1980年代のアメリカで生まれた「ワーク・ライフ・バランス」という考え方は1990年代に日本に伝わり、いまではビジネスマンで知らない人がいないほど。世の中で知られる言葉になりました。
わたしたちが目にする機会が増えたのは2007年。この年に政府が「ワーク・ライフ・バランス」に指針を策定し、その後、柔軟な働き方の選択肢のひとつとして「テレワーク」が推進されるようになりました。
当時は「ふーん…。でも、うちの会社には関係ないな」と、多くの人が思っていたはず。しかしこのコロナ禍で、想定外にテレワークへの移行が進んだ、という方も多いでしょう。「テレワーク」は遠い未来のおはなしではなく、わたしたちの身近にある働き方のひとつになりました。
目次
テレワークマネジメントが必須になった!
実際にテレワークを経験された方、どうでしたか。
意外とうまくいきましたか。それとも想像以上に難しかったでしょうか。
オフィスでの仕事とテレワークには、それぞれにメリットとデメリットがあり、それをきちんと理解しておく必要があります。もちろん、テレワークだからこそ、気をつけるべきポイントもあります。
しっかり気を付けるべき点を押さえておかないと、メリットを享受できないどころか、デメリットしかない状況に陥りかねません。実際にテレワークでのチーム運営に課題を感じている方も多いはず。
本質を理解しないままのテレワークマネジメントでは、単なる部下の「監視」になってしまう危険性があります。当たり前ですが、監視マネジメントは生産性を下げるばかりです。必要なのは監視ではなく、“あなたのこと、きちんと見ているよ”という「見守り」のようなマネジメントです。
テレワークマネジメントのコツ1 「目標の明確化」
テレワークの大きな弊害は、実際に顔を合わせられないことです。顔を合わす機会が減れば、社員が孤独感を感じやすくなり、モチベーションも下がる傾向があります。そんな状況の部下たちに、今までと変わらないパフォーマンスを発揮してもらうためには、明確な目標が必要です。
テレワークにありがちな「何をすればいいのかわからない…」「優先順位ってどっちだっけ?」という不安や疑問も、しっかりとした目標があれば解消できます。迷いがなくなれば、部下たちの達成度や満足度も、オフィスでの仕事と同じくらい…もしくはもっと、上昇するでしょう。
できれば、具体的に数値を用いた目標設定をおすすめします。
テレワークだからこそ、いつもよりわかりやすい目標を心がけてください。
目標設定で注意したいポイント
目標設定で気をつけていただきたいポイントを、3つお伝えします。
1.会社の方針をきちんと示してから、個人の目標設定を
最終的な目標は、もちろん会社の業績達成です。ここをきちんと部下に理解してもらってから、個人の目標を設定しましょう。どこを目指していて、何のための目標なのかの納得がいかないと、設定する意味がなくなってしまいます。
2.通常よりも短いスパンで目標設定の見直しを
「業務の進行具合や状況に応じて、ちょっと方向性を変更しよう」。よくある事象ですよね。急な変更だからと、あえて口に出さなくても、部下に伝わる場合もあるでしょう。でも、それはあくまでオフィスで働いているときの話です。テレワークでは、社内の雰囲気は一切伝わりません。「空気読めよ」は通用しないのです。会社の方針を伝えるためにも、部下とはこまめに連絡をとり、目標設定を見直し、必要に応じて変更するといったフレキシブルな対応を心がけましょう。
3.こまめなフィードバックを
目標を設定した後のフォローも忘れてはいけません。「投げっぱなし」「任せっぱなし」では、部下は放置されているように感じ、会社は求心力を失います。進捗確認やフィードバックを怠らないように、定期的にオンラインミーティングなどの機会を持ちましょう。
テレワークマネジメントのコツ2 「業務分解と標準化」
テレワークには、「わかりやすい業務分担」が必須です。誰もがスムーズに取り掛かれるようにするため、業務を分解してみましょう。
業務の分解とは、仕事を取り掛かりやすい小さなステップに分けていくこと。いきなり大きなプロジェクトに取り掛かるのは、出社していても二の足を踏みがちになるのは当然です。「千里の道も一歩から」ではありませんが、その大きなプロジェクトを「小さな業務の集まり」に分解し、細かく積み上げていく必要があります。
