Hope)に課題がある部署」などが明確になり、精度の高い人事施策が可能になります。
2025.12.16
「社員の主体性を高めたい」「組織のレジリエンス(回復力)を可視化したい」人的資本経営の重要性が叫ばれる中、多くの企業がこうした「見えない資産」の数値化に挑んでいます。 その中心的な指標として注目されているのが「心理的資本(Psychological Capital)」です。 しかし、いざ測定しようと...
2. 「ガイディング」による対話の質的変化
社会関係資本を育む第一歩は、日常のコミュニケーションを変えることです。 ハラスメントを恐れて沈黙するのではなく、相手のHEROを刺激する「問い」「フィードバック」をマネジメントに取り入れます。
- Hopeを刺激する: 「このプロジェクトが成功したとき、どんなわくわくする景色が見えますか?」
- Efficacyを刺激する: 「これまでの経験の中で、今の課題に活かせるあなたの強みは何ですか?」
こうした対話を組織的に習慣化することで、協働の関係性と、自律的な心のエネルギーが同時に育まれます。
2024.05.24
ひとりひとりの心理的資本を開発すれば組織が変わる。 人と組織のイキイキを実現するために、何ができるでしょうか。 私たちは「心理的資本」を高める「ガイディング」で、人と組織のイキイキの実現をサポートします。 事業開発・事業推進を行うためにも、より良い組織づくり・組織運営を行うためにも、組織内の「リー...
まずは「自社の状態」を知ることから
「人的資本」という目に見える資産を活かすも殺すも、その根底にある「心理的資本」と「社会関係資本」次第です。 まずは、自社の社員がどのような心のエネルギーを持ち、どのような繋がりの中にいるのか、その「現在地」を測定することから始めてみませんか?
その一歩が、AI時代においても揺るがない、強靭でしなやかな組織への転換点となるはずです。
心理的資本を計測できるHEROIC診断はこちら