コラム

対話における「人の強み」と「AIの強み」とは何か?社員のキャリア自律支援は”ハイブリッド”で考える。

私たちBe&Doは、以前よりご支援しているマンツーマンの管理職トレーニング(CG1)に加え、新たなサービスとしてAIキャリア相談室「HERO Me(ヒロミー)」の提供を開始しています。HERO Me のご利用の声や開発における試行錯誤を通じて、AIの強みはもちろん、人による支援の強みについても、比較する中で改めて見えてきた気づきがあります。それらを言語化・整理したのが本記事です。

人のキャリア自律支援の分野においても、急速に進化するAIの力を活かせられます。一方で、人の支援もやはり重要。人とAI双方の良さを活かす「ハイブリッド」な支援が理想だと私たちは考えます。本記事が、互いをどう棲み分け、活かすことができるのかを考える一助になれば嬉しいです。
なお、本記事における人の支援者とは、必ずしもキャリアコンサルタントに限らず、職場のメンターや上司、外部コーチ、人事の支援者など、幅広く捉えてください。

人の強み:状況に応じた柔軟な対応と経験に基づく深い洞察

まず、キャリア相談における人の強みは多岐にわたります。

1. 「時間の制約」がもたらす気づき

当たり前のことですが、対面でのキャリア相談には時間の制約があります。これはAIとの対話と比較して捉えると”価値”だと私たちは考えます。30分や1時間といった限られた面談時間の中で対話を続けることで、最初は相談者がストレスに感じていたとしても、後半に思わぬ気づきを得られることがあります。AI相談では、相談者が会話を終了させる主導権を握っているため、途中で対話を止めてしまうことで、得られるはずだった気づきを逃してしまう可能性もあります。

2. 相手のタイプや心理状況に合わせた柔軟な対応

支援者は、相談者のタイプや心理状況に合わせ、柔軟に対応を変えることができます。例えば、テンションの高い人には高めに、ゆっくり話す人にはペースを合わせるなど、相手が心地よく感じる関わり方を模索します。これにより、相談者は安心して本音を話しやすくなるでしょう。AIは相手の様子を五感で観察して対応を模索することは、今のところできません。

3. 状況に応じた視点の切り替えと話題提供

高度な対話スキルを有する人であれば、過去に相談があった内容や、さらには相談者の表情や声色から心理状態を察し、臨機応変に視点を切り替えたり、意外な角度から話題を提供したりすることがあります。例えば、仕事の悩みを抱える方に対し、あえて好きなスポーツの話を振ることで、「自分が生き生きしている時ってどんな心の状態だろう?」と、普段とは異なる視点から自己理解を深めるきっかけを作るようなアプローチです。これは支援者自身の経験値の賜物と言えるでしょう。AIは打ち込まれた相談内容をテーマにテキストを返すのが基本であり、このような高度で臨機応変な対応は基本的に難しいと考えられます。

4. ロールモデルとしての存在

相談者にとって面談相手はロールモデルとなり得ます。「この人みたいになりたい」という刺激がモチベーションとなり、相談者の成長につながります。同じ悩みを乗り越えた経験を持つ人からの言葉であれば、相談者の心に深く刺さり、共感を呼びます。AIは自身の経験を語ることはできませんし、たとえ経験を持っているかのようにAIが語ったとしても、人が人に対して生む刺激には及ばないでしょう。

人の弱み:時間的・費用的制約と属人性の課題

一方で、人によるキャリア相談にはいくつかの弱みも存在します。

1. 時間的・スケジュール的制約

企業が人の面談を用意している場合、時間やスケジュールに制約があり、即時対応が難しいことがほとんどです。「今すぐ相談したい」と思っても、予約が必要な場合が多く、モヤモヤをすぐに相談することはできません。結果としてモヤモヤ解消に時間を要することもあります。

2. 高額な人件費とスケーラビリティの課題

人による高度な対話には、一定の面談トレーニングが必要であり、時間と費用のコストがかかります。また、提供できる支援者の人数や面談機会にも限りがあります。

3. スキルