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過度な自責思考を求めていないか?
新人研修などでお馴染みの「他責にしていると成長しない。自責で考えよう。」というフレーズがありますよね。確かに、人のせいにばかりしていると成長しないことは納得です。
しかし、自責でしか考えないのもまた問題です。業務で発生したトラブルの原因には、自分では直接コントロールできない他の要因も含まれていることも少なくありません。例えば、他の部署に所属するメンバーのミスだったり、前任者のミスだったり、お客様の指示に問題があったり、システム上の問題があったり、環境変化が引き金になっていたり、アンラッキーが重なっていたりするものです。0か100ではなく、「これは自分の責任。でもここはしょうがないよね。ここは自分の責任の範囲外だな」のようなことが実際はあります。
そんなとき、上司であるあなたは、部下にどのような言葉をかけますか?もしあなたが、「自責こそが人を成長させる」という信念を強く持っていたとするなら、良かれと思って(伝え方の柔らかさの度合いはさておき)部下にこのような言葉を掛けてしまうかも知れません。
「言い訳はやめよう。言い訳してるとまた同じことが起こるよ」
「他の人のミスも、あなた自身が問題を引き起こしている可能性があるんじゃないか?」
ケースバイケースなので、確かに上記の言葉が適切な場合もあるでしょう。ただ、その問題が自分では直接コントロールできない他の要因だったとしたら、、、部下はどのように感じるでしょうか。
自責を求められた部下はこうなる
最初は自分以外の要因にも目を向けていた部下も、上司に自責を求められることで、自分のミスに注目するでしょう。自分がコントロールできない要因も、自分が招いたミスと思い込もうとするかも知れません。そうやって反省し、自分の行動を改めようと努力します。
しかし残念なことに、これでは同じミスを繰り返すことになりかねません。本来、自分でコントロールできない要因についても冷静に分析し、現実的な解決策を講じる必要があります。にも関わらず、ミスを背負い込むことで、結果的に解決策を講じることができていないのす。そして再びトラブルが発生してしまった挙句は、上司から「反省が足りてない。」とさらに自責を求められることになりかねないのです。
強い自責の念は、新しい挑戦ができなくなり、ミスを恐れたり、活力低下を引き起こします。
なぜ自責思考が蔓延するのか
自責思考は、ある意味で楽なマネジメントのやり方かも知れません。良くも悪くも、他人を責めない点で、他者に不快感を与えません。周囲に波風を立てず、部下自身が反省するほうが手っ取り早いとも考えられます。それに、仮に自責による反省によって、自分がコントロールできる範囲の問題を改善できたり、成果を生むことができたなら、自分がコントロールできない要因まで目を向ける必要性は減ります。ただし、今のビジネス環境変化は従来より複雑になっていますので、反省して、根性を出して頑張ればなんとかなるケースは少ないでしょう。
もちろん、自責の思考は大切です。ただ、リーダーが過剰な自責を求めるアプローチで部下に接してしまっていては、成果も出ないし、部下を追い込んでしまうのです。
アメリカのメジャーリーグにおける、自責と他責の切り分け
話は変わりますが、米メジャーリーグと日本のプロ野球における、「成果」の捉え方の違いが、自責を求めるリーダーシップの話題に通ずると私は感じています。
投手の評価について、近年メジャーリーグでは、投手の「勝利数」は日本ほど重視されていません。なぜなら、投手が勝利投手の権利を得られるかどうかは、味方打線の援護点に大きく左右されるからです。勝利数以上に重視されるのは、防御率やWHIP(安打プラス四球を投球回数で割った値)といった指標です。要は、投手自身がコントロールできない勝利数よりも、投手自身がコントロールできる指標に注目し、成果や能力を評価しているのです。
余談ですが、メジャーリーグで大活躍中の大谷翔平選手が、野球の神様と称されるベーブ・ルース選手が達成して以来約100年ぶりの「2桁勝利&2桁本塁打」の達成に、勝利数9とリーチを掛けていた際、日米のメディアやファンの注目度に結構な温度差があったそうです。日本で「あと1勝で2桁勝利」大騒ぎされているほど、アメリカでは話題になっていなく、スタジアムの空席も目立ちました。
