「努力は必ず報われる」という言葉があります。また、「結果の出ない努力は努力とは呼ばない」という考え方も存在します。これらは、努力の重要性を強調する言葉ですが、一方で解釈によっては、「結果が出ないのは、本人が努力していないからだ」と捉えてしまうこともあると、筆者は感じています。
結果が出ないとき、それを裏付ける理由を結論付けたくなるのが人間です。私たちは結果が出ない状況を説明するために、わかりやすい答えとして、「努力していない」と本人の自己責任と解釈して、容易に結論づけてしまう傾向にあるのかも知れません。
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結果はコントロールできない
結果はコントロールできません。特に近年は社会の変化のスピードが急速に早まっており、先行きが見通しづらい時代となっています。努力が必ずしも目指す結果に結び付くとは限りません。しかしながら、努力しなければ結果を得ることはできません。結果を得られるかどうかはわからないけど、努力する必要があるのです。しかも、ここでの努力とは、単調な努力ではなく、目標を達成するための方法を見直し、試行錯誤を中長期で続ける努力です。場合によっては、目標自体を見直す努力も必要になるかも知れません。
努力を続けるために必要な力は何でしょうか。素直さや柔軟性など、さまざまな要素が考えられますが、筆者は強い”自信”を持つことが非常に重要だと考えています。「自分ならできる。きっと大丈夫」という前向きな心理的エネルギーで自分を信じ、努力を続けることが成果の鍵となります。
自己責任論が本人の自信を失わせる
ここで指摘したいのは、周囲の人が本人に自信を持ってもらうための関わりをするどころか、周囲が本人を責め立ててしまって、返って自信を失わせる要因になってしまっていることです。
自己責任論という言葉があります。これは、物事の結果はすべて自分自身が起こした行動が原因で、自らの責任だと捉える考え方です。例えば職場において、成果が挙げられなかった部下に対して、上司が結果にのみ焦点を当て、「努力していない」と決めつけて部下を責めてしまうようなケースがあります。
部下が努力していないという前提で部下と関わると、その後も本人の悪いところ、できていないところにばかり注目がいき、ますます批判的になってしまうことが想像されます。上司からこのような批判を受けた部下は、「自分には努力が足りない」と感じ、一時的にはがむしゃらに努力することができるかも知れません。しかしそれは持続的ではなく、中長期では自信を失っていき、疲弊してしまうことも想像されます。
藤浪晋太郎投手を例に考える
実は筆者は、当初はコラムとして今季メジャーリーグに挑戦中の藤浪晋太郎投手を題材にしたいと考え、色々と情報を集めていました。素晴らしい潜在能力を持ちながらも結果が出ない彼の現状に対し、ファンやマスコミから批判の声が挙がっていますよね。一例を挙げると、「日本時代と何も変わってない。」「練習不足なんじゃないか?」「彼の性格に問題があるのでは?」という指摘が多いように思います。確かに、そのように解釈できるネット記事等も見られます。それらの真相はさておき、筆者が情報を集める過程での大きな気付きとして、これらの指摘とは正反対のエピソードや周囲の声も数多く存在しているという事実を発見しました。「結果が出ないから、きっと彼は練習していない」という認識で彼を見てしまっているが故に、ポジティブな側面に焦点(注目)が当たらず、ネガティブな側面ばかり強調されてしまっているのかも知れません。
”ブライトスポット”の視点で部下を支援する
もしあなたが職場の上司/リーダー/教育担当者など、誰かの成果や成長をサポートするという立場であるならば、自己責任論によるネガティブ視点に陥っていないか、自分に問うことが大切ではないかと筆者は思います。もちろん、ネガティブ要素から目を逸らすということではありません。ただ大切なのは、客観的な視点で適切に物事を捉えて対処していくことではないでしょうか。
そこで有効なのが、物事の”ブライトスポット(輝く点)”にも注目しようとする考え方です。何か一部でも「うまくいっていること」に焦点をあてることができれば、自信をつけて次の行動を促す手助けとなるはずです。仮にうまくいかなかったとしても、経験値に焦点をあてて考えます。何か行動を起こして、経験から得られたものがあると捉えられれば、次に活かすことができます。
藤浪晋太郎投手が所属するアスレチックス監督のコメントを見ると、まさにこのブライトスポットの視点を持って、藤浪投手に自信を持ってもらうための支援を行っていることがわかります。ある試合前、監督はこのようにコメントしています。
「取り組みの成果が出始めている。それはいい兆候だ。この子は毎日、ハードに練習している。努力が足りないとか、変化し続けたいという気持ちが弱いわけではない。より多くのストライクを投げ、ストライクゾーンの中で自身の投球を最大限に活用できるように我々が望んでいることをやろうとしている」
(コッツエー監督コメント/2023.05.12 デイリースポーツ記事より引用)
藤浪投手自身も、「メンタルと技術のどちらかが欠けてもダメ」と、今季のある試合後にコメントしています。技術だけでは結果は出ません。メンタルをおろそかにすると、結果が出ない時にさらに技術を求めます。これでは考え過ぎて、返って投球フォームを崩すかも知れません。技術は大事ですが、技術を活かす土台であるメンタルの支援は不可欠です。アスレチックス監督のブライトスポットに注目した支援は素晴らしいと筆者は感じます。
自分に対しても、”ブライトスポット”の視点で内省する
上司など周囲の支援の仕方について私見を述べましたが、自分自身に対しても、自信を持つために思考を工夫して物事を捉えていくことが、パフォーマンス発揮の鍵を握ると筆者は考えます。
結果が出ていないとき、「自分には努力が足りないのではないか?」「能力不足なのではないか?」と自分を責めがちです。適切な反省は大事ですが、過度に自分を責めて、肯定すべき部分も含めて全てをネガティブに捉えてしまうと、自信を失い、身動きが取れなくなる可能性もあります。
ではどうするか。失敗に対する反省だけでなく、ブライトスポットの視点を持って内省することが重要です。これまで見逃していた「できたこと」「努力したこと」「感謝されたこと」をしっかりと自分の中で認識することで、その経験を自信に変えることができます。
なお、日本人の感覚として、「できたこと」に注目することに抵抗感があるかも知れません。むしろ、「我慢・辛抱・忍耐・苦労」という価値観が重要視され、辛い状況を耐え忍び、その先に光があるという考え方も広く存在します。また、うまくできたことに対しても、「俺の成果だ」とアピールすることは周囲からポジティブに捉えられなかった面があります。
しかし、単に受け身で「辛い状況を耐え忍んだその先に光がある」のであれば、ある意味で楽です。ブライトスポットの視点を持つことは、”ポジティブ”であるけれども、決して”甘い”訳ではありません。むしろ、結果が出ず苦しんでいる中でも、立ち止まって意図的に自信に気付くチャンスを作り、ポジティブな点を見出していく必要があります。楽どころか、非常にパワーが掛かります。しかも、思考の癖を変えるのは簡単ではありません。日頃からブライトスポットに注目する意識を持つことで身に付く「スキル」なのです。
さいごに:柔軟に試行錯誤を続けられる自信を!
必ず結果が出るかどうかは、誰にもわからないけれども、結果を出すためには試行錯誤を続けるしかありません。そのための鍵となる、やり遂げる自信を持って、チャレンジを続ける工夫として、ブライトスポットの視点を持つことを意識してみてはいかがでしょうか?
ただし、「自分にとって何をブライトスポットと捉えるのか?」は、重要な点です。見誤ったブライトスポットの視点で自分を過度に肯定してしまうと、成長課題に向き合わず蓋をしてしまったり、返って成長を阻害する結果になってしまいます。自分自身が冷静かつ客観的な視点を持つことはもちろん、周囲の適切なフィードバックによって、ブライトスポットの視点を有効に活用できれば、人や組織のパフォーマンス発揮に繋がります。
本コラムでご紹介したブライトスポットの考え方は、自信を得る工夫を実践するための”ガイディング”の手法の一つです。ガイディングは、HEROのフレームワークを用いて、他者や自分自身の心理的資本を高めることに活用できます。ガイディングについてご関心の方は、PsyCap Master®認定講座の情報をチェックしてみてください。ガイディングについて、多くの人に知ってほしいと思います!