人材の成長力やパフォーマンスに大きく影響する心理的資本(Psychological Capital)について、分かりやすく教えてほしいという声をいただきます。
今回はレーシングカー(F1のような)に例えてみたいと思います。厳密には異なる部分もあるのですが、入門編として自動車に興味がないという方も、よろしければご一読ください!
そもそもF1に例えると分かりづらいのではないか…というツッコミが入りそうですが、今回はご勘弁ください!
目次
3つの資本を知る
人材のパフォーマンスに影響するのはこれまでの研究から大きく3つの領域があると言われています。
人的資本(Human Capital)と社会関係資本(Social Capital)と心理的資本(Psychological Capital)です。
人的資本=パーツに例えられる
レーシングカーは数多くの部品・パーツで成り立っています。分かりやすいものでいえば、タイヤもその一つ。高度化した現代のF1レースでは、コースの特性や作戦内容、天候・気温などに応じて様々な種類のタイヤが用意されています。例えば晴れの日用のタイヤでは、雨の日にレースに勝つことは難しいでしょう。逆に晴れの日に雨の日用のタイヤではやはりレースに勝つことが難しいでしょう。ソフトタイヤとハードタイヤの使い分けもあります。そもそもですが、タイヤをつけていなければ走ることもできません。
人的資本は「知識・スキル・能力」のようなものだとお考え下さい。環境の変化に応じて、最適な知識やスキルを身に着けることや、活かすことをしなければパフォーマンスの最大化をすることは難しいでしょう。世の中の変化が早くて激しく予測不能な時代と言われますが、常に自分自身の知識・スキルを必要に応じてアップデートし続けることが求められます。
そういった意味では、天候の変化に合わせてレース途中でもピットでタイヤを換装するようなF1レースは、ビジネス環境に似ていると言えるのかもしれませんね。
社会関係資本=ピットクルーに例えられる
F1のようなレースでは、予選から本番までピットでの作業のパフォーマンスやチームワークがとても重要であると言われています。どれだけかっこいいマシンであっても、良いパーツを使っていたとしても、優秀なメカニックやオペレーターがサポートしなければ最高のパフォーマンスを発揮することは難しいと言えるでしょう。尚且つ、チームが息の合った協働作業をしなければ、ピット作業の時間がかかりレースで不利になってしまいます。
社会関係資本は「社内外の人的ネットワーク」だとお考え下さい。目的を果たすために必要な人にコンタクトをとって情報交流を行うことができるかどうか。困ったときに助けてくれる人がいるかどうか。仕事は1人で行うものはほとんど無いに等しいです。社内の協力者、社外の協力者をネットワークできるか、活かすことができるかがパフォーマンスに影響を与えます。知識やスキルを身に着けるだけでは、その資本を活かしきることができません。だから社会関係資本が重要なのです。
ピットクルーとして必要な人材を配置できているかどうか、良いスポンサーをつけているかどうか、サプライヤーと良い関係が築けているかどうか。F1ではとても重要になりますよね!F1自体もビジネスですが、一般的なビジネス現場でも共通点は多そうですよね。
心理的資本=エンジンに例えられる
F1でとても重要になるのは、やはりエンジンです。そもそもですが、エンジンがなければ始まりません。燃費、パワー、耐久力、出力など様々な要素で性能が決まってきます。例えばF1のような最高峰のレースの舞台では、やはり最高峰の技術力と最新鋭の研究から生み出されたエンジンが使用されます。
最新のデザイン性、最高の空力性能のボディ、最高のタイヤを揃えていても、最高のチームを編成していても、エンジンが搭載されなければただの展示物でしかありません。レースをして結果を出すためには、エンジンを開発し搭載することが最重要になります。
でもエンジンが脆弱だと、なかなか良い結果に結びつくことが難しくなります。馬力が弱く、坂道に弱いとか、加速が遅いとか最高速度が遅いとか、耐久力がなくてよく故障してリタイアしてしまうとか。
それだけ「エンジン」はパフォーマンスを大きく左右するエネルギー源なのです。
心理的資本は「やりとげる自信であり、自律的な目標達成を促すポジティブな心のエネルギー源でありエンジン」だとお考え下さい。
どれだけ素晴らしい知識やスキルを持っていても、良い人脈を築いていたとしても、それを活かそうとするポジティブな心のエネルギーがなければ宝の持ち腐れになってしまうのです。それだけではありません。環境や状況の変化に伴って新たな知識やスキルを身に着けようとする行動にもつながりません。
何かしら良い成果を目指すためには、心理的資本というエンジンの開発は後回しにしてはいけないものです。なぜなら、不確実で先行き不透明な将来に向かっていくためには、常に自分自身をアップデートし続けなければなりませんし、不測の事態でも立ち直り乗り越えて進む力が重要になるからです。
エンジンを強化し動かすためには?
心理的資本の開発はどうすればいいのか。
例えば自動車のエンジンだって、数多くの部品パーツによって成り立っています。またエンジンを良く動かすためにはエンジンオイルだって必要になるでしょう。また、エンジンを動かすためには燃料だって必要です。
そのエンジンを開発し動かすための部品やオイルや燃料にあたるものがあります。
人の場合はどうか。
自分がどう在りたいかどうしたいかというWillの明確化や、そこに至るための道筋の具体化。達成体験を積むことや、共通の目標を目指す仲間の存在、物事を肯定的に捉える内省や、信頼できる他者からのフィードバックなど。様々な要素が心理的資本の開発につながります。
感情に近い意味合いで用いられる「モチベーション」と異なり「開発」できて、中長期的に維持向上できるのが心理的資本なのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。F1好きにしか分からないよ…となるかもしれませんが、少なくともモータースポーツに関心や知識が少しでもある方には心理的資本の正体について概要が伝わっていると嬉しいです。
まとめると、人的資本と社会関係資本は重要ですが、心理的資本という土台がなければ始まらないという話でした。また心理的資本は「開発」できるという点も覚えてもらいたいことです。
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2024.05.01
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余談ですがF1グランプリの話
余談ですが、先日、F1グランプリの2021年シーズンが終了しました。温室効果ガスの削減に繋がる「カーボンニュートラル」に集中するため、F1レースに参戦するチームへのエンジン提供から撤退をする「ホンダ(HONDA)」。
レッドブル・ホンダとして挑んだシーズンで有終の美を飾りました。
Honda F1 30年ぶりの栄冠!マックス・フェルスタッペン選手がF1でドライバーズチャンピオンを獲得―HONDA公式サイトより
もつれにもつれた2021年シーズン。ライバルのルイス・ハミルトン(メルセデス)と同点で迎えた最終戦というだけで既にドラマチックな展開が予期されました。
最終戦でレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手がファイナルラップで1位に躍り出て優勝。これでドライバーズポイントでもワールドチャンピオンが確定し、30年前のアイルトン・セナ(マクラーレン・ホンダ)以来のホンダ・エンジン提供チームのドライバーが王者となったのです。
F1のファンの人はきっとホンダの技術者や研究者をはじめチームのメカニックなど多くの人がこのエンジン開発にかける夢や想いにかけていることをご存知だと思います。胸が熱くなる想いですが、こうした”想い”は、Willそのものだと思います。確固たるWillは挫折や失敗をしても、乗り越える力になります。
ひとりひとりのWillと、チームの、会社の、ファンの様々な人たちが共通の目標を目指す中で、このような感動が生まれるのでしょうね。