これからは多様性を活かした企業だけが生き残るー山際邦明氏インタビュー(1)多様性こそ変化の核心」の続編です。
Profile山際 邦明 氏
豊田通商株式会社取締役副社長執行役員。
1977年に豊田通商に入社。2000年に人事部長。2003年に株式会社トーメン経営企画部長、取締役。2006年より豊田通商にて執行役員、常務、専務を経て現職。
目次
20年前から予測されていた垂直統制型組織の限界
石見:第4次産業革命を見据えてというテーマでお話しを伺っていますが、御社の場合、20年前から、その土台作りを始めているように思えます。
山際:私が人事に来たのは20年前。その前はアメリカで、7年間金属関係のビジネスモデルの立ち上げをやりました。金属関係の駐在員は、私ひとりでしたので、ナショナルスタッフを現地で採用して、育成して、機会を与えて成長させるということを経験できました。
当時の豊田通商は、海外を中心に、新しいビジネスモデルをつくる人材の育成が重要になってきていました。また、海外でビジネスモデルの横展が始まると、海外でマネジメントできる人材も急激に増やしていく必要が出てきていました。それがちょうど20年前でした。
それまでは、どちらかというと事業創造や事業経営というよりトレーディングが中心でした。そういう意味では、20年前あたりが豊通にとっても転換期だったということなんだと思います。
1995年、約20年前に私が日本に戻るときに、上記理由もあって人材育成に関わりたいということで、人事に異動したいと自ら手を上げました。 海外で事業を作ったり、マネジメントできる人材の数を増やそうというのは、その時からずっと意識してきたということだと思います。
ただ、まだ組織によってダイバーシティー&インクルージョンや人材育成の進捗にはバラつきがあります。変化をキャッチアップするために、水平共創で新しいビジネスモデルをつくっていくには、まだまだ課題が残っているというところです。
石見:チャレンジローテーションで人事を希望されたのはどんな思いからでしょうか?
山際:私は、アメリカで、ナショナルスタッフをエンパワーメントして、毎年事業を拡大していく中で人の成長や組織開発のダイナミズムを経験してきたこともありましたので、その当時の日本中心の人事制度や研修体制では、当時の豊田通商の成長に必要な人事戦略のギアチェンジがおきないのではないかという思いがありました。
オフサイトミーティングのような取り組みもすでにアメリカで始めていました。そういったノウハウもあるので、その経験をもとに人事発信で変革を起こせたらという問題意識がありました。
石見:アメリカでのマネジメント経験がグローバルの組織人材戦略への問題意識になったのですね。
山際:アメリカ人のスタッフは、いろいろと本音で意見をいってきてくれました。黙っている日本人とは異なりました。これではいけないと、スタッフみんなで方向性やビジョン、戦略をオフサイトミーティングのような形で議論して、そこで戦略とか、ゴール設定とか、マイルストーンをどう設定するかとか、役割はどうするか、というような話ができるようになり、エンパワーメントが起きました。
日本型の垂直統制型の「俺の背中をみろ的」なものは特に海外ではワークしないということにその時点でやっと気づいたということでしょうか。
石見:今、働き方改革とか、第4次産業革命だとか言われていても、組織モデルが変わってないなと思うのですが。
アメリカではホラクラシー組織のような、できるだけ個人に役割を持たせてチームで動くというようなものが出てきています。
御社のような大企業の場合、組織モデルの変革についてはいかがお考えでしょうか。
山際:今後、水平共創的なアプローチが必須となるプロジェクト単位の仕事が増えてくると思います。当社でのそのファーストトライアルが、ネクストモビリティーとアフリカ本部です。
ネクストモビリティーという取り組みは、新しいビジネスモデルはどこに向かうのかという対応です。そうなると組織の壁を越えて、産業の壁を越えて連携しあい、プロジェクトベースで考え行動することが重要になってきます。
アフリカ本部でも、アフリカの今後の課題を解決しつつ、新しいビジネスモデルをつくるというように、全体的なアプローチをしないといけない。
変化の激しい時代に対応するには長期的なシナリオを描く。
石見:変化が激しい時代にリスクにどう備えていらっしゃいますか?
山際:豊田通商の特性だと思いますが、10年単位での豊田通商にとっての危機シナリオってなんだろうという議論を継続的に行っています。人間って基本的には変わりたくないから、危機ってなんだろうって意識して真剣に考えないと、今やってるビジネスモデルは定年までは何とか大丈夫だと思いたがりがちです。
それでは若手はいい迷惑なので、将来の長期的なシナリオを経営陣も含めて腹落ちし続けることで、新しいことにチャレンジできるのだと思います。
楽観的に、これはしばらく大丈夫だよというより、危機シナリオで最悪の事態が最短で起きた場合に備える。そういう人間には多分危機シナリオも訪れなかったり、訪れてもゆっくり起きたり、訪れてもそんなにインパクト大きくなかったりするものだと思います。
危機シナリオも考えず、アクションも取らない人間には、最短で最悪なことが、本当に起こってしまうと思うんです。最短最悪を想定する習慣を会社としても持つというのは大切なことだと私は考えています。
石見:事業ポートフォリオの観点においても??
山際:そうですね。事業ポートフォリオも人材ポートフォリオも私は「×時間軸」で考えないといけないと思っています。事業ポートフォリオでいうと、同じ時期に複数のモデルが賞味期限が切れるが、今は全体で最大効率化している、でもそれはダメなんですね。
賞味期限が切れるタイミングと成長するタイミングとがどうなっていて、最後どうなるかを考えないと。
すごく成長していて、収益もあるんだけど、あるタイミングで危機があるのだとすると、今の時期から取り組むべきものを多様化しておかないと会社のリスクになります。
あるプロジェクトが時間がかかるとなると、選択肢が広いうちに、インサイダーとしてプレイヤーとして入って見極めて選択するということをやっていくことが重要です。
長期的で大きな変容ほど、早めに取り組みを開始しないと選択肢が少なくなり、残された時間も短くなってしまいます。すると必要な費用がすごく大きくなって、それがうまくいかない場合は、会社自身のサスティナビリティにも悪影響を及ぼすという話になりかねませんから。