日本プロ野球やファンは、アメリカの人達以上に勝利数を重視し、「先発投手はチームの勝敗の責任を背負っている」という感覚を持っているのではないでしょうか。もちろん、勝利を得たいのはメジャーリーグも日本のプロ野球選手も同じです。ただ、メジャーリーグのように投手自身がコントロールできる指標に注目するからこそ、コーチや監督も適切に選手にフィードバックをすることができて、選手もその改善に向けて頑張ることができると思います。
今求められる「楽観力」のリーダーシップ
過剰な自責による反省では成果が出ない今の時代、リーダーに求められるのが、”Optimism(現実的で柔軟な楽観力)”を高めるアプローチです。
ちなみにOptimismは、心理的資本(=目標達成に向かうポジティブな心のエネルギー)の4つの構成要素である頭文字の”HERO”のうちの一つです。
楽観力といっても、単純に「気分が良いから」とか「夢見心地で」というような、根拠の無い楽観主義とは違います。一方で「成功は全て自分の手柄」「失敗は全て他責」「全てを支配しコントロールできる」というような極端な考え方でもありません。
Optimismの開発には、3点が重要とされます。
❶過去への寛大(過去の出来事への寛容で前向きな意味付け)
❷現在への感謝(現在の自身の状況を肯定的に捉え物事に感謝する)
❸将来に向けた機会探索(未来をさらに良くするための機会を探す思考)
過去への寛大を実践する上でのポイントは、過去の出来事に対して、良い結果であっても、悪い結果であっても、
・自分がコントロールできたと思うこと
・自分ではコントロールができない自分以外の要因だと思うこと
を事実として検討し、内省(前向きに振り返り)をします。そうすることで、良い結果からも悪い結果からも自身の成長の糧を見い出したり、捉え直したりすことができます。
リーダーは、部下の出来事の意味付けの思考を、これまでの経験や客観的な視点からサポートしてあげることが求められます。部下がコントロールができない要因を発見できたなら、「これはあなたの責任ではないから、気にしなくて大丈夫!」と励ましたり、上司の立場だからこそできる現実的な解決策に動くことなど、サポートをすると良いでしょう。
加えて、自分が置かれている現状に感謝し、物事の良い側面を見ることや、うまくいっていることを見つけ出す視点を部下が持てるような工夫をしましょう。例えば、当社では毎週末に、「上手くいったこと/頑張ったこと」などをシェアするミーティングを行っています。
ちなみに、優れたスポーツ選手が、インタビューなどで監督やチームメイトに感謝を述べるのは、現在への感謝するOptimismの力を持っていると言えるでしょう。
さらに、起こり得る出来事をチャンスとして捉え、将来を見据えながら進むことができればこの上なしです。
当然ながら、リーダー自身が、Optimismの力を持っていることも大切です。部下は上司の鏡です。自身がロールモデルとなり、「楽観力」のリーダーシップを発揮しましょう。
最後に
私は社会人になって数年のあるとき、トラブルを起こし、当時の上司と頭を下げに客先へ訪問したことがあります。こっぴどくお叱りを受け相当に落ち込みましたが、その後で上司から「あなたが最善を尽くしていたのは知っている。お客様の前だから全てを守ってあげられなかったけど、あなたが全て悪いとは思っていない。もし俺が担当していても、同じことが起こっていたと思う。」と声をかけてもらった経験があります。私はその言葉にかなり救われましたし、「よし、もっと頑張ろう!」と自分の心の中でエネルギーが湧きました。今でも強烈に印象に残っている体験です。
部下を過剰に追い込まず、「楽観力」のリーダーシップを、私自身は発揮したいと思っています。そのような概念が体系化さているのが、心理的資本であり、Optimismです。心理的資本やOptimismの概念が、マネジメントやリーダーシップの考え方として広く浸透することを願っています。
PsyCap Master(サイキャップマスター)認定講座では、Optimismを含む心理的資本の構成要素”HERO”について体系的に、かつ心理的資本を高める対話手法である”ガイディング”について、実践的に学ぶことができます。詳細は下記をご参考ください。
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