イベントレポート

【開催レポート】組織も人も!内なるHEROを呼び覚まそう!

産業構造の急激な変化に加え、パンデミックや戦争など、まさしく予測不可能な時代に。企業が競争を優位に進める上で、またこの時代を生きるひとりひとりにおいても、前向きに思考し行動し続ける人の心のエネルギーにいっそうの関心が高まっています。

そのような心理状態のありようを測定し、また開発する方法を具体化した「心理的資本(Psychological Capital)」。心理的資本を構成する要素は、Hope、Efficacy、Resilience、Optimismの4つと言われており、その頭文字を取って「内なるHERO」とも呼ばれています。

この心理的資本の実践を推進し、また研究に加えて実践を通じて得られた成果を発信することで、前向きに意欲的に前進する人、組織づくりに貢献したいとの想いから、この度「日本心理的資本協会」を発足いたしました!

今回の心理的資本セミナーでは、当協会の発足を記念して、一人ひとりが内に秘めたこのHEROを呼び覚まし、人材や組織の課題を解決する具体的な対応力を高める社会へ向けて、心理的資本の持つ有用性や期待について、会長と理事がざっくばらんに議論いたしました。

2022年10月26日に開催した心理的資本セミナーの書き起こしレポートとなります。

ゲストパネラー紹介

  • 開本浩矢 氏
    大阪大学 大学院経済学研究科 教授・兵庫県立大学 名誉教授(経営学博士)
  • 池口武志 氏
    株式会社星和ビジネスリンク取締役常務執行役員
    一般社団法人定年後研究所 理事所長
  • 北村 雅昭 氏
    学校法人大手前学園 大手前大学 現代社会学部 教授
  • 寺嶋 浩美 氏
    フジッコ株式会社 取締役上席執行役員
    イノベーション・ガバナンス・人財領域担当
  • 藤間美樹 氏
    積水ハウス株式会社 執行役員 人財開発部長
  • 古屋武範 氏
    株式会社クラブビジネスジャパン 代表取締役社長
    フィットネスビジネス編集発行人
  • 橋本 豊輝 ※モデレータ(事務局担当理事)
    株式会社Be&Do 取締役/COO

はじめに

 橋本:みなさん、本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
これより、日本心理的資本協会発足記念と題しまして、『組織も人も!内なるHEROを呼び覚まそう!』というテーマで心理的資本セミナーを開催いたします。どうぞよろしくお願いします。

最初に日本心理的資本協会の発足についてお知らせさせてもらった後に、ご登壇者の方から、働きがいや生きがいの源泉となり得る心理的資本に関する最新の情報や今後の展望についてお話を伺いながら、一緒に議論できればと考えております。今日は研究者、企業実務家、ビジネス、様々な視点でお話いただけると思いますので楽しみにしていただけたらなと思います。

まず、今日「心理資本」という言葉を初めて聞いたよ、という方もいらっしゃると思いますので基本的な概要をご紹介したいと思います。

心理的資本とは何か?を簡単に言いますと「ポジティブな心理的エネルギーで、行動を生み出す自信、意欲」だとご認識いただけたらと思います。これまで経営学の分野において、人材がどうやったらパフォーマンスを発揮するのか、その原因は何なのかという研究が進められてきたんですね。そこでまず最初に注目されたのは「人的資本」で、知識やスキルがないと、パフォーマンスは発揮しないだろうと言われていました。でもそれだけでは成果に直結しないねということで、次に注目されたのが「社会関係資本」です。社内外の人的ネットワークがあるかどうかが影響するんじゃないかと言われました。でもこの2つを持っていてもそれでもまだ成果に繋がらないことがあるよねっていうことで、近年注目されてきたのがこの「心理的資本」で、人材3.0と言われております。

心理的資本は、人がイキイキとパフォーマンスを発揮していくための土台でありエンジンです。人的資本や社会関係資本は、その時の時代背景や環境など、あるいはそれぞれの目標や状況に応じてアップデートが必要な資本だと私は考えているのですが、そういった知識やスキルの習得、ネットワークの取得、目標に向けた行動を起こす原動力になるのが心理的資本であり、それぞれがシナジーを生んで、最終的には成果、業績に繋がっていくものだと考えております。
心理的資本の要素を分解すると「HERO」という頭文字になり、今日のテーマにもなっていますが「内なるHERO」と訳されています。
4つのうち、一つは「Hope」、直訳すると「希望」ですが、私たちは「意志と経路の力」と呼んでいます。意志力と目標までの道筋をどう思い描くかという力です。そして「Efficacy」、これは「自信と信頼の力」です。自己効力感みたいなものですけど、行動に繋がる自信のようなものですね。そして「Resilience」。立ち直るだけじゃなくてそれを乗り越えてさらに成長していく力です。そして「Optimism」。これは過去、現在を、未来に向けて肯定的に楽観できる力です。私たちは「柔軟な楽観力」と呼んでいます。

