コラム

人的資本経営を会社ではなく野球チーム運営で検討してみたら

人的資本経営という言葉を見かけることが増えました。人的資本情報の開示義務などもあり、上場企業を中心に情報の整理や、具体策の検討が急がれているとされます。さて、一方で、一般的なビジネスパーソンにとって「人的資本経営が大切だ!」と言われても、なんのこっちゃか分からない、という声もやはり多く聞かれます。

そこで、私なりに、あくまで私なりにではありますが、自分が長年運営している野球チームを例にあげながら、考えてみたいと思います。

良い時と悪い時を比較してみて分かること

私は学生時代から22年間運営、草野球チームを運営しています。
これだけ長く運営していると、チーム状況・メンバー状況の変化などがあり、同じチームであっても、そのパフォーマンスの差が激しく、比べることが容易です。良くも悪くも…。
つまりかつてはけっこう強いチームに成長していたのですが、現在は見る影もない弱小チームになってしまったのです。そこにヒントがあるのではないかと思いました。

年齢的な体力的な問題とか、仕事の関係の配属や転勤、ライフイベントの関係など様々な事情が重なったことはもちろんありますが、そのあたりは今回は触れずに考えてみたいと思います。それらの背景を加味してしまうと、めちゃくちゃ複雑になってしまうので!※環境や状況が違うので、かつてと同じことを今しろと言われても、様々なリソースがありません(笑)

とにもかくにも、いくつかカギとなりそうなポイントがありましたので、比較してみます。

目的地が明確かどうか

チームが強かった時には、私設リーグなどにも所属し、トーナメント大会にも出場をしていました。
なんとなく楽しく野球をやれれば良い、というのではなく、楽しみながらも勝つことをしっかりと目指していました。これは間違いなく「良い緊張感」が保たれていたのではないかと思います。
会社でいえばパーパスやミッション、企業理念が単なるお題目ではなく、しっかりと現場まで浸透している状態と言えたかもしれません。

一方で弱い現在はどうか。そういった機会が無いためか、ただ野球を楽しむために試合をしている感覚になっているかもしれません。勝てなくても仕方ない、という敗け癖もついているように思います。ひとりひとりの選手の能力は決して悪いわけでは無いのです。練習試合も「勝った方が気持ちよい」とは思っているものの、戦力不足で「どうせ無理」という無力感がはびこっているようです。

人材の個性の適切な把握ができているかどうか

チームが強かった時は、ひとりひとりのことをとても良く知り理解できていました。それはもちろん、中学や高校の友人知人が中心だったこともあり、個性は把握していました。いつまで野球部にいたかとか、素人でも何の部活をやっていたとか、誰がどこのプロ野球チームのファンだとか、どこの守備が特に得意とか、足が速い遅い、バントがうまい、野球は苦手だけど想いが強いとか、どれくらいボケたりツッコミを入れても大丈夫かとか、あらゆることを把握できていたように思います。

一方で弱い現在はどうか。メンバーの大半がここ1年~2年で入ってきたメンバーです。どのポジションが得意という自己申告をしてもらって、およそどんな選手かは試合の様子を観察することで把握していますが、時々しか顔を合わせず試合後もすぐに解散してしまうため、個性をよく把握できているかといえば、そうではありません。

圧倒的なコミュニケーション不足もあるでしょう。

チームで協働したり会話する機会の量を保てているか

前項に続きますが、コミュニケーションの量を確保できているかどうかは、チームワークに影響すると思います。それは流行りコトバの「心理的安全性」も関係します。

チームが強かった時は、試合の頻度も非常に多く、ほぼ毎週のように誰かしら顔を合わせていました。試合が終わった後に銭湯に行ったり、食事に行ったりということも日常的でした。その日の好プレーも珍プレーも含めて、試合を皆でしっかりと振り返りながらわいわい談義を行っていました。
また、チームのWebサイトに埋め込んでいたインターネット掲示板を使用し、そこでもいろいろと話をしていました。

弱い現在では、試合が終われば、軽く着替えをしながら反省会はするものの、すぐに解散をしてしまいます。しかも、試合の頻度は極端に少なく、2か月に1度集まるかどうかかもしれません。チームのLINEグループは作っているものの、かつてのネット掲示板のような気安さはなく、出欠の連絡用グループとなっています。

