インタビュー

自律と主体性が必須の時代~これからは多様性を活かした企業だけが生き残るー山際邦明氏インタビュー(4)

これからは多様性を活かした企業だけが生き残るー山際邦明氏インタビュー(3)働き方の変容とダイバーシティ」の続編です。

Profile山際 邦明 氏
豊田通商株式会社取締役副社長執行役員。
1977年に豊田通商に入社。2000年に人事部長。2003年に株式会社トーメン経営企画部長、取締役。2006年より豊田通商にて執行役員、常務、専務を経て現職。

人生100年時代のキャリア形成は「主体性」と「自律」が必須の時代に。

石見:人生100年時代と言われています。キャリアに対する捉え方も変わってくるのでしょうか。

山際:今、ビジネスモデルの賞味期限がものすごく短くなっています。
例えばビジネスモデルの賞味期限が10年だとしても、70歳定年だとすると、大学出て社会人になって48年。すると5回ビジネスモデルが変わることになります。
もし5年ごとに変わっていくとなると、10回変わるということになりますね。
AIやIOTの出現で目まぐるしくなってきています。
またプロジェクトベースでやっていくと、会社の形態もいろんな再編があったり、変わっていくということが増えると思うので、同じ会社にずっと所属し続けるということの有意義性はだんだんと難しくなってきます。

これは全く個人的な想像ですが、日本では、定年という考えがなくならないのであれば、これからは定年3部作というか、要するに3回定年退職というような制度なども出てくるのではないかと思っています。
22歳で入社したら、16年で38歳。次は56歳。次は70歳ぐらいに関係をリセットし、再選択をする。もちろん、同じ会社にいてもいいし、別の道に進んでもいい。リセット期間中に、もう1回勉強しなおすという時期を入れてから再選択するということもでてくるかもしれません。

石見:それは面白いですね。キャリアは組織から与えられたものではなく、主体的に考え、チャレンジしていくものとして捉えられますね。

山際:チャンスがここに会って、期限もあると考えるから、自分自身の生き方とか、学ぶスピードとか挑戦とか、自ら考え行動するようになるでしょうし、横の連携も増えるし、そこで知り合った人どおしの信頼関係は、次の会社に移ってもその人的信頼関係が会社同士のアライアンスにつながり、イノベーションが起きやすいということにもなると思います。
あくまでも個人的な意見ですが。

人材の評価は「貢献度」

石見:人材の評価はどうなっていくのでしょうか。

山際:ルーティン業務は、デジタリゼーションの流れの中でAI等でカバーされるようになってくるので、プロジェクト単位で、新しい価値を生むことが求められるようになります。付加価値を作る、イノベーションを起こしていくことにどう貢献していくのか、ということが、評価の大きな焦点になってくるだろう考えています。
しかも関与の仕方も多様になると思います。ひとつのプロジェクトだけに集中することも、複数のプロジェクトに同時並行的に付加価値を提供するということもあるでしょう。
プロジェクト単位での貢献度みたいなものを累計というか、総計で評価していくという方法が考えるのではないでしょうか。

石見:プロジェクトのステージによって、貢献度も変わってきますね。

山際:プロジェクトを立ち上げのときとか、安定期のときとか、成長するときとか、どちらかというとターンアウトするときとか、ステージがあります。ステージごとに得意不得意とか要求されるスキルも変化するし、役割・ミッションとかも変わると思うので、そういうのがポイントになってくると思いますね。
後は今後はますます、内部だけでなく、外部も含めて、先ほどいった水平共創ができるかどうかが問われるでしょうね。人間力だったり、寛容度だったり、違いを楽しむ力だったり、内外のネットワーク力だったり、後はエンパワーメントする力だったり、ファシリテーションする力だったりが大事になると思います。
ファシリテーションする力ってこれから多様なメンバーの中のリーダーに取ってすごく大事なスキルになると思います。

石見:これからの人材評価のポイントを明確に示していただいて、目指すべき人材像が明らかになりました。目指すべき人材になるために個人はどうすればいいのでしょうか

山際:これから注視する能力の評価でいうと学習進化し続けるかどうかです。
ビジネスモデルの賞味期限が短縮化していく中で、修羅場のプロジェクトでちゃんと貢献するという実績、リベラルアーツなども含めて新しいスキルだとか考え方、IOTとかAIなどの変化に対してITのリテラシーもあげていかなくちゃいけない。
学習も継続しながら、ハードルの高い修羅場プロジェクトに挑戦し続けるというこのふたつをこなし、その中でどう貢献して、付加価値を作れるかということが評価になるのだと思います。