日本心理的資本協会の概要


ここまで心理的資本の概略についてお伝えしたんですけど、今日この会は、日本心理的資本協会発足記念ということで、協会の概要についてもご紹介したいと思います。実はまだ9月下旬にこっそり発足したばかりの協会です。まず協会の設立の背景についてですが、今、パンデミックが起こったり、戦争が起こったり、ビジネスの環境もすごく変化が大きい時代になっています。その中で、個人においてももちろん企業がどうやって競争優位を高めていくのかということにおいても、前向きに行動していく「こころのエネルギー」が重要だ、と関心が高まっています。

心理的資本は、心理状態のありようを科学的に計測できるということ、開発することが可能だというのが素晴らしい特長です。この協会では心理的資本を実際にどうやって開発するのか?とか、こうやったらうまくいったよというような実践を推進していくこと、研究するだけでなく実践で得られた成果を発信していくことで、心理的資本開発のノウハウや考え方を拡げていくことに貢献していきたいなと思い、設立した協会です。
協会の事業内容として、既に「PsyCap Master(サイキャップマスター)」の認定をスタートしています。そしてPsyCap Masterコミュニティの運営、今後は、研究会の開催や、心理的資本に関する情報提供もどんどん進めていきたいなと考えております。

今お伝えしたPsyCapMasterの認定についてですが、これは心理的資本を高める介入法(=ガイディング)を習得していただいた方を認定するものです。ガイディングはメンタリング手法のひとつで、他者のやり遂げる自信を高め、目標に向かうための適切な道案内役、導き役ということでガイドという言葉を用いています。この手法を身に着けると、他者だけでなく自分自身が前向きにどうやって進んでいったらいいかと考えるときにも非常に役立つスキルですので、ぜひご注目いただけだらと思います。
今回発足に際して、こちらの理事のみなさんと協力してこの心理的資本を広める活動をしていこうとしております。簡単にご紹介させていただきます。

まず、会長には、大阪大学経済学部の開本浩矢教授。フレッド・ルーサンス先生は書かれた心理的資本の本を「こころの資本」に日本語訳をされた先生です。
そして理事は50音順でご紹介いたしますね。星和ビジネスリンク取締役常務執行役員であり一般社団法人定年後研究所の理事所長でもある池口さん、大手前大学現代社会学の北村教授、ロート製薬の取締役CHROでいらっしゃる髙倉さん、フジッコ株式会社の取締役上席執行役員で、コーポレートガバナンスやイノベーションや人財に携われていらっしゃる寺嶋さん、マンパワーグループでシニアコンサルタントとしてミドルシニアの活躍などを手がけられていらっしゃる難波さん、積水ハウスの執行役員で人財開発部長の藤間さん、クラブビジネスジャパンの社長でいらっしゃいます古屋さん、こちらはフィットビジネスというビジネス雑誌を発行されています。そして、武蔵大学経済学部経営学科の森永教授。森永先生はwellbeing経営やジョブクラフティングなどを研究していらっしゃる先生です。そして僭越ながら私、Be&Doの橋本が事務局担当理事としてサポ―トさせていただいております。

心理的資本の展望

それではここから、お越しいただいている理事の皆さんに、お1人ずつ自己紹介と、この協会や心理的資本に対する想いや展望などをお話いただきたいなと思っております。
まず開本先生、協会設立の意義や展望も含めてひとことお願いできますでしょうか。

開本:参加の皆様、本日はありがとうございます。大阪大学経済学部経済学研究科の開本と申します。「心理的資本を拡げるんだったら、学会作ったらいいのに」と話したら、気が付けば協会の会長ということになって皆様にこうしてご挨拶することになりました。
心理的資本協会のそもそもの目的なんですが、先ほど橋本さんもご説明された内容にもう少し加えますと、この3つだと考えています。

順番はあまり気にせずお聞きいただければと思うんですが、まず1点目には、心理的資本の科学的解明ということで、きちんと理論もエビデンスもある概念として我々は心理的資本を取り扱いましょうということです。とは言え、あまりにこれが前面に出すぎてしまうと、いわゆる研究者の学会によくあるように、実践とは離れてしまいがちなので、そうしないために、今回の会の名前を、学会ではなく協会にしたという意図もあります。科学的な解明は大事なんですけどそこに過度にこだわらないということを考えています。
科学的解明という部分では、私はもちろんですが、北村先生、森永先生も研究者というお立場で貢献いただけるかなと思っております。

