コラム

働き方はそこそこ改革されたのに、なぜ人が定着しないのか

長年にわたって議論されてきた、人が定着しない問題。働き方改革、ワークライフバランス、人事制度改革、処遇・報酬アップ、エンゲージメントなどなど、今進めていることの延長線上に定着率の改善・向上があるよね。といった具合に議論し尽された感が漂うこの問題ですが、中小企業や人事部門から遠い現場の状況を目の当たりにしたときに、議論の余地が多いに残されていることに気付かされました。

「人手不足」と「人材不足」

人が足りないと言うときには、「人手不足」と「人材不足」の2種類があります。ChatGPTに聞くと、違いは次のとおりです。

人手不足 (ひとでぶそく):
「人手不足」とは、ある組織や企業などが必要としている労働力や作業員が不足している状態を指します。つまり、適切な人数の労働者が揃っておらず、業務やタスクを遂行するのに十分な人員が足りないという状況です。
例えば、急成長している企業が増えている産業では、新しいプロジェクトや顧客の増加により人手不足が発生することがあります。この場合、企業は新しい従業員を採用して人手不足を解消しようとします。

人材不足 (じんざいぶそく):
「人材不足」とは、必要な能力やスキルを持った優秀な人材が不足している状態を指します。つまり、求められる業務に対応できるだけの適切な資質や経験を持った人材が十分に揃っていないという状況です。
例えば、高度な技術や特殊な専門知識を要する職種で、人材不足が発生することがあります。こうした職種では、適切なスキルや経験を持った人材を採用することが難しくなります。

「人手不足」も「人材不足」も課題の本質や解決策の根本は共通している部分も多いものの、「人材不足」は育成に起因するところが多分にあり、これらを一緒くたにして語ってしまうと課題が整理しづらくなってしまいます。今回は、中小企業や人事部門から遠い現場の状況を目の当たりして感じた「人手不足」に焦点を当てたいと思います。

「力を入れられる採用」と「放置されがちな定着」

人手不足を少しでも解消するためには、「採用」と「定着率向上」を両輪で進めていくことが重要です。ところが、力の入れ具合として、採用>定着率向上とかなり偏ってしまっている企業・組織が多いように感じます。採用の方が頑張る方法がわかりやすく、予算次第で出来ることの幅が拡げやすい。短期的に成果が見えやすい。そして、忙しい現場を巻き込まずに、採用担当や人事部門だけで頑張ることができる。このような事情が、要因となっているのではと推察します。

一方で、定着率の向上に取り組もうとすると、給与・待遇、福利厚生面の要素が絡んできたり、限られた資源で出来る改善策に取り組もうとすると現場の理解と巻き込みが必須になります。難易度やハードルが高く感じられ、やらなきゃいけないと思いながらも放置される傾向にあります。しかし、苦労して採用した人材が、退職してしまい定着しなかったり、採用した人数と同じくらい退職するような状況では、人手不足が一向に解消されないどころか、様々なリスクがあります。

定着率が低い(離職が多い)ことによるリスク

  • 世間で広がるマイナスの評判で人が集まりづらくなり、採用力が低下する
  • 採用活動コストが増える
  • 教育コスト(お金・時間・労力)が余計にかかる
  • 残った社員のモチベーションが低下する
  • 人手不足によってビジネスチャンスを掴み損ねる
  • 技術やノウハウの継承が難しくなる

これだけのリスクを踏まえると、定着について見て見ぬふりをすることは得策とは言えません。

定着率向上のためにできることは?

定着率向上のために、報酬アップ、福利厚生の充実、キャリアパスの明確化、人事制度の構築などいろいろな手段が出てきますが、大企業より充実したものを準備することは実際には難しいです。また、大企業だとしても一部署で出来ることではない部分も多いですし、また、報酬アップなどで得られる効果は一過性で、企業側としても出来ることの限界があります。

改めて注目したいのが、退職の理由に関する様々な調査の中で、「労働時間・環境の不満」「給与の不満」などと共に「人間関係の悪さ」が常に1位か2位など上位に入るという事実です。働き方は全体的に以前より良くなったとしても、人はやはり、良好か少なくとも居心地の悪くない人間関係の中で働きたい生き物なんですね。

“心理的安全性”という言葉に一気に注目が集まっていますが、”安心”な職場を作れていない企業が多いのだと感じます。職場における”安心”とは?それは「自分がここにいること(存在)に不安を感じない状態」ではないでしょうか。”安心”な職場づくりに取り組み、人間関係の悪さが大きな理由で退職する人を減らすことは、限られた資源でもできそうです。

存在に不安を感じるのはどんなとき?

職場においては、例えば次のような状況で、自分はここにいていいんだろうか?ここにいる意味は?と感じます。

  • 無視されたと感じる・挨拶がない
  • 上司や周囲の人と気軽に話せない
  • 人格を否定されるような叱責を受ける
  • 自分の仕事に価値を感じられない
  • 必要とされていると感じられない

逆に、次のような状況では、基本的な安心感を持つことができます。

  • 挨拶や労いの言葉が普通に交わされる
  • 上司や周囲の人と気軽に話せる
  • ミスの指摘や指導があっても、人格までは傷つけられない
  • 自分の仕事に価値を感じる
  • 自分の役割や貢献を理解している

職場の安心は、良好なコミュニケーションの先に生まれるものです。良好なコミュニケーションは、一人ひとりの心身の健康がベースになります。疲弊しきっていたら、人にちょっと優しくするということが難しくなりますよね。こういう場合こそ、心身の健康づくりに取り組んでみることが効果的です。

“健康ネタ”は最強の話題!?

健康ネタは他人同士が利害なく共通で話せる話題です。最近の職場は、年齢・性別・国籍・ 属性など多様性に溢れていますが、不健康になりたい人はいないはず。健康増進をきっかけにして、職場内にいつもより少し優しいコミュニケーションを増やす取り組みがおすすめです。

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小西ちひろ

小西ちひろ

株式会社Be&Doのプランナー。原料系商社にて人事(採用・教育研修)を6年間経験後、Be&Doにjoin。首都圏に常駐。お客さまとトコトン伴走するご支援を使命としている。プライベートでは、昼間からお酒とジャンクフードを片手にバスケの試合を見る時間と某男性アイドルグループの推し活をする時間が至福。日本心理的資本協会認定PsyCap Master®、国家資格キャリアコンサルタント。

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執筆者プロフィール

小西ちひろ

小西ちひろ

株式会社Be&Doのプランナー。原料系商社にて人事(採用・教育研修)を6年間経験後、Be&Doにjoin。首都圏に常駐。お客さまとトコトン伴走するご支援を使命としている。プライベートでは、昼間からお酒とジャンクフードを片手にバスケの試合を見る時間と某男性アイドルグループの推し活をする時間が至福。日本心理的資本協会認定PsyCap Master®、国家資格キャリアコンサルタント。

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  • Li Zheng
  • 心理的資本研究員
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