互いを知る機会、共にプレイすることで「自信と信頼」を築く機会をどのようにつくるかも大切になりそうです。

行動指針が明確

趣味のチームとはいえ、相手チームと気持ちよく試合をするために、試合中の態度や振る舞いについて、しっかりと指針を示していました。いくつか例をあげるなら相手を野次らないことや、チームメンバーがエラーしてもひどいこと言わないこと、上手なメンバーが未経験者に教えること、などなど。こうしたことも、気持ちよく楽しく場に参加できる安心材料になっていたかもしれません。

これは弱くなってしまった現在でも踏襲はされているものの、名言・明示をしっかりとできていないということは間違いありません。

チーム内外に情報の開示

強い状態の時は、チームの詳細の情報、これからの予定や、選手情報、成績、試合結果などを事細かにインターネット上のWebサイトにより多くの情報を”開示”していました。これによりいわゆるステークホルダー(つまりは、チームメンバーや、その友人たち、対戦相手、対戦相手候補、チームに入りたいという人などなど)とのコミュニケーションが成立していただけではなく、チームメンバーも良い成績を残したいという想いも強くなり、良い活躍をした時には誇らしげにしていたことを思い出します。

現在の弱い状況では、ここまで力を入れることができず、最低限のハードデータが開示されているだけになっている状態です。だから、どんなチームなのか、どんな魅力があるのか。ステークホルダーにも伝わらない状況でしょう。

これも会社と近いことが言えるかもしれませんね。

まとめ

「人的資本経営」と言われれば、難しく経営や、組織の運営という観点で見ると難しく映りがちな言葉ですが、ここはひとつ、何らかの「成果」を目指す部活動やクラブチームを例にしながらシンプルに考えてみました。

改めてまとめてみたいと思います。

自分たちのチームには、どのような人が所属しているでしょうか。まずは一人一人の特徴を把握していくことは当然行いますよね。

その中で、どのような強みとなる武器を持っているのか。または、本人がどうしたいと思っているのかを把握しながら、チームとして必要な戦力とのすり合わせを行いつつ、パワーアップを目指すため必要な練習メニューを提供するでしょう。必要な戦力が今すぐ足りなければ、新戦力をスカウトする方法もあります。

所属する戦力のパフォーマンスを最大化するために、人そのものの能力を開発するという考えもありますが、チームワークを向上するための関係性や意思疎通の方法の改善に注力するという考え方もあります。ひとりひとりが自信を持てるような機会や場をつくり、工夫することもアリでしょう。

そのうえでチームの目標を達成するために、どう戦力を活かすか。チームの戦略を実行に移すために既存戦力をどのように配置し活かすか。これが「人を投資する」ということでしょうか。

今回は趣味のスポーツチームを例にしてみましたが、人的資本経営がハードデータとして数値を開示するだけでは意味をなさないことや、何も研修や調査だけが施策ではないことも、おぼろげながらつかめたのではないかと思っています。(つかめていただけたのなら、嬉しいです)

もちろん、会社ではよりシビアに、そして複雑に様々な問題に対峙していかなければならないと思います。

従業員のパフォーマンスを高めるためにエンゲージメントを測って対策を考えることは大切ですが、何のために、何を、どのように実行するのか。戦略を立てつつ、一歩ずつ実行に移していきたいところですね!

橋本豊輝

橋本豊輝

株式会社Be&Do 取締役 COO/日本心理的資本協会 事務局担当理事。PsyCap Master® Exsecutive Guide。組織活性化プログラムの開発・提供や、人材育成サービスの開発、マネジメント支援ツールの設計に携わる。企業の管理職や従業員など働く人のWellbeingをサポートする外部メンターとしても活動中。心理的資本を高める手法を追究している。著書に「心理的資本をマネジメントに活かす」(共著)中央経済社,2023年がある。

心理的資本の概要/高める方法を資料で詳しく見る!心理的資本とは、人が何か目標達成を目指したり、課題解決を行うために前に進もうと行動を起こすためのポジティブな心のエネルギーであり、原動力となるエンジンです。「心理的資本について詳しく知りたい」方は、以下の項目にご入力のうえ「送信する」ボタンを押してください。
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・心理的資本が求められる背景
・心理的資本の特徴
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執筆者プロフィール

橋本豊輝

橋本豊輝

株式会社Be&Do 取締役 COO/日本心理的資本協会 事務局担当理事。PsyCap Master® Exsecutive Guide。組織活性化プログラムの開発・提供や、人材育成サービスの開発、マネジメント支援ツールの設計に携わる。企業の管理職や従業員など働く人のWellbeingをサポートする外部メンターとしても活動中。心理的資本を高める手法を追究している。著書に「心理的資本をマネジメントに活かす」(共著)中央経済社,2023年がある。

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