2点目なんですが、心理的資本という概念はまだまだ世の中に広く普及していないですし、一種のバズワードのようになってしまわないように、この概念をきちんと普及させたいなと思っています。啓蒙の部分もありますし、先ほど橋本さんからもご説明があったように「PsyCap Master」という、心理的資本を広めていく、あるいはガイドしていく、メンター役となってくれる人たちをきちんと育てていくっていうのが2番目のポイントになるかなと思っております。

3点目が、心理的資本を通じてのウェルビーイングの実現です。これが究極の目的とも言えるかもしれません。ウェルビーイングが実現できないのであれば、心理的資本をやる意味ってあまりないと思うので、ここは常に念頭に置きながら、心理的資本を高めようとする一人ひとりが少しでも幸福を感じられるようにしたいなと思います。

この3つの柱で、心理的資本協会を走らせていきたいと思いますので、改めてどうぞよろしくお願いいたします。まだできたばかりで、二足歩行までいってない気もしますが、今日ご参加のみなさんと一緒にキックオフをスタートして盛り上げたいと思いますので、改めて、みなさまの積極的なご参加よろしくお願いいたします。

橋本:ありがとうございます。では、理事のみなさんにもお話を聞いていきたいと思います。50音順で、まず池口さんから自己紹介をお願いできますでしょうか。

池口:初めまして。定年後研究所の池口と申します。定年後研究所はまだ小さな研究所ですが、主に大企業の中高年社員の末の永い活躍をしていただくための様々な調査等を実施している研究所でございます。
私自身はずっと保険会社で30年以上管理職を続けてきた一人のサラリーマンでもあります。私も定年を控えたサラリーマンですので、当事者目線でどうずれば自分がイキイキと仕事ができるのかということを考えていますし、自分の心理的資本がどういう状態なのかということも自ら点検しながら、長くなるキャリア人生というものをまだまだ諦めずに頑張っていきたいなと思っております。よろしくお願いいたします。

橋本:池口さんありがとうございます。本当に働きがいだけじゃなくてその先の生きがいというところも含めて心理的資本が重要だなと思います。定年後研究所の研究とも関連性もすごくあると思いますので、後ほどまたお話を聞かせてください。
では、次に北村先生お願いできますでしょうか。

北村:大手前大学の北村雅昭と申します。どうぞよろしくお願いします。私は持続可能なキャリアという概念に注目して研究しています。やはり時代が大きな変わり目を迎えていて、新しい働き方、新しいキャリアを考える時代になってきているのかなと思います。そのときに、冒頭橋本さんからもご紹介があったんですけど、従来ヒューマンキャピタル(人的資本)やソーシャルキャピタル(社会関係資本)っていうのが注目されていたんですけど、やはりこれからの挫折もあり苦難のある時代を乗り越えていくには心理的資本がどうしても必要になると思っています。

私自身がこの心理的資本に注目する理由は、それが開発可能であるということと、もう一つは、持続可能なキャリアの考え方からすると、その開発責任が組織と個人の共同責任だということにあるんです。自分1人でコツコツやるというようなものではなくて、会社に行って自分も頑張りつつ組織にもサポートしてもらってそれを開発していく。それが、仕事人生を輝かせ、人生も輝かせるというものだと私は心理的資本を受け止めておりまして、PsycapMasterのこれからの社会に果たす役割が大変大きいと思いますので、及ばずながら貢献させていただきたいと思っております。よろしくお願いします。

橋本:ありがとうございます。先生が研究されている持続可能なキャリアは、企業と個人が共同責任でキャリアを作っていくというものですが、その中で心理的資本がいろんなところで関わってくるかなと思いますので、シナジーに期待しております。よろしくお願いします。
では、次にフジッコの寺嶋さんお願いできますでしょうか。

寺嶋:こんにちは。私はフジッコという食品会社におりまして、伝統的な和の食材を提供している会社です。私は農学部を卒業して入社して、30数年以上この会社でいろんな部署を転々としながらいるというキャリアを持っております。もともと入ったのは商品開発で20年くらい新商品の開発を中心に、お豆とか佃煮だけじゃなくていろんなデサートやヨーグルト、ヘルスケアのサプリメントなど、いろんな商品を人の役に立つだろうと信じて生み出してきたんですね。

私が入社した頃は、女性でそんなに仕事を続ける人は民間の企業ではほとんどいなくて、なぜ自分でも続けられたんだろうとか、新商品開発をしていくというのは、会社にとって効率性に横槍をさす揺らぎになりますので、なぜそれが続けられたのだろうというのをいろいろ振り返って思うと、実はこの心理的資本が非常に充分にあったからだなと思っています。心理的資本が高い状態のときにうまくいくことが多かったですし、周りとも協調していろんなことが生み出していけたなと、振り返って感じることがあります。ですので、PsyCap Masterや心理的資本協会に非常に共感して理事として活動させていただくことになりました。よろしくお願いします。