「分解」は、「業務の本質の見極め」。分解を通じて、本当に必要な要素と、不必要な要素を見極めていきましょう。意外なところにボトルネックが見つかるかもしれません。
分解ができたら、業務の標準化を行います。標準化とは業務を整理し、最適な手順を決めて徹底させること。そして、誰が見てもわかるように、誰にでもできるように整えるプロセスです。標準化が行われると、「このプロジェクトは××さんがいないとわからないな…」という、誰もが聞いた経験のあるこのフレーズを耳にする機会は減るでしょう。結果業務のスピードは上がり、生産性の向上にもつながります。
また、お互いの業務への理解が深まるというメリットもあります。テレワークであっても、社員同士が仕事内容を把握しやすくなり、チームワークが向上します。
業務を見極めるときに役立つ判断基準
仕事の成果を判断するポイントとして、「QCDRS」がよく挙げられます。業務の分解や標準化の際に迷ったら、判断基準として用いてみてください。
「QCDRS」とは、それぞれQuality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)・Risk(リスク)・Sales(セールス)を意味します。この5つの要素が押さえられているかに注目しましょう。ひとつひとつではなく、5つの全体的なバランスを重視してください。
テレワークマネジメントのポイント3 「部下に応じたアサインメント」
アサインメントとは、「社員一人一人に仕事を振り分けること」です。
当たり前ですが、分解され標準化された仕事であれば、アサインもしやすくなります。
この場合、マネジメントする側には「業務の遂行」と「部下の育成」の視点が必要です。
業務の遂行ばかりに気を取られがちですが、部下育成も同じくらい重要業務。部下がいないと仕事は進まないという事実を、きちんと自覚しましょう。
そして、部下の適正を見極めた上で、信頼して仕事を任せてください。一人でできる仕事だけではなく、共同作業も視野に入れながら、各自に振り分けます。数カ月後、部下の成長スピードはグッと上がっているはずです。
テレワークマネジメントのポイント4 「進捗、成果、評価の可視化」
テレワーク環境では、部下の仕事ぶりを直接観察できません。今までのような、プロセスや勤務態度全般に重きをおいた評価は難しくなりました。これからは「会社にいる時間数」ではなく、何を生み出したかという「成果」を重視すべきです。
しかし単なる成果ばかりの評価になると、社員のモチベーション低下の恐れがあります。そのとき役に立つのが、最初にご紹介した「明確な目標設定」です。できれば評価方法を統一し、どこから見ても公平で「目標に対してどれだけの成果が出たか」を、単純成果と一緒に評価するようにしましょう。
テレワークで不安なのは、上司だけではありません。部下も、自分の働きが正当に評価されているかを気にします。だからこそ、評価基準と結果を曖昧にせず、きちんと伝えていくことが求められます。
まとめ テレワークマネジメントは難しくない
どの会社であっても、マネジメントが目指すべきは「生産性が高い社員と、仕事のしやすい環境」です。その要は、「信頼関係」。これはオフィスでの仕事であっても、テレワークであっても変わることはありません。
ただし、画面越しに「信頼関係」を築くためにはちょっとしたコツがいります。ぜひ今回の4つのコツを念頭に、テレワーク時代に沿ったマネジメント手法を取り入れてみてください。
そして、まずは上司が部下を信頼するところから始めてみませんか?テレワークマネジメントができるようになったリーダーは、アフターコロナの組織に必要なスキルを備え終わった、といっても過言ではありません。
まずは部下を信頼し、正しく評価する。
その上で、テレワーク本来の魅力である「自分らしい働き方」や「時間の柔軟性」といった魅力ある職場を構築してみてください。あなたが「優秀なリーダー」として活躍できるだけではなく、部下をも一緒に輝かせることができるはずです。