昨今よく耳にするようになった「ウェルビーイング(幸福)」。個人だけでなく組織運営などでも注目されています。
また新型コロナウイルス感染症の流行により生活様式や働き方が変化。変化に柔軟に対応し、持続的に成長する組織づくりをしていくためにも、エンゲージメントを高め、従業員の幸福感や満足感に対応していくことが求められています。
組織としてイキイキとした従業員を増やす環境を作ること。求められているのは幸福度の高い組織づくりではないでしょうか。
今回は、注目を集めるポジティブ心理学やその実データ、企業に求められていることについてみていきます。
目次
幸せ、幸福、ポジティブ心理学とウェルビーイングの関係性
ここ数年「幸せ」や「幸福」に関する研究が注目を集めています。また、仕事や人生において個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する「ポジティブ心理学」にも注目が集まっています。ポジティブ心理学に関連した多くの書籍が出版され、本屋やネット書店で見かけたという方もいるかもしれません。
「幸せ」と聞くと「Happiness(ハピネス)」「happy(ハッピー)」を思い浮かべる方も多いかと思います。ポジティブ心理学が目指している幸せや良い状態とはHappinessやhappyではなく、「well-being(ウェルビーイング)」。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念。「幸福」とも訳されますが、「Happiness」のように短期的で瞬間的な幸せを意味するのではなく、長期の持続的幸せを意味しています。
幸せがすべての源
- 仕事がうまくいくと幸せになる
- 成功すれば幸せになれる
- いい学校や会社に入れば幸せになれる
○○というもの得たから、○○が存在するから、成功したから、幸せになる、という考え方。ポジティブ心理学では「成功するから幸せになるのではない。幸せだから成功するのだ」といった考え方をします。
- 幸せだから仕事がうまくいく
- 幸せだから成功する
- 幸せだからいい学校や会社に入れる
ポジティブ心理学は、個人や社会を繁栄させ、人生をより充実させるにはどうすればよいか、という視点で発展しました。
確かに、暗い気持ちでやらされ感を持ちながら仕事や物事に取り組んでいるよりも、毎日イキイキとわくわくしながら幸せな気持ちで取り組むほうが、いい成果に繋がるであろうことは容易に想像できるかと思います。幸福、幸せこそが行動や結果の源泉となるのです。
実験で明らかにされる幸せと行動の関係
幸せが行動の源泉となっていることは、ある実験でも明らかにされています。
ジョージ・マッケロン博士はスマートフォンアプリ「Mappiness(マッピネス)」を開発し、実験に利用しました。
2万8千人の被験者(協力者)は自分のスマートフォンにこのアプリをインストール。普段どおりに生活し、1日に2回ランダムで電子音がなるタイミングで「今、どんな気分ですか?」というシンプルな質問、そして「いましていること」を回答します。
- 「今の気分はいまいちです」と答えた人は、その数時間後に散歩や気晴らしに時間を使う。
- 「今の私はハッピーです」と答えた人は、大変で面倒なことであったとしても大事なこと・やるべきことに時間を使う。
つまり、幸福度が高い人は自分を変革するような、チャレンジングな行動をとるようになるのです。
幸福度との関係はデータで明らかになっている
ジョージ・マッケロン博士の研究以外にも、多くのデータが存在します。
米イリノイ大学名誉教授の心理学者エド・ディーナー博士らの研究によれば、主観的幸福度の高い人はそうでない人に比べて創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%も高い傾向にあります。
他にも、幸福度と仕事に関係した多くの調査結果が報告されています。
【創造性】
幸福度の高い従業員は86%高い (UC BERKELEY)
【低退職率】
幸福度の高い従業員の退職率は51%低い (GALLUP)
【低事故率】
幸福度の高い従業員の事故率は41%低い (GALLUP)
【生産性】
幸福度の高い従業員は12% 高く、低い従業員は10%低い(Warwick大学)
【営業成績】
幸福度の高い営業員の営業成績は37%高い (MARTIN SELIGMAN)