石見:先ほど話題に出た自分の多様性を広げる、セルフエクスパンション?(笑)、というと新しいことにチャレンジするということなので、失敗が付きものですよね。

山際:そう、失敗はつきものです。失敗はいやだなと思ってもチャレンジすることですね。プロセスワークなどで1次プロセス、2次プロセスってありますが、人間は基本的には安住していたほうを好むというのが普通ですよね。でも安住していると、AIとかIOTなんかが水がどんどん湧き上がるよう突き上げてきます。
安住したら、水の下に沈んでいくという世界なので、早めに次の土地に飛び乗ったほうが、つまり、2次プロセスに行ったほうがいいですよね。
人間はチャレンジすることで学ぶので、学びの量はチャレンジしているときとか、Struggle(闘い)とか失敗している時のほうが絶対に多いので、学びの量を増やすにはチャレンジし続けるという話だと思いますね。

石見:組織として失敗を許容するのが必要ということですか?

山際:そう、豊田通商では、今までは、比較的予測可能性の高い自動車関連のビジネスで成長してきたので、失敗を恐れない文化とか、失敗に対する許容度に関してはまだまだ課題があると感じています。
豊田通商で、ネクストモビリティーみたいな水平共創をやろうとすると、仮説検証を繰り返したり、失敗から学んだりといったところをしていかないといけないはずです。これは豊田通商にとっても大きなチャレンジです。

石見:母性の時代、寛容がひとつの時代のキーワードなんですね。

組織の壁が溶けていく時代に。生き残る組織とは。

山際:これからはある程度の副業などは認めざる得なくなってくるかもしれないですね。
会社として、他の会社のプロジェクトに対しても、一部の時間をシェアリングして貢献していくとか、NPO、NGOの活動にも付加価値を提供するとか、組織の壁がだんだんと溶けていく時代になってきているのだと思います。

石見:組織も大きく変わってきますね。

山際:実際、組織がどうなるかについて、僕自身も明確にわかっているわけではありません。もしかすると、芸能プロダクション的になるのかもしれませんね(笑)

石見:タレントマネジメントということでしょうか?

山際:タレントマネジメントに近づかざるを得ないでしょうね。
しかし、その会社としての独自のビジョンがあって、ブランドやプロジェクトの実績だとか、そういうのは、今後も必要だと思います。
例えば、そこの会社にいると、魅力的な機会とか、面白いプロジェクトへの参画とか、プロジェクトのリーダーシップのチャンスとかたくさんありそうだよね。一緒に共創できそうな多様なメンバーやチームもくるようなチームも多そうだね、みたいな感じ。

石見:会社組織に魅力がないと組織に所属する意味がなくなりますよね。

山際:会社としての魅力があり、多様なタレントを持っていて、付加価値が自分たちの会社でもできるし、外部とのコラボレーションからもイノベーションを起こせることが大事になるでしょうね。
そういう会社が生き残るのではないでしょうか。芸能プロダクションという言葉がいいかどうかわからないけれども(笑)

石見:最後に山際さんから皆さんに、こんなに変化の激しい時代に、みなさんにエールを送ってください。

山際:第一次産業革命が始まってから、我々の頭の中には、経済が尺度の一番にありました。ピーター・センゲの著書『持続可能な未来へ』の図(P53の図3・1とP135の図8・1)に経済の中に地球があって社会とか個人とか組織があって、これが現在のサスティナビリティの問題になってきていると課題提起しています。
やっぱり基本的に経済中心の考え方はワークしません。地球とか、環境、社会という枠の中での経済であり、会社であり、コミュニティーであり、家族であり個人だと思います。
社会的課題というか、地球的課題のところを解決しつつ、ビジネスをつくる時代へのシフトの最中に我々は生きているのだと思います。
CSVの考え方の実践、そういうチャレンジは今後ますます増えてくると思います。
そうするとNPO,NGOと企業との差はだんだんなくなり、産官学もお互いの強みを提供しあって、お互い交流するようになって一緒に課題を解決するようになるのだと思います。
さっきの水平共創での解決は、そういう感じになるんじゃないでしょうか。

インタビューあとがき

山際さんのお話しを伺いながら、実務家として将来を見据えた組織人材戦略にここまで戦略的に取り組んでいらっしゃることに大変強い感銘を受けました。
多様性を活かす、という言葉は、一般的に聞かれるようになりましたが、実態はまだまだ形式だけを進めているところが多いのではないでしょうか。
将来の事業戦略を見据えたダイバーシティインクルージョン。お話しを伺って、こんな図にまとめてみました。

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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執筆者プロフィール

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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