コラム

「ドーハの歓喜」から学ぶサッカー日本代表の心理的資本

「カタール・ワールドカップ」1次リーグで格上であるドイツ・スペインに歴史的勝利を収め、グループリーグ1位通過を果たした日本代表。惜しくも、決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦で敗れましたが、下馬評を覆す活躍で、私を含め日本人や日本代表を応援する全ての方が大いに刺激を受けたと思います。

そんな日本代表の活躍の要因の一つとして、”メンタルの強さ”が注目されています。二度の逆転勝利があり、特に背水の陣で臨んだ第3戦のスペイン戦は、第2戦でコスタリカに敗戦した逆境の中で選手は素晴らしいパフォーマンスを発揮しました。

ところで、”メンタルの強さ”と聞けば、「根性」や「やる気」のように精神論で捉えてしまいがちですが、そこには何かしらの強さの秘訣や、理由があるはずです。そこで本ブログでは、具体的にどのようにメンタルの強さを日本代表は発揮していたのか、”心理的資本”の理論を基に考えてみたいと思います。

なお、心理的資本とは、目標達成に向かうポジティブな心のエネルギーのことをいいます。一言でいうと、やり遂げる自信です。スポーツに限らずビジネスなど様々な分野で、ヒトがパフォーマンスを発揮する上で不可欠な要素です。心理的資本を高める介入方法(=ガイディングといいます)は体系化されています。日本代表の心理的資本を学び、例えば部下育成や、自身の心理的資本を高める参考にしてみてください。

日本代表チームの心理的資本「HERO(ヒーロー)」

心理的資本は、HERO(ヒーロー)と呼ばれる4つの構成要素からなります。本ブログでは日本代表のインタビューコメントに注目して、HEROそれぞれの観点から解説します。

日本代表の”自信と信頼の力”=Efficacy

心理的資本におけるエフィカシーは、自己効力感と訳されます。「自分にならできそうだ!」という、”自分自身への自信と信頼の力”とお考えください。

第一戦で同点ゴールを決めた堂安選手は、試合後このようにインタビューでコメントしました。

「俺が決めるという気持ちで入りましたし、俺しかいないと思って、強い気持ちで入りました。これに一喜一憂せず、強い気持ちを持って、またチーム一丸となって戦います。僕が日本サッカーを盛り上げるという気持ちでピッチに立っているので皆さんにぜひ期待してほしいです。」

さらに、堂安選手のあとに決勝ゴールを決めた浅野選手はこのようにコメントしています。

「約4年半前に(ロシアW杯に臨む)メンバーに入れなくて、その瞬間から今日のことを想像しながら、今日の日のために全力で準備してきたので、それが結果に繋がっただけかなと思いますし、これが結果に繋がっていなかったとしてもやってきたことは変わらないので、それが今日たまたま結果に繋がっただけかなと思います」

両名とも、単に”気合い”ではなくて、ゆるぎない”自分自身への自信と信頼”を持ち合わせていることがひしひしと伝わるコメントですね。

エフィカシーを高める方法に「達成体験」「代理体験」があります。

達成体験とは、成功体験に限らず、試行錯誤しながら、目標を繰り返し達成することで経験値を積み重ねる体験のことです。多くの選手が海外リーグに所属するなど、高いレベルに身を置き、日々達成体験を積んでいるのは言うまでもありません。

代理体験とは、自分と近い立場の人や、共通の目標を目指す仲間の取り組みから学び刺激を受けることで「あの人がやるなら自分もやる」「あの人でもできるなら自分にだってできる」と感じることです。第一戦後に吉田麻也選手は「昨日もサウジが0ー1のビハインドから逆転して大きなことを成し遂げたので、自分たちもいけると信じてやりました」とインタビューで答えています。まさに、代理体験そのものです。高いエフィカシーの力を持って、試合に臨んでいたといえます。

日本代表の”柔軟な楽観力”=Optimism

シンプルな電球アイコン

Optimism(オプティミズム)は、根拠の無い「なんとかなる」という楽観では無く、現実的で柔軟な楽観力のことをいいます。

ここでは、日本代表の森保監督のコメントに注目します。森保監督は敗れたコスタリカ戦後、このように選手を鼓舞していていたそうです。記事を引用します。

GK権田修一(清水)は「3戦目に勝てば決勝トーナメント進出という分かりやすい状況。選手はみんなポジティブで、相手がどこであろうと勝たなければと話している」と説明。敗れたコスタリカ戦後、「過去は変えられないが、未来を変えることは自分たちの力でできるんだ」との森保監督の言葉で救われたという。

引用:日本経済新聞:2022年11月30日 22:40

Optimismの思考法として、「過去への寛大」「将来への機会探索」という考え方があります。過ぎ去ったことは過度に反省せず、良い意味で忘れて、変えられることに集中する考え方です。森保監督の言葉は、まさにこれに該当します。

「過去への寛大」において大事なポイントは、自分がコントロールできたと思うことと、コントロールができない自分以外の要因だと思うことを切り分けることです。そしてコントロールできない要因に関しては過度に自責しないことです。長友選手はクロアチアに敗戦したことに対して、「(差は)少しの運だったと思う。クロアチアに劣っているとは全く思わなかったし、見ての通り、素晴らしい自分たちのサッカーができていたと思う」とコメントしています。思い切って、時には運だと割り切ってしまうことも必要かも知れません。

そして、加えて私が紹介したいのは、ネットTVで解説を務めた元日本代表の本田圭佑さんのコメントのOptimismの高さです。本田さんは対コスタリカの敗戦後に即、「下馬評では予選敗退やったので。別にこの状況は勝手に僕らが期待して勝手にガッカリしてるだけ。もうわかってたよと、元々こうだったよねっていうラインにもう1回落ち着かせて」とコメントし、頭を切り替えていました。サッカーの技術はもちろん、この心理的資本の高さが、本田さんが人を惹きつける所以でしょう!

