「帰属意識」という言葉をご存じですか?
帰属意識は、グループや組織内にいる個々人が「自分はこの組織の一員である」と思う意識を指します。
ビジネスの世界においてはよく使われる言葉ですから、管理者の方々は頻繁に耳にしているかもしれません。
「仕事をもっと自分事にしなさい!」
「おまえは会社のお客さんじゃないぞ!」
こんなフィードバックが飛び交うことはないでしょうか。これはまさに、社員の帰属意識が低い組織に起きがちな現象。社員たちが、自分が会社に属していることを意識せず、言われた業務をやるだけ…と他人事として働いていれば、業績が上がるわけはありません。
そこで今回は、帰属意識が重要視され始めた理由と、社員の帰属意識を高める方法について話していきたいと思います。
目次
帰属意識とは
帰属意識とは、組織やグループの一員であるという個々人が持つ意識です。帰属意識において組織やグループを表す単位は大小様々で、「日本への帰属意識」という大きなくくりから、「家族への帰属意識」という小さなくくりまで使われます。
企業でいうと、社員が「自分は会社の一員である」と思えている状態を指します。
帰属意識とエンゲージメントの違い
帰属意識と似た意味を持つ言葉に「エンゲージメント」があります。エンゲージメントとは直訳すると、「婚約、雇用、契約、約束」などの意味を持ちますが、ビジネス用語としてのエンゲージメントは、社員・企業双方の心理状態を指す用語として使われます。
「エンゲージメントが高い」とは、社員にとっては企業に対する満足度が高く充実している状態、企業にとっては、社員が企業に貢献し、組織としての価値が高まっている状態を指します。
一見、帰属意識と同じような意味合いですが、その意味は少し違います。帰属意識は「社員が、会社に対して持つ意識」であるのに対して、エンゲージメントは、「社員、企業それぞれが、お互いに対して持つ意識」だと理解してください。
帰属意識が低いと…
「自分はこの企業の一員ではない」
そう思われていると、企業にとってどのような弊害があると思いますか?
帰属意識のない社員は、仕事に対しての責任感もほとんどないと考えてよいでしょう。モチベーションは低く、いつミスを起こしたり、離職したりするかもわかりません。そうしたことが実際に起こっている組織は多いはずですし、結果、企業の業績悪化に繋がる可能性も大いに考えられます。
一方、社員の帰属意識が高いとどうでしょうか。
「自分が所属する組織に貢献したい」と思うのは、自然な考えです。会社に貢献するという強い意識のもと、高いモチベーションで、企業の業績向上を考えた積極的な行動が期待できそうです。
いまや多くの企業が、社員の帰属意識を高める対策をしています。
それは、社員の帰属意識が企業の業績を左右することを理解しているからです。
なぜ今、『帰属意識』に注目が集まるのか
「帰属意識が企業にとって重要なのはわかった。でもどうして今なのか?」と思われた方もいるはず。
近年、終身雇用制度の崩壊が叫ばれ、新型コロナウイルスの影響によって「テレワーク」という新しい働き方が登場し、多くのビジネスパーソンに働き方を「再定義」する必要がでてきました。つまり、毎日毎日出社し、一生を同じ会社に捧げることの価値が薄れてきたのです。
「出社しなくてもいいなら、ここで働く意味はあるの?」
「終身雇用が保障されていないなら、自分の納得いくまで会社を転々としてみたい」
社員ひとりひとりの仕事に対する考え方の変化が、会社への帰属意識を低くしています。
社会変化は仕方ないでしょう。しかし「仕方ない」と、会社への帰属意識が低い状態を放置していると、企業にとって大きな損害になりかねません。社員1人を雇うのに莫大なコストがかかることは、管理者の方々ならよく理解しているはず。社員が辞めるたびの採用活動も、労働人口の減少に合わせて難易度は上がっていきますよね。
