「管理職は罰ゲームか」——今、日本のオフィスをこの皮肉な言葉が亡霊のように彷徨っています。
かつてはキャリアの象徴だった管理職という椅子が、今や「割に合わない重荷」の代名詞となりつつあります。背景にあるのは、現代のリーダーを襲う「5大変化(複雑化・人手不足・多様化・分散化・多忙化)」です。正解のない課題に挑み、足りない人員をプレイングマネジャーとして補い、リモート環境で価値観の異なる部下を束ねる……。この過酷な環境下で、組織の要であるはずの課長の53%が「仕事にやりがいを感じていない」という衝撃的な事実が、最新の調査で明らかになりました。
しかし、絶望する必要はありません。同じ環境にありながら、高いエンゲージメントを保ち、組織を活性化させている管理職も確かに存在します。彼らは何が違うのか。本稿では、組織心理学の知見と実態調査に基づき、管理職の「やりがい」を再生させ、負のスパイラルを断ち切るための5つの処方箋を提示します。
目次
「負担の大きさ」は、やりがいを奪う直接的な原因ではない
「仕事が多すぎるから、やりがいが失われるのだ」という考えは、実は正確ではありません。ワークエンゲージメントを分析する「JDR(ジョブ・ディマンド・リソース)モデル」に基づくと、意外な逆説が見えてきます。
調査によれば、精神的な負担は確かに意欲を下げますが、「高い成果を求められる」「長時間労働」といった仕事の要求度(デマンド)そのものは、やりがいを向上させる要因にもなり得ることが判明しました。つまり、「ストレスが敵」なのではなく、「意味のないストレス」が敵なのです。
統計的な分析の結果、常に高い成果を求められるといったプレッシャーや、一定の長時間労働は、やりがいを維持・向上させている層においてはむしろ肯定的に捉えられている側面があります。
やりがいを左右する真の鍵は、負担の量ではなく、それを支える「資源(リソース)」の有無にあります。具体的には、「上司による成長支援」「周囲への気軽な相談」「業務進め方への安心感」といった「仕事の資源」が、高い要求をやりがいへと変換するフィルターとして機能するのです。
鍵は「ヒーロー(HERO)」の覚醒:心理的資本の力
管理職が直面する困難を突破するために、最も土台となる資源が「心理的資本」、通称HEROです。
- Hope(希望): 目標への強い意志を持ち、達成までの経路を複数描く力。
- Efficacy(自己効力感): 自信を持って困難な課題に立ち向かう力。
- Resilience(レジリエンス): 逆境を乗り越え、しなやかに立ち直る力。
- Optimism(楽観性): 未来を肯定的に捉え、現実を柔軟に解釈する力。
多くの企業は、スキル(人的資本)や人脈(社会関係資本)の強化に躍起になります。しかし、どれほど優れた知識やネットワークを持っていても、それを使うための「心のエネルギー」が枯渇していれば、それは「宝の持ち腐れ」に過ぎません。HEROという心理的資本こそが、知識や人脈を価値に変えるための「原動力」なのです。
https://be-do.jp/service/heroic/
「完璧主義」を捨て、「性弱説」に立つ
「管理職は全知全能のキーマンであるべきだ」という幻想が、本人を、そして組織を追い詰めています。ここで導入したいのが、人は元来弱く、時には魔が差すこともある存在だと捉える「性弱説(せいじゃくせつ)」の視点です。
管理職を「スーパーヒーロー」として扱うのではなく、一人の弱い人間として認め、組織内にセーフティネットを構築することが不可欠です。
アクションプランとしては、まずはマインドセットの転換です。
「自分一人で抱え込み、解決するのが責任感だ」という思い込みを捨てましょう。
これからは「周囲への相談は、成果を出すための戦略的なビジネスツールである」と定義し直してください。
特に、自分が弱っている時には、無理に新しいことを始めるのではなく、既存の強みや人間関係を再確認する「資産焦点型戦略」に切り替えることが、レジリエンスを発揮する近道となります。
目標に「自分の意志」を込めるという技術
やりがいが高い課長の約8割が実践している共通の技術があります。それは、組織から降りてくる目標に「自らの意思(Will)」を込めることです。
単なるトップダウンのノルマをそのまま部下に流す「土管(パイプ)」になってはいけません。「自分はこの組織をどうしたいのか」「この目標の先に、どんな価値を見出しているのか」という対話と意思決定プロセスに自ら参画すること。目標を「自分事」として解釈し直せたとき、管理職のエンゲージメントは劇的に向上します。経営層もまた、現場の声を収集し、意思決定の背景を透明化することで、管理職が意思を込めやすい土壌を作る責任があります。
「過去」を振り返り、「意味」を再定義する
未来に向かって「意志を持て」と言われても、疲弊している時には難しいものです。そこで必要になるのが、過去の経験をポジティブに捉え直すリフレクション(内省)の技術です。
「何が足りなかったか」という反省だけでなく、例えば以下のツールを使って自分の「資産(アセット)」を再確認しましょう。
- KPT(Keep, Problem, Try): 成功(Keep)をまず特定し、そこから次への「意味」を抽出する。
- Win Session: どんなに小さくても「嬉しかったこと」「達成したこと」を共有し、自分の中に蓄積されているポジティブな要素に光を当てる。
成功も失敗も客観的に分析し、自分の成長の糧として再定義することで、失われていた「自己効力感」が回復し、次なる挑戦へのエネルギーが湧いてきます。
まとめ:組織全体で「やりがい」の正のスパイラルを生む
管理職の「罰ゲーム化」は、個人の能力不足ではなく、組織の構造的な問題です。経営陣が一方通行のコミュニケーションを改め、現場の声を収集し、管理職が相談しやすい環境(仕事の資源)と、自らの意思を反映できる仕組みを整える。そうすることで、管理職の「HERO」が目覚め、それが部下にも伝播し、組織全体が活力を取り戻す「やりがいの正のスパイラル」が動き始めます。
管理職が生き生きと働く姿を見て、次世代の社員たちが「自分もあんな風になりたい」と希望を持つ。これこそが、組織再生の唯一の道です。
「あなたは今日、自分の仕事の目標に、どれだけの『自分の意志』を込めましたか?」
小さな一歩から、あなたの「やりがい」は、必ず再生できます!
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