日本代表の”乗り越える力”=Resilience

人生の試練_障害物競争_ハードルや壁

Resilience(レジリエンス)は、危機や逆境に陥った時に、元に戻り回復することを超えて、逆境をきっかけにさらなる成長や成功につなげる力です。

Resilienceを発揮するための方法として、自身の持つ”資産”に注目する考え方があります。資産とは、その人の持つ知識やスキル、ネットワークのことを差します。第2戦、コスタリカに敗戦した逆境の中、どう立ち向かうか。森保監督はインタビュアーの「スペイン戦に向けてどのような準備をしますか?」という質問に、「われわれの良さを活かしていけるように、勝利を目指して最善の準備をしたい」と答えていました。さらに主将の吉田麻也選手は第3戦のスペイン戦の前に、「守備に関しては相手を知ることが大事で、(東京五輪で)対戦した経験は生きる。スペインのボールの動かし方は変わらないのでイメージも湧く。次こそいい結果を」と答えています。

第2戦後は、日本国内でもショックから批判の声が上がりましたし、選手自身のショックも当然大きかったと思います。そんな逆境の中でも、自分達の持つ資産に目を向けて、立ち向かった日本代表は本当に素晴らしいですね。

日本代表の”意志と経路の力”=Hope

サッカー

心理的資本のHopeとは、こうありたいという意志の力(Wii Power)と、それを実現するための複数の経路を描く力(Way power)を持ち合わせた力のことをいいます。

日本代表におけるWay powerは、試合の中での戦術の引き出しを多さを差しますね。戦術の解説は専門家に任せるとして、ここではWii Powerに注目します。

まず根源的なWillとして、「サッカーが上手くなりたい。勝ちたい。」と幼少期から人生をかけてきた代表選手が集結していることは言うまでもありません。その上で、適切な目標設定がなされているかどうかがHopeを高める鍵の一つです。適切な目標とは、”ストレッチ目標”かどうかがポイントとして挙げられます。難しく挑戦的だが不可能ではないと思える目標です。

森保監督は、「優勝」ではなく「ベスト8以上」を掲げ、日本代表はチーム一丸となって戦いました。これが日本代表にとってのベストなストレッチ目標だったのだと思います。

ただ、次のW杯に向けて、ストレッチに感じる目標レベルがもう一段上がったのならば、「ベスト8以上」の目標設定を変えるときが来たのかも知れません。森保監督は「新しい時代を見せてくれた」と話し、選手達からは「敗退はわずかな差であり、ベスト8にふさわしい力がある」という声も聞かれています。日本代表のW杯敗退後、本田圭佑さんは、「ベスト8を狙うんじゃない。優勝を狙うんだ。優勝とベスト8を目指すのとでは、努力の方法が全く変わると思ってる」とツイートしています。さらなる目標達成の実現を期待したいですね!

最後に

冒頭に書いたように、メンタルの強さは「根性」や「やる気」のように精神論で捉えてしまいがちです。心理的資本の構成要素であるHEROの視点から日本代表のメンタルの強さを紐解くと、具体的にどうメンタルが強いのか、少し明確になったのではないでしょうか。

勘違いしてはいけないことがあります。それは、「あの人は元々心理的資本が強い人なんだ」と、全てがその人の特性として備わっているものだと考えたり、あるいは「ハイレベルな練習に耐え、その中で自然に培うものであると」と考え、心理的資本を軽視することです。メンタルの強さを発揮できず、潰れてしまった選手は大勢いるはず。会社員も然りです。心理的資本は適切な介入によって高めることができます。まずは本ブログが、”心理的資本”の視点から人のパフォーマンス発揮について考えるきっかけになれば嬉しいです。

そして、サッカー日本代表の皆さん、感動をありがとうございました!

※心理的資本について知りたい!という方は、こちらの資料が参考になります。ぜひご参考ください。

赤澤智貴

赤澤智貴

PsyCap Master 心理的資本コンサルタント。株式会社Be&Doのプランナー。人材サービス会社での企画営業を経て、2019年8月より現職。社員が楽しく前向きに挑戦し、成果が出る組織作りの実現を目指している。素材メーカーのマネジメント人材育成、組織開発/小売業の人材育成強化などを担当。健康経営アドバイザー。アンガーマネジメントファシリテーター。趣味は野球。二児の父。

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著者プロフィール

赤澤智貴

赤澤智貴

PsyCap Master 心理的資本コンサルタント。株式会社Be&Doのプランナー。人材サービス会社での企画営業を経て、2019年8月より現職。社員が楽しく前向きに挑戦し、成果が出る組織作りの実現を目指している。素材メーカーのマネジメント人材育成、組織開発/小売業の人材育成強化などを担当。健康経営アドバイザー。アンガーマネジメントファシリテーター。趣味は野球。二児の父。

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  • 赤澤智貴
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