【健康】
幸福度の高い従業員の病欠率は66%低く(FORBES)、幸福度の低い社員の病欠日数は、高い社員の10倍
(iOpener Institute for People and Performance)
このように幸福度の高い従業員は、創造性や生産性が高まり、欠勤率や離職率が低くなる、といった傾向が研究の結果として発表されているのです。
従業員の幸福度の向上により生産性や創造性が高まり、会社の業績向上に繋がる。その結果、会社に関わる全ての人の幸せにつながる。そういったサイクルが幸福をはじまりとして回り始めるのです。
CHO(チーフハピネスオフィサー)
こういった幸せを起源とした考えのもと、従業員の幸福向上を図る担当役員であるCHO(チーフハピネスオフィサー)を設ける企業が出てきました。
日本では耳慣れない一般的とは言えないこの役職。欧米では2010年頃からこの役職が広がり企業で登用されています。フランスでは「CHO Club」という団体があり、各社のCHOが会員となっていますが、会員数が増え続けているそうです。
CHO(Chief Happiness Officer/チーフハピネスオフィサー)とは
CHOは企業の人事に関して統括する役員。CHOの主な役割は、自社における従業員の幸福度に関する現状を把握、評価し課題を抽出・形成します。組織の幸福度を高めるために職場環境を構築し改善に努めていきます。
CHOは、経営陣として経営会議や取締役会に参画する権限があり、人事部長とは異なります。
CHOは組織にビジネスで成功する手法を提供するのではなく、社員の幸せを向上させることで、企業を成長させる責任者です。企業経営そして社員の幸せどちらも実現させるために、組織をデザインし主導していきます。
1999年、フランスのファッションブランドKiabi(キアビ)がCHOを導入。その後Googleなどシリコンバレーの先進企業が相次いで導入し、広まっていきました。
他部門と兼任せず、人事部門に特化したCHROや人事担当役員を設置している日系企業は、1割にとどまります(引用:日本におけるCHROの設置状況/経済産業省 産業人材政策室 参考資料集)。日本企業における実績はまだ少ないのが現状です。米国企業では、CHOの役職を設けてから売上が増え、社員の定着率が上がった企業もあるそうです。
幸福度の高い組織づくりが求められる
高度経済成長期には、物質的・経済的な豊かさを求め、それが幸せの姿でした。緩やかなペースの成長へと転換している現代では、心の豊かさを求めるように変化しています。
職場環境改善や福利厚生を充実させることだけでは従業員は幸せになりません。経済的・物質的豊かさだけが幸福度の決定要因ではないのです。
幸福学の視点から働き方改革や健康経営が求められるようになり、働きがい・やりがい(ワークエンゲージメント)を高めることが経営戦略の実現に不可欠なものとされています。
従来の合理的な経営というのは、合理的に社員に仕事を分配し生産性高く効率的に経営を行うことが重視されてきました。しかし、幸せに働く社員は創造性・生産性が高く離職率・欠勤率が低いことが分かってきました。合理的な経営には人の心のマネジメントが必須なのです。
まとめ:従業員の幸せが企業存続の鍵
かつての日本社会は終身雇用制。就職したら定年までの間、企業の業績向上に貢献し続けることが当たり前でした。終身雇用の終焉、人材流動化、リモートワークの拡大。個人が生活を優先し、選択することが可能な時代へと移り変わってきました。
長く働き続けてもらえる会社づくりのためにも、従業員の幸福度向上に対する取り組みは欠かせません。従業員の幸福度が高まることで、個人の生産性や成績が上がり、企業業績に繋がるといったサイクルを回すことができます。
環境の変化に負けない強い組織づくりのためには、時代にあわせて組織の在り方も変えていくことが必要です。
従業員幸福度を上げるためには、経営改革として働き方改革を推進、従業員とのエンゲージメントに対する対策を講じることが必要です。他社が行っているから行う、データを見て効果がありそうだから行うというような考え方、単なるタスクと捉えるのではなく。今後の経営を左右すると重きを置いて取り組むべきなのです。
従業員が幸せになれば、業績が向上する。この理解ができているか否か、企業存続の鍵となりそうです。