すでに副業や転職が当たり前となり、人材の流動性は過去とは比べものにならないほど高まっています。また、やむを得ない理由やキャリアアップにより自己退職した従業員を、本人の希望で再雇用するジョブ・リターン制度を導入する企業も増えています。
働き方の再定義がなされる今だからこそ、社員の帰属意識を高め、優秀な人材を「自社内で」活用することが求められます。
帰属意識の醸成に必要な3つのポイント
帰属意識を高めるには何をすべきなのでしょうか。社員の心を動かすにはそれなりの努力が必要です。
「頑張れ!会社に貢献しろ!」と声を張り上げるだけでは、何の解決にもならなそうなことも、イメージいただけると思います。
まずは管理者がやるべきことをしっかり明確にして、社員の帰属意識を高めましょう。
社員の帰属意識を高める方法をいくつかご紹介します。
1.インナーブランディングの実践
インナーブランディングとは、外に向けてではなく、社内に向けた企業のブランディングです。企業としてどこを目指しているのか、何を目標としているのかを社員にしっかりと伝え、全員が同じ方向を目指していけるよう促します。オンラインが普及したため、経営層からメッセージを送りやすくもなりました。また最近では社内報に力を入れる企業も出てきました。歴史ある企業は社史をつくり、社員とマーケットに配布するケースも増えてきました。
前述したように、働き方の再定義が求められる現状において、「この会社で働く意味」は、自身のキャリアを決める大きな要素です。そこを、トップに立つ人たちが社員に対して明示しなくては、社員の帰属意識はいつまでたっても低いままです。
2.コミュニケーションの充実化
テレワークの普及にともなう社員同士のコミュニケーション不足は、企業にとっての大きな課題点ではないでしょうか。以前まで当たり前にできていた雑談も、画面越しだとなかなかできないものですよね。
コミュニケーション不足は、社員の帰属意識を低下させる大きな要因です。社内の誰とも話さなければ孤独感や閉塞感は増すばかり。そんな状況を打破するためにも、管理者としては、やはりコミュニケーションが充実するような体勢を整えていかなくてはなりません。
テレワークに変えたばかりでコミュニケーションロスが増えているのなら、ITツールに頼ってみるのも一つの手です。社員とのコミュニケーションや、業務把握のためのITツールは、数年間で驚くほど増えています。テクノロジーを活用すれば、新たな課題発見にもつながる可能性があります。これまで手書きの日報を書いていたような企業でも、導入がどんどん進んでいますから、乗り遅れないように検してみてはいかがでしょうか。
3.制度の充実化
福利厚生制度などの充実化も、帰属意識向上に役立ちます。プライベートと仕事の両立がうまく取れる会社は、社員にとって魅力的であることは間違いありません。転職が容易な時代、「思うようなワークスタイルではない」と思われてしまえば、気持ちが離れるだけではなく離職にもつながるでしょう。
企業は社員の頑張りで成り立っていますから、利益が福利厚生として還元されることは、社員に「大事にされている」という意識を植え付けます。ぜひ「どんな福利厚生が使いやすいか、必要か」を社員に聞いてみてください。きっと帰属意識を高めるきっかけになるはずです。
人材が動く時代だからこそ、定着してもらう工夫を
人材の流動性が高まった今、社員ひとりひとりに高い帰属意識を持たせられるかが、これからの企業の存続を左右します。そもそも、社員に「自分はこの会社の一員だ」という意識がなければ、お互いにとってなんのメリットもなく、エンゲージメントの向上も業績の向上もありません。
帰属意識を高める施策が打てるのは、社員ではなく企業側です。まずは管理層が社員一人ひとりに寄り添い、同じ方向を向いて進んでもらえるよう、声をかけていきましょう。制度構築だけではなく、社員の人生に共感し、一緒に成長する場を築いてみてください。
人は、「自分の大切な場所」を守りたく思うもの。
さて、今のあなたの組織は、社員にとって「大切な場所」であり得ているでしょうか?