「キャリア自律」が必要だということが言われ始め久しいですが、「キャリア自律」とは誰のためのものでしょうか?働く人のため?会社のため?
様々な調査で分かっているのが、キャリア自律度が高いと、仕事のパフォーマンスやワーク・エンゲージメント、仕事への充実感、人生への満足度が高いということです。つまりは、キャリア自律は自分のためでもあり、会社のためにもなります。そして実は社会からも要請されている働く人のキャリア自律。ウェルビーイングな状態を作っていくために、重要なピースの一つになりそうです。
今回は前向きな心のエネルギーである「心理的資本」を高める視点も踏まえ、キャリア自律を促進するヒントを見つけていきたいと思います。
目次
そもそもキャリア自律とは?
キャリア自律にはさまざまな定義がありますが、堀内・岡田(2009)によれば、「自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに、環境変化に適応しながら、主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでいること」とされています。いくつかキーワードがありそうです。
“自己認識と自己の価値観、自らのキャリア”を形成するためには、自分のことを知る・ふりかえることが一丁目一番地になります。そして、”主体的に”というのは、どういうことなのか?も一度考えた方がいいでしょう。加えて、”行動し、継続的に”というのが意外と難しい。人はなかなか行動したくても一歩踏み出せず、継続することが苦手な人も多いのではないでしょうか。自分にあった行動を起こす方法や継続のコツを身に着けておけると強いです。
働き始めて間もない人や、キャリア自律について初めて考えている人にとっては、上記のようなことを丁寧に進めことがキャリア自律への具体的な一歩となります。
1.自分を知る・ふりかえる
キャリア自律の中で、起点でもあり拠りどころにもなるのが、自分自身が何をしたいのか・どうありたいのか(=Will)です。時代の流れの中で、「自分のキャリアは自分で作らないといけない」ということは頭で理解していたとしても、それを認識しているだけでは意外と行動にまでつながりません。なぜならば、自分のWillと向き合っていないからです。Willは、キャリアにおける判断軸であり、原動力となります。
自分のWillとどう向き合ったらいいのか?自分はどんな領域にどう貢献したいのか。これを考えてみるのも一つです。領域の例として、「社会」「地域」「顧客」「会社」「チーム」「友人・知人」「家族」「自分」などが挙げられます。こういった領域それぞれで考えることによって、視野を広げることにつながります。
また、自分の持つ資産(強みやネットワーク等)を認識することも、やっておきたいことの一つです。知識やスキル、経験、人的なネットワーク、メンタリティに至るまで自分の資産となるものは多くあります。しかし、意外と自分の資産は自分では気づけないもの。そういったときには、他者の視点を借りたり、強み診断のようなものを活用してもいいかもしれません。
2.”主体的”の罠に注意し、現実的かつ柔軟に捉える
キャリア自律の定義の中に、”主体的”という言葉がなんと2回も登場します。少し危険なのは、”主体的”であらねばならない!と縛りつけてしまうことです。一般的に組織に属していると、仕事内容や仕事の判断を自分の意志で出来ない場面は多くあります。では、それに従って行動することは主体的ではないのでしょうか?
例えば、新卒入社3年目、任される仕事も増え、場合によっては難易度も高まっていて、目の前のことに追われる日々を過ごしてる人も多いでしょう。もしかすると「自分がやりたかった仕事はこれではない」「雑務も多くて無駄な事に時間をとられている」「そもそも望んだ配属ではない」そんな風に感じることも増えるタイミングかもしれません。一方で、社会や会社からはキャリア自律が大事というメッセージが発せられ、なんだか矛盾を感じたり・・・。
もしそのような時に、友人が転職をした!という話を耳にしたら、今の自分よりも主体的にキャリアを考えているように感じられたとしてもおかしくはないですよね。主体的に仕事を選ぶ=転職だ!キャリアチェンジだ!といった考えにもなる可能性もあります。しかし、きっとその勢いで転職したり、キャリアチェンジしても、暫くするとまた同じことを思うでしょう。
ここでの問題は、自らの意志と向き合うことが不十分なまま、”主体的”を環境だけの視点で考えてしまっている点です。上記の新卒入社3年目社員のような状況であったとしても、自分のWillを描くこと出来ていて、それを軸に現状を柔軟に捉え直すことできればどうでしょう?やりたかった仕事でなかったとしても、雑務だと感じられても、そこで得られる知識・スキル・経験はWillの実現に向けた糧になるかもしれません。
実は、”主体的”は捉え方次第で、生み出せるものです。どんな状況でも無理やりに、意味のあるものとして考えよう!ということを言いたいわけでは、勿論ありません。しかし、自分の身の回りに起こる様々な機会(=チャンス)を、現実的且つ柔軟に捉えキャリアの栄養にしていくという視点は、キャリア自律においても重要なものではないでしょうか。
3.行動を起こし、継続するにはコツを知る
キャリア自律は、行動と継続によって実践されます。行動を起こすこと、そして継続するために必要なのは「自己効力感(self-efficacy)」です。自己効力感とは、自分にはできる!という自分への信頼感、簡単に言えば自信を意味します。行動しよう!継続しよう!という時には、この自己効力感を高める計画デザインを同時に進めるのが効果的です。
自己効力感を高めるものの一つに「達成体験」というものがあります。成功も失敗も含め、経験値を積むという体験で、試行錯誤そのものであり、実践の場数によって習熟を目指します。達成体験を積むためには、目標をステップに分けて、具体的な行動にまで落とし込むように要素分解をして目標設定を行うことが必要です。
達成体験を数多く積むためには、目標や行動の粒度・サイズを小さくし、高い頻度で経験を積めるようにデザインします。行動できたかどうか、行動した結果をどう捉えるか、日毎や週毎などでふりかえりの機会を持ちます。
いきなり難易度が高い行動を目標に設定にしてしまうと、自分を過度に苦しめることにつながります。まずは「実践できそうだ」と思えるような難易度で行動を検討します。実践できたら、もう少し難易度のレベルを上げます。その繰り返しで「自分にもできる」という”行動する自信”を強化します。最初の一歩は、「バカバカしいくらいの簡単なこと」でいいのです。
キャリア自律の実現と心理的資本の開発
本稿では、キャリア自律の定義から、その促進をポイントを考察しましたが、ここまで整理した内容は心理的資本を開発することに繋がっています。真のキャリア自律は、高い心理的資本の持ち主にしか成し得ないことだからではないでしょうか。しかし特別なことは、あまりなかったと思います。
個人的にはキャリア自律しよう!というよりは、心理的資本を高めよう!の方がプレッシャーが少なく、進めやすいと感じています。心理的資本が高まることで、普段の仕事のパフォーマンスが上がり、キャリア自律にも繋がってくるのであれば一石二鳥!キャリア自律という視点からも、心理的資本に関心を持っていただけると嬉しいです。
PsyCap Master認定講座では、自分そして他者の心理的資本を開発する知識・スキルを学ぶことができます!ご関心のある方は、覗いてみてください。