慢性的な人手不足。生産量は増加しているのに、利益は上がらない。品質のトラブルも後を絶たない。労災リスクもくすぶっている。企業価値と直結するこれらの切迫した課題に、製造・生産現場は日々直面しています。まさに三重苦。この三重苦を解消するために、どこから、どうやって斬り込めば良いのでしょうか?この悩ましいテーマと向き合ってみます。
目次
製造・生産現場に根強く残る昭和型のマネジメント
製造・生産現場には、昭和型の人材マネジメントが根強く残っていませんでしょうか。上意下達で意見を言えない風土、言われたことだけやっていればいいという雰囲気、背中を見て育てという指導方針。深刻なところでは、パワハラ体質にも近いものがあります。
人手不足、品質管理、労災低減、コンプライアンスなどの課題を乗り越えていくためには、この昭和型の人材マネジメントから徐々に脱却する必要があります。なぜでしょうか?
変化が求められるこれだけの理由
苦労して採用した人材が、昭和型マネジメントの下で働きがいも働きやすさも感じられず、退職し定着しない。採用した人数と同じくらい退職するような状況では、人手不足が一向に解消されないどころか、職場環境に関する悪い噂が巷に広まってしまうリスクがあります。
品質管理においては、どれほど練られた仕組みやルールがあったとしても、最終的には仕組みやルールを運用する”人”が、誇りと責任を持って仕事に当たることが品質を左右します。誇りと責任を持って仕事に当たれるようにするために必要なことは、一方的な強い指示ではありません。
また、労災の発生を抑制するためには、危険の予兆を報告・相談しやすい職場風土であることが重要ですが、パワハラ体質の下でそれらが適切に機能するでしょうか。過度に責任が追及されることがあれば、ヒヤリハットは見過ごされてしまいます。結果的に、労災は減らず企業価値に打撃となります。
三重苦の解消に向けては、昭和型人材マネジメントからの脱却を目指す”職場環境改善”が必要です。
人の心が変わらないと解決しないと気づいた!労災に悩むA社
機械系の製造ラインを持つA社は、ここ数年労災が定期的に発生してしまう状況とのこと。「一見些細なことかもしれないけどルールが守られない」「不安全の種が見過ごされている」などの要因が挙げられました。また、「生産量の増加に伴い人員を増やすも、教育が追いついていない」というのが実情でした。影響は労災のみならず品質にも及び、製造量が増えているにも関わらず、利益が増えていないという課題も抱えておられます。三重苦そのままです。
「ルールが守りましょうと、張り紙を増やしたり、冊子を配るのみでは、ルールは守られない。一人ひとりの心が変わらないと問題は解決しないと考えています。なので力を貸してもらいたいです」とA社のご担当者様はおっしゃいました。
職場環境の改善で、現場一人ひとりの前向きな気持ちを醸成する
現場の”人”を大切にしよう!職場環境を改善しよう!となった時に、「報酬を上げよう」「食堂を充実させよう」など福利厚生面に目が向きがちです。勿論それらも重要な要素ではありますが、得られる効果は一過性で、企業側としても出来ることの限界があります。
持続可能な職場環境の改善・向上のためには、組織マネジメントの転換が不可欠です。”人”の意欲、前向きな気持ちは適切な組織マネジメントによって醸成され、その鍵を握るのは「心理的資本」です。
心理的資本は「態度・行動」に影響を及ぼす
「心理的資本」とは、自律的に目標達成を促す心のエンジン、やり遂げる自信ともいえる概念です。心理的資本は感情に近いモチベーションよりも安定的で、測定・開発ができます。心理的資本の状態は実際にどのような影響を及ぼすものなのか。
従業員の「態度・行動」と心理的資本に関する研究では、心理的資本は、正の相関では望ましい態度(満足、コミットメント、幸福感)、望ましい行動(主体的な役割外の働き・協働、個人の生産性・業績)となり、負の相関では望ましくない態度(変化に対する皮肉・冷笑、ストレス・不安、離職の意向)、望ましくない行動(コンプライアンス・ルール違反、問題行動等ネガティブな逸脱行動)に関連することがわかっています。
現場一人ひとりの心理的資本がしっかり育ち、前向きな態度・行動が生まれたら、職場環境の改善が見込めます。その結果として、エンゲージメントが高まり人材は定着、質の高い仕事で品質も保証され、ルール違反が減り労災リスクも下がる、そんな良い影響が望めるでしょう。
続いて、一人ひとりの心理的資本が高まるマネジメントを、製造・生産現場に浸透させていく方法について考えてみたいと思います。
まずは職場の核となる人にアプローチ!
まずは職場の核となる人材のリーダーシップ発揮促進に着手することが、おすすめです。核となるのは、規模と状況によって工場長かもしれませんし、部長、課長かもしれません。
核となる方々は、普段から製造・生産に関して大きな責任を負っていますが、そのような状況下で”職場環境改善”というミッションが与えられたとき、それを力強く推進する余裕も自信も持ちづらいという課題に、往々にして直面します。場合によっては”やらされ感”いっぱいで進めることにもなってしまいかねません。
したがって、核となる方々には、“職場環境改善”に本気で取り組むことへの腹落ちと自分事化、そして推進するためのリーダーシップに気づき、自信を高め行動に移すことを促進します。まずは核となる方の心理的資本を高めるのです。リーダーの心理的資本は組織内に波及するため、特に重要です。
しかし、このような変容は一朝一夕にできるものではなく、一定期間の伴走支援が必要です。実際に工場長の方が、当社のCG1プログラムで伴走支援を受け、リーダーシップや行動に変化が起こり、職場にもポジティブな変化をもたらした例がこちらです。
この重要な点のアプローチを疎かにしたまま、広い面のアプローチに入ってしまうと上手くいかない要因にもなります。職場の核となる人材の心理的資本を開発すること、これが職場環境改善の一歩目です。
象を動かすには、ブライトスポットに着目を!
私がBe&Doに入社してすぐに読んだ本がいくつかありますが、その一つが『スイッチ!「変われない」を変える方法』です。その中で、象(大きな組織の比喩)を動かすには、「ブライトスポット」=成功例を探し、その仕組みを理解して実践することがポイントであるといった趣旨の記載があります。
製造・生産の現場は、大きな図体をしており、簡単には動かない。(そういう意味で”象”ではないかと思います。)そして、失敗や不良が許されないミッションを抱える職場なので、無意識に上手くいかない組織ばかりに意識が向いてしまいます。工場内全体が良くならないと意味がないようにも感じられ、ますます動き出しづらい。しかし、いきなり工場全体が良い方向に変化する魔法のような施策はありません。
組織マネジメントのキーマンにアプローチをしながら、上手くいき始めた組織(=ブライトスポット)を探す。そして、上手くいっている要因を個人の資質で片づけず、再現可能な形を見つけ、地道に横展開をしていく。長期戦の覚悟は必須ですが、一歩目のハードルは思っているよりも高くないかもしれません。
こちらのセミナーの内容もヒントにしていただけます!