今はイノベーション、つまり新しいことを生み出すことが企業にとって欠かせませんのでこれを担当しているのですけど、やはり新しいことを生み出すためには、心理的資本の4つの因子、これを当事者の社員にも、そして周りにいる社員にもここを充足させないとなかなかうまく行かないんじゃないかという現実に直面しております。現実でもこちらを啓蒙して普及を進めたいと思っています。

橋本:ありがとうございます。実際ご自身の体験からも共感いただくことが大きいということろで、これからもぜひ現場でエバンジェリストとして普及活動をしていただけたらなと思います。ありがとうございます。
では続きまして、積水ハウスの藤間さん、お願いできますでしょうか。

藤間:積水ハウスの藤間です。私は、「こころの資本」が出てすぐ読ませていただいて、実務家としてこれは非常にポテンシャルのある可能性を秘めたものだなと感じました。心理的資本を使わない手はない、、、と、この話を喋り始めるとひとりで1時間でも2時間でも喋っちゃうので、2分にまとめます。

まず、ここに書いてあるのは、一人ひとりがいかに能力を高めるかというアプローチです。PsyCap Masterのアプローチもまさにそうなんですが、やはり上司が、あるいは周りが、人を育成するときにこの点を意識することで良くなるよということです。なんとなく自分と同じタイプは育成できるんだけど、ちょっと違うタイプの人の育成は苦手だという人は多いと思います。上司やメンバーの一人ひとりが、この心理的資本を意識すれば絶対組織の風土は良くなるんではないでしょうか。これは開本先生がさっきおっしゃったウェルビーイングですね。
今、心理的資本は伊藤レポートなどにも書かれていたりして注目されていますが、多くは主に経営の方にフォーカスしがちですが、これを実行するという段階ではメンバー一人ひとりに心理的資本のアプローチが役立つのではと思います。
それと人事としてものすごく良いと思ったのは、人の採用や育成の際に今後どれくらいポテンシャルがあるんだろうということをみなさん注目していると思うんですが、その鍵はなかなかありませんでした。まさにこの心理的資本の項目で見ていくとポテンシャルが見えるんじゃないかなと。そういう意味でもすごく可能性のあるものなのでみんなで勉強していきたいですし、そして広めていきたいなと思っております。よろしくお願いします。

橋本:藤間さんありがとうございます。現場の一人ひとりもそうですし、周囲の人がどんどん変わっていくと文化風土ができると思いますし、藤間さんぜひ今後ともよろしくお願いします。
それでは最後に、古屋さんお願いします。

古屋:みなさんこんにちは、古屋です。僕は「フィットネスビジネス」というフィットネス事業者に向けた経営情報誌を、いろんな方々に毎号取材をして掲載している編集者でして、なので心理的資本というよりも身体的資本(笑)寄りなんですけど、この心理的資本と身体的資本っていうのは、底流で相互的依存関係にあるのかなと思っています。どちらかを上げようとすると、もう一方も上がるんじゃないかなと感じていて、心理的資本というのもフィットネス業界の方でも広めていけば、自然に運動したくなったりするし、そして運動すれば心理的資本も高くなる関係があるんじゃないかなと。
世界を見てみると、北欧のノルウェーとかフィンランドとかスウェーデンってフィットネス参加率1位なんですよね。同時にイノベーション大国とも言われていて、同時に幸せ度世界ランク1位、2位、3位みたいなところでもある。3つとも健康度みたいなことと、イノベーションみたいなことと、ウェルビーイングみたいなことと3つ重なっているということは、これはやっぱり心理的資本と身体的資本をやっていけば、そっちの方に近づけるんじゃないかみたいな仮説を持っています。
そこを今回協会の中でも追求して行けたら良いかなと思っています。ぜひよろしくお願いします。

橋本:ありがとうございます。北欧の話、すごく面白いですね。フィットネスクラブとかそういった生活者と密接に関わるシーンでも心理的資本の要素が生かされていくと社会全体がイキイキとするんじゃないかなと、職場だけでなく、そういった生活での消費行動でも良いムーブメントが起こせればなと思いました。ありがとうございます。

心理的資本 最新の研究動向

ということで、自己紹介だけでも学びが既に深いなと感じていますが、ここからみなさんのお立場の視点でもう少し深く聞いてみたいなと思います。まずは開本先生、最近の研究動向とか、最近先生が論文発表されていた定着率、離職と心理的資本との関係性みたいなところもお聞かせいただけたらなと思うのですがいかがでしょうか。

