インタビュー

働き方の変容とダイバーシティ~これからは多様性を活かした企業だけが生き残るー山際邦明氏インタビュー(3)

これからは多様性を活かした企業だけが生き残るー山際邦明氏インタビュー(2)長期的なシナリオを描く」の続編です。

Profile山際 邦明 氏
豊田通商株式会社取締役副社長執行役員。
1977年に豊田通商に入社。2000年に人事部長。2003年に株式会社トーメン経営企画部長、取締役。2006年より豊田通商にて執行役員、常務、専務を経て現職。

「働き方改革」でやるべきことはまさしくダイバーシティインクルージョン

石見:働き方改革で、最近「時短ハラスメント(ジタハラ)」という言葉がでてきています。また中間管理職にしわ寄せがいっているという記事も出ています。働き方改革が本来の目的ではないものになっているように感じます。

山際:日本は、製造業など強かったところでは、男性やシニアが中心のマネジメントしてきました。まさしくハイコンテクストの中の同質性のマネジメントだったといえるでしょう。産業界としても垂直統制型、マネジメントの仕方も垂直統制型というところがあって、その中でちゃんとやってきた人間が評価されたり昇格してきたという歴史があります。
そんな中で働き方改革です。今の環境変化を見ると、多様性を活かしながらイノベーション起こすというのが本来の働き方改革の目的だと思うのです。
多様性を活かそうとすると、これまでを父性型マネジメントだとすると、これからは母性型というか、寛容度をあげるというか、EQ、SQをあげるとか、多様な価値観を認めるとか、違いを楽しめるという部分が必要になってくるんですね。
働き方改革には、寛容度をあげて多様な価値観を認めるということが必要なんだろうけど、そこを時間短縮ということだけを言われると、これまでの父性マネジメントの視点でどうカバーするかという話になるので、時間短縮だけが目的になってしまいがちなのではないでしょうか。

石見:父性マネジメント、母性マネジメントという言葉が面白いです。
多様性のマネジメントは、従来型マネジメントから大きく変換が求められているということでしょうか。

山際:今、リーダーには多様性のマネジメントが求められています。
従来のルーティンではなく、新しいビジネスを作るぐらい価値観を変えないといけない。
そう考えると、そこはデザインシンキングやリーン・スタートアップという作法が必要になってくる。スキルも高めないといけない。
今まで同質性の世界で頑張ってた人が、急に多様性もいるし、新しいビジネスの発想もいるし、こうなってきている(三角形)ので、この三角の面積を追加するっていうのはリーダーにとっては、突然のミッションという感じす。それを本質的に感じているなかで、残業時間だけ短縮しろといわれると、厳しいのではないでしょうか。

山際:今回の話も、本来は多様性で、クリエイションを起こしていくということなのに、残業時間だけが云々と言われるのは極めて危険です。
日本的なやり方のいい部分をなくして、それに置き換えて単純なものにしてしまう。それはみんなが実感ない話です。
働き方改革は、新しいイノベーションが少なくなっている日本として、多様性をインクルージョンする。母性的寛容度を上げて、デザインシンキングを含めて新しいビジネスを作るスキルも学ぶというところの面積を増やしていかないと、まずいんじゃないかと思います。

石見:いきワクプロジェクトという取り組みをされていると伺いました。いきワクプロジェクトは各部門で課題を共有し、各部門で課題解決に向けたアクションをされていると聞きました。例えば「時短」みたいな一律の取り組みでないことが興味深いです。

山際:最初は時間に着目して、取り組みをやってみました。でもそれだけだと、浅くて終わる、定着しないと感じました。
みんなの問題意識とかみ合わないところがあったのですね。そこで人事のメンバー、経営陣、営業の本部長などと本音の会議をしたときに、これからはそれぞれの本部、それぞれの組織でダイバーシティ&インクルージョンをやるなかでも、その組織の重要なテーマに照らしてやっていかないと結局は定着しないし、それで解決が見えてこそプラスのスパイラルが始まってくると思うんですよね。
全部が全部、うまくいっているわけではないのですが、そういうアプローチをしていくのが本質で、残業時間が少なくなるという結果の話をゴールにすると、おかしくなる。それは結果の一つですから。
みんながイキイキと仕事に積極的に取り組んだ結果として残業が減ったというようにならないといけないと思います。

石見:ぜひ、豊田通商さんがモデルとなってお示しいただきたいですね。現場の人は悩んでいますので。多くの企業が残業時間といったような定量でしか成果が計れないというところが問題なのかな、と。プロセスをどう評価したらいいのかわからないというところが課題なのかなと。

山際:複雑だと思うし、難しいことです。ウチもまだまだ戸惑いながら進めているところなので、他の会社にこうやればいいですよといえる状況ではありません。
こういう方向でいくのは間違ってないと思うけれど、プロセスには改善する余地があったり、リーダーの悩みに寄り添ったりといったことを追加でやっていかないといけないと思っています。
いきワクプロジェクトとして一定のレベルになったというにはまだ距離があると思っています。

石井:成果を急がないということでしょうか

山際:そうですね。結局、人間の行動とか、巻き込み方とか、協力の仕方というところが、変わっていかないと。本当の意味の組織開発が実現しないと、成果は出てこないと思っています。本音で納得してみんなが変わっていくことで定着する。
実はそこのほうがすごく大事で、定量的な結果だけが目標になってしまうと、本来大切な意識の変化、行動の変化につながらない。それでは長続きしないんじゃないかと思います。

石見:先ほどの話で、働き方改革を進めるには従業員ひとりひとりが本音で納得しないと意味がないとおっしゃいましたが、今は従業員が本音を出しにくい、出せないのではないことが多いのではないかと思うのですが、このあたりでご助言などいただければ。

山際:飲んだときに本音がでる、というじゃないですか。でもリラックスはしているんだけどそれは本気じゃないというか、真面目じゃない。一人称じゃないですよね。気楽で真面目な場、気楽って何を言っているかというと通常のポジションだとか、上下関係を気にしない場を気楽な場、真面目な場は一人称でどうするかということをみんながコミットしながら対話する場、というのが大事だと思っています。
飲み会はたぶん、気楽なんだけど、一人称にはならないので真面目ではないケースの方が多いと思うんですよ。
オフサイトミーティングというのは、その場では上下などポジションを意識しないようにする、ひとりひとりの意見は神様から出てきたことと思ってお互い、話を聞きましょうというルールでやっています。
ひとりがしゃべりまくったらだめです。だからファシリテーターがすごく大事なんです。
進めるときの原則みたいなものを用意しています。

山際:どこでどんな変化が起こっているかということって上司だから。気づきが早いわけでは無いですよね。
お客さまとの接点が一番多い中堅、若手のところに大事なヒントがあるのに、それが、「そんなことは俺たちがやってた頃にはなかった」なんて言われるとそれで終わってしまう(笑)
イキわくプロジェクトも、組織の課題をみんなでやろうというのは、そういう話なんです。
そういう場の数を少しでも多くしていくということが大事なんじゃないかな。それが文化になってくるといいんじゃないかなと思っています。

これからの働き方は“付加価値のシェアリング”。そのために個人のダイバーシティを広げなければならない。

山際:今後はプロジェクト単位で、組織の壁を越えて、プロジェクト単位で人が集まって仕事をしていく。なので、今後の働き方の中でいうと、そのプロジェクトに貢献できる強みを持っている人たちだけが、その都度集まって、クリエイションを起こしていくことになるのだと思います。
時間のシェアリングというか、付加価値のシェアリングということになってくるのかもしれません。

石見:付加価値のシェアリングっていいキーワードですね!付加価値のシェアリングを積極的にできる人材になるにはどうすればよいでしょうか。

山際:私は長い時間軸で、広く空間全体を見ながら、俯瞰・構想できるとか、発想できる人が重要になってくると思っています。しかもこれから多様な人たち、海外も含めて、産官学など一緒に共同でやっていくことを考えると、外に広げていくダイバーシティー&インクルージョンが大事なのはもちろんですが、それの前提は個人のダイバーシティーだと思うんですよ。

石見:個人のダイバーシティとは?

山際:ジョハリの窓ってあるでしょ。人から見えている部分と、自分しかしらない部分と。その中で、自分でも見えていて、相手からも見えているという部分の多様性、自分自身の多様性がもっと広がっていくことがすごく大事だと思っています。
自分自身のダイバーシティーをやる。ダイバーシティー&インクルージョンではなくダイバーシティー&エクスパンションみたいな。
自分自身でまずエクスパンションをして。セルフエクスパンション!?
英語でこんな言葉があったかどうかわかんないですけど(笑)

石見:自分自身の多様性を広げるにはどうすればいいでしょうか?

山際:グローバルアドバンスドリーダーシッププログラム、リーダーシップディベロップメントプログラムでもリベラルアーツがすごく大事だと言っています。
実はネットワークを広げる上でもイノベーションを起こす上でも、リベラルアーツはすごい大事になる。リベラルアーツの学習継続によって、自分たちのパースペクティブを広げるっていうのが今後の人材にとってすごい大事だと思います。

石見:リベラルアーツを学ぶことで個々人に哲学がうまれるのでしょうか。

山際:人間として、ボーダレスというか、壁をつくるのではなくて、オープンマインドで好奇心とか共感を持つことが大事です。
好奇心と共感というのは外に広がっていく。社会課題の解決に対しても好奇心をもって、共感を持って、多様な方々と一緒にやれるかどうか。
また、自分自身の哲学とか、想いとか、なぜ誰のために何をして私はいきたいんだというところも大事です。単純には言えないけど、一番大事にすべきことを継続していく。
経験を通して変化させていくものもあるけれど、ベースのところを、リベラルアーツの継続学習とか、実際のプロジェクトで苦労しながら感じ学んでいくことで成長するのではないかと思います。

石見:グローバル展開を進めるうえでリベラルアーツはどういう意味がありますか?

山際:海外の尊敬できるリーダーシップのあるパートナーに会うと、明らかにリベラルアーツの見識部分の深さがあります。そういう人たちとの会話がかなり深くできないと、海外でのパートナーシップも本当のものにならないと思います。自分の価値観、大義や幅広い見識は、グローバルで事業展開する上ではすごく大事です。
イノベーションは今後、社会的課題の解決につながる領域から生まれてきます。常識をどうぶち壊せるか、そして、常識の奴隷にならないように努力継続するということがリベラルだと思っています。

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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執筆者プロフィール

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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