開本:はい、わかりました。まず、定着率との関係性についてですね。これから基本的には人が足りない状態なので、今いる人たちのポテンシャルをどれだけ引き出せるか、能力やスキルをどうやって上げていくかという観点の方がより重要になってくるだろうと思います。もちろん成長を促すエンジンとして心理的資本を考えるという点もありますが、そもそも辞めてもらっては困るので、そこの測定尺度として、辞めたいという気持ちを心理的資本がどれだけ抑制できるかという研究をやっています。

特に医療とか看護のヒューマンサービスの業界や介護の業界、このあたりは離職率が非常に高い業界です。離職しても転職しやすいから離職率も高いという側面も当然あるのですが、一方で働く環境によって離職率の高い施設も低い施設もあるので、離職意志の一つの要因として心理的資本があるんじゃないかという研究をしています。

結果、やはり心理的資本が高ければ、辞めたいという気持ちを一定程度抑えられるということもわかっていますし、ストレスが過度に蓄積してバーンアウト症候群みたいになってしまうことも抑制できるっていうのが、最近の我々の調査の結果として明らかになったことです。

一方で、海外では心理的資本が良いことはもうわかったと、それを高めれば様々なパフォーマンスが上がるとか定着率が上がるとか、そういう良いことが起こるのはわかったので、逆にその心理的資本をどう高めたらいいのか?を研究しようという動きが最近のひとつのトレンドで、エビデンスも出てきています。通常、原因が左側で結果を右側に置くのですが、心理的資本を真ん中に置いたときに、右側には今までの研究結果の蓄積があって我々の研究でもそこはきちんとエビデンスが得られたけれども、逆に今度は左側は何か?っていうのがこれからの研究のトレンドかなというところです。

橋本:ありがとうございます。徐々に日本国内でも、研究や論文とかもそうですし、企業も着目して発信し始めているのかなという印象がありますね。先生は早くから心理的資本に着目されていましたが、最初先生から教えてもらった時には、日本でデータを検索すると本当に少なくて、日本語のものはほとんどなかったですね。

開本:2年前に比べるとGoogleで検索すると2桁くらいゼロが増えてるくらい出てるので、やっと日本でも注目を集めつつあるのかなという気がしています。一方、研究は出てきてるんですけど、それをきちんと普及させて実践させるっていうのはまだまだこれからなので、私どもの日本心理的資本協会のような団体が母体になって、正しく広く広まるといいなと思っております。

橋本:ありがとうございます。次に、心理的資本は直に業績とか経営学の分野でも注目されていることからも、企業の中でどうなのか?っていうところを寺嶋さん、藤間さんに聞いてみたいと思います。

企業における心理的資本の活用意義

ウェルビーイング経営とか、従業員のエンゲージメントとか、人的資本経営の文脈など、人材マネジメントに改めて注目が集まっている中で、心理的資本に着目したマネジメントとか組織として取り組む意義みたいなところをお伺いしたいと思うのですが、まず寺嶋さんいかがでしょうか。

寺嶋:今日少しまとめたものを提示したいと思いますので一緒に眺めてもらえらばなと思います。

当社は、やはり規律正しくきっちりコツコツやって、それをお客様に提供するというのをずっとやってきた会社なので、そういう人が多いんです。しかも上位下達だし年功序列だし、、、なんですけれども、この土台のところを土を耕すようなつもりでやっていきたいと思っています。

まず心理的安全性の確保ですね。どんな意見を言ってもバカにされたりせず尊重されるという風土、あとダイバーシティ&インクルージョン、つまり多種多様であることを認め合っていこうという考え方ですね。これはまだ100%の社員にとまではまだまだな状態なんですけど、でも7〜8割の人はこういうことが当然だよねって思える土台ができてきています。そんな中で今我々が立ち返っているのは、私たちの理念や存在意義です。ここが揺らぐと最終のベクトルの幅がとても大きくなってしまって、いろんな外部環境の変化が起きている時に団結できないということがわかったので、この理念や存在意義の浸透を今やり直しています。

心理的資本の4つの因子が、実務における実践と大きく繋がっているなと実感しています。
まず「HOPE(意思と経路の力)」です。理念経営をちゃんとやっていくとか、一人ひとりの目標管理をそこに繋げていくっていうのがHOPEを増すことになると思います。
そして「EFFICACY(自信と信頼の力)」については、日本人って全体的に自信がないので、CG1(※Be&Doが提供する、心理的資本を高める6ヶ月間の中核人材ガイディングサービス)に部長層を送り込んでいるんですけど、やはり回を重ねるごとにどんどん自分に自信がついてきて、部長としてすごい活躍をしてくれるようになってきてるんですね。まだまだ潜在能力があるのに自信をも持ってやれていない人も多いんだなってことが改めてわかったんですけども、やはりキャリア研修とか1on1とか寄り添うようなしかけをしていかなければいけないというのが2番の取り組みではあります。
そして「RESILIENCE(乗り越える力)」というのは、この会社でこんな存在意義を持ってやっていますっていうことに一人でも多くの社員が共感してくれることと、今の人は個で活躍するよりも仲間と活躍することに喜びを感じられる傾向があるので、そういう仕掛けとか現場を作るということですね。これで乗り越える力をしっかり鍛えていけるんじゃないかと。
そして「OPTIMISM(柔軟な楽観力)」は、失敗したくない人が従業員の中にたくさんいるので、やはりいかにみんなが失敗してきたかっていうのを伝えていけるような仕組みを作っていきたいなと。

今までひととおり階層別教育とかいろんな教育の仕組みを持っているんですけど、ここに心理的資本の4因子が鍛えられるように入れていきたいなと今考えているところです。最終的には風土とか文化とか土台のところを変えないと全てが走り出さないなということも感じています。まだ道半ばですけど、そんな思いで今おります。

橋本:ありがとうございます。いろんなことを両輪で進める本当にチャレンジングな取り組みですね。ありがとうございます。藤間さんは、いかがですか?

藤間:はい、心理的資本に着目したマネジメントということで言うと、人的資本経営があります。経営戦略と人材戦略の連動、今積水ハウスが何をしているかっていうのを簡単にかいつまんでお話しますと、グローバルビジョンとして「我が家を世界一幸せな場所にする」と掲げているとおり、”幸せ”がキーになります。お客様、世の中の幸せを実現するために従業員が幸せじゃなかったらそんなのできないでしょうってことで、積水ハウスを世界一幸せな会社にする。そこで中心に取り組んでいるのがキャリア自律です。

キャリア自律のためにいろんなことをやっているんですけど、研修では難しいのは当たり前で、研修で「こうしてくださいね、これ大事ですよ」って伝えて、「はい、わかりました、やります。」って言われてやる時点で、もう自律していないんでね。じゃあどうすんの?っていうときに、この心理的資本で言われている、エフィカシー、ホープ、オプティミズムにレジリエンス、これがしっかり備わってるかが大事だと思っています。
なかなかこれを何千人といる対象者に研修というのはちょっと無理があるかなと思って、キャリア面談、要は1on1なんですけどこれをやってもらって、一人ひとりのキャリア自律を促してくださいとやっています。そこで本当はこの心理的資本を伝えたいんですけど、それは次のステップにおいて、今やっていることは、とことん聞ききってくださいと。なぜならば、人は人に話をすると、思考の言語化がされ振り返り自ら行動することによって成長して、そうすると成長意欲とキャリアイメージができ、キャリアビジョンに対して充実感が生まれて幸せになることが期待できます。

研修のアンケート結果の2回目が今回出て、嬉しかったことに、自発的な行動が増えたっていうのが、上司も高いのですが、それ以上に部下自身の回答が非常に高くて、意識も高まったという結果が出てきました。このキャリア自律の流れに心理的資本を加えていくと3回目はもっと高まるんじゃないかなと今ちょっと企んでいるところです。

橋本:ありがとうございます。聞いてもらうところから信頼関係が構築されてお互いがちゃんと支援できる体制を作っていくと、エフィカシーが高まりやすくなったりとか、オプティミズムとかレジリエンスも調整できたりとか、何より自発的に行動する人が増えているっていうのはホープがすごく高まっているんだなと、お話を聞いて感じました。

心理的資本と持続可能なキャリア

今、企業の視点を聞いてきたんですけど、研究の視点でもうひとつ、北村先生にもお聞きしたいのですが、藤間さんや寺嶋さんの話からもキャリアの話が出てきました。先生が研究されているサスティナブルキャリア、持続可能なキャリアの研究と関連するのかなと思うのですが、先生は心理的資本をどのように見られてますでしょうか。

北村:自分がこの心理的資本に非常に興味をもっているのは、そのベースにあるポジティブ心理学をベースにしているというところにとても共感しています。

今の大学生に心理的資本があるか?という観点で見ると、ホープない、エフィカシー低い、レジリエンスもない、オプティミズムもないという、まったくアンチHEROです。今、大手前大学では経営学部を新たに設置する予定ですけど、この経営学教育をポジティブ心理学を土台にしてやっていきたいと考えておりまして、今回のこの心理的資本についての学びを大学教育の方にも取り込んで行きたいと思っております。

持続可能なキャリアとの関係で言いますと、人生100年時代と人生が長くなって、その一方でDXは進むし、ウクライナとかコロナとかテロとか、何が起こるかわからない不確実性の時代を生きていく中で、必然的に失敗と挫折が避けられないキャリアだと思います。

この持続可能なキャリアの分野で注目されている概念で、キャリアショックっていうのがあります。ネガティブな挫折とか失敗を経験した人が、その後どのような人生を歩んでいるかっていうと、ある意味当たり前なんですけど、それをきっかけに人生が良くなったという人が結構な数いるんですね。それをきっかけに折れてしまった人もいるんですけども、一方でそれがあったからこそ大きく成長できた自分があるという方もいらっしゃるんです。

つまり、持続可能なキャリアで避けられない失敗や挫折っていうのは、ある意味大きな成長のチャンスなんですけど、じゃあ失敗や挫折を成長に繋げるための要因はいったい何なのかというのはまだあまりよくわかっていなくて、おそらくそこには、ホープとかエフィカシーとかがあるのは間違いのないことだとは思います。そこの因果関係を研究者として極めていきたいとともに、学生を社会に送り出す教育者の立場では、アンチHEROではなく一人でも多くHEROを、PsyCap Masterの一人になるよう実現していきたいなと思っております。

橋本:ありがとうございます。大学とか早い段階でHEROの考え方を自然に取り入れていくことができれば、これから世の中もっと明るくなっていくだろうなと思いますね。先生、ぜひよろしくお願いします。

私自身もキャリアショックがあったから今に繋がってるなと思うんですが、今ふりかえってみると、その時に心理的資本のこれが作用していたんだなと思いますし、こういった捉え方や考え方次第で変わるよということをみなさんと広めていきたいなと思います。

ミドルシニアの活躍と心理的資本

それでは、池口さんに聞いてみたいんですが、ミドルシニアの活躍とか定年後の生きがいにも心理的資本は鍵になるのかなと思っているのですが、もし調査などでわかったことがあればお聞かせいただきたいです。

池口:はい、サラリーマンは役職定年や定年、再雇用満了だとか再就職などいろんなイベントを乗り越えていかないといけないわけですけど、その時に心理的資本が土台になるという調査結果を共有させていただきます。

定年後研究所で、主体的な学びの強さとキャリアビジョンの見通しの掛け算で、上場企業の1300人の男女、20代〜60代の会社員にアンケートをとって、TOP層、中間層、ボトム層と勝手に区分けしています。

びっくりしたのが、20代の人でも60代の人であっても、この分布っていうのはほとんど25%、50%、25%で変わらなかったということです。年をとっても主体的に学びたいと言ってる人は、別に若い人と遜色ないということがアンケートから見てとれました。

またTOP層とボトム層の違いというのは、原因、因果関係までは見れてないんですど、いろんな項目で相関分析をしました。人的資本、社会的資本、そして心理的資本、そして3つの自信度合いといったものをTOP層とボトム層で比較をしますと、TOP層は全てにおいて自信満々で、一方キャリア自律が弱い人っていうのはボトム層で自信がないというように、見事にきれいに分かれています。

先ほど、フジッコの寺嶋さんがイノベーションとおっしゃっていたように、どの会社も難易度の高い仕事とか、やったことのない未知の分野の仕事にチャレンジして欲しいと思ってると思うんですけど、やはりキャリア自律の高いTOP層は全ての項目においてそういう仕事にチャレンジしたいと言われていますし、ボトム層はあまりそういったことにはチャレンジせずにこれまでの仕事をこれまでとおり続けていきたいと言っていますので、そこのあたりも大きな違いになっているのかなと。いずれにしても心理的資本を中心に置くといろんなことが浮かび上がってくるなという風に感じました。
今説明したのは、50代と60代の結果なんですが、若い人と遜色ないと言えるものも多くありました。

これは宣伝ではないですけど、11月下旬にこの調査結果を発表しますので、またお問い合わせいただければと思います。
また、これも恐縮なんですが、私もこれからキャリアチェンジして人生60代、70代どうしていこうかと自分で考えて行動していかないといけないんですけど、『人生の頂点は定年後』という書籍を出しました。これからバブル採用世代含めて、定年を迎える人がいっぱい出てくるわけです。会社人生が頂点ではなくて、これから頂点を迎えてほしいと思っています。ご関心があればご一読いただければと思います。

私もこれから、心理的資本を高めて長くなる職業人生を乗り越えていきたいと思っておりますので、この会でたくさんのことを勉強していきたいと思っています。

橋本:ありがとうございます。池口さんの本の中で、心理的資本のことを心のバネみたいなものだと表現されていて、すごく良い表現だなと思いました。これから先々を考えていくときに心理的資本の開発を中心に置くといろんなことが解決してくると思いますので今後もご注目いただけたらと思います。

心身の健康と心理的資本

では古屋さん、健康産業という分野でも個人のイキイキやパフォーマンスを支援するという意味で、心理的資本に着目したメンタルアップのビジネスとか、そういう可能性ってあるんでしょうか?

古屋:なるほど、そう聞かれるってことは、あまりフィットネスサービス事業者としてそういう効果があるってことを伝えきれていなかったってことですよね。
僕は、体を鍛えることそのものにも自己効力感とか自信をつける効果がめちゃくちゃあると思うんですよね。ですが、事業者側が、身体が鍛えられるとか病気にならないとか身体的な価値ばっかり訴求していて、心理的な価値を訴求しきれてなかったんじゃないかなって思います。
だからもっと心理的資本に着目して、コミュニケーションの仕方をもっと磨かないといけないのかなって反省しましたね。

橋本:実際僕自身も、例えば僕がダイエットできた自分を想像して、そこに向かって進んで行動できているとエフィカシーも高まってくると思うんですよね。そうなると他のこともチャレンジしてみようという気持ちにもなってきますし、フィットネスと心理的資本は絶対関係があると思うんですよね。

古屋:何人もの外国人に、フィットネスって言葉にはどういうニュアンスがあるのかを聞いたんですけど、ある外国人が「準備ができた状態だ」って言うんですよね。まさにそれって行動したいっていうポジティブな思いなので、心理的資本の考え方と近いのかなって思って。僕自身はHEROの「H」と「E」はヘルスとエナジーというふうにしてるんですけど(笑)

橋本:ありがとうございます。エフィカシーをどうやって高めるか?という要素のなかに心理的幸福感、情緒的な高揚感というものも含まれていて、それって心身が健康な土台ができているというか準備ができている、そのものでもあるなと思います。ありがとうございます。

さいごに

橋本:みなさん、最後に感想をいただけたらと思うのですが、藤間さんからお願いします。

藤間:私にとっては心理的資本はワクワクイキイキしかないです。そうやってみんなで日本を盛り上げたいなと思います。よろしくおねがいします。

寺嶋:私も会社の元気と人の元気が日本の元気になってくると思うので、やはり最終的にはここを目指してみんなで幸せな国づくりみたいなことになるかと思います。そして会社にいる間だけじゃなくて、ずっと生涯、心理的資本を高めて自分のエンジンにしていくってことが大事だなと今日もつくづく思いました。どうもありがとうございました。

古屋:30~40年前は世界の企業価値ランキングで日本はいっぱい入ってたと思うんですけど、今GAFAとかになってしまって、GAFAの創業時の創業者の平均年齢が24歳で、新卒と変わんねーじゃんと。それくらい心が満たされた状態で事業をやると、あまり常識や過去の経験にとらわれない、勝ちパターンとか関係ないみたいなことでやっていくのが大事で、そこに心理的資本が活きてくるんじゃないかなと思います。ここからが失われた40年なんてならないように、繁栄する10年の始まりだってなるようにみんな燃えようぜっていう話ですよね。

北村:今日改めてHEROの意義と価値について再認識しました。HEROは計測できるということですので、僕も定期チェックして自分の人生に備えていきたいと思います。本日はありがとうございました。

開本:私もみなさんに共感することがあります。先ほど古屋さんが平均年齢の低さをおっしゃってましたが、むしろこれからの日本を元気にするのは、中高年以降というか、我々昭和の時代の人間がもうひと頑張りした方がいいのかなと思いますし、そこにもぜひ心理的資本を高めるアプローチをしていきたいですね。最近日経新聞で経済成長の話が出ていましたけど、最後は、労働じゃなくてて、技術進歩を支えるのは一人ひとりの元気さだし、その根っこに心理的資本があるんだなと思って、この研究や普及にもっともっとがんばらないといけないなと気持ちを新たに認識したところです。本当にありがとうございました。

橋本:これからみなさんでHEROを目指してがんばっていきたいと思います。

みなさん今日はありがとうございました!

動画での視聴はこちら

★セミナーのアーカイブ動画も公開中です。ぜひご覧ください。

舞田美和

舞田美和

Be&Doカスタマーサクセス担当/ CDAキャリアカウンセラー。人材サービス・教育研修会社の企画営業として多くの人材育成支援に携わる。その後、人事・採用、大学の新設・運営業務の後、現職。Be&Doのカスタマーサクセス担当として、イキイキとした組織・人材づくりの提案や運用支援を行っている。

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著者プロフィール

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Be&Doカスタマーサクセス担当/ CDAキャリアカウンセラー。人材サービス・教育研修会社の企画営業として多くの人材育成支援に携わる。その後、人事・採用、大学の新設・運営業務の後、現職。Be&Doのカスタマーサクセス担当として、イキイキとした組織・人材づくりの提案や運用支援を行っている。

著者リスト

  • 赤澤智貴
  • 小西ちひろ
  • 橋本豊輝
  • 石見 一女
  • 舞田美和
  • 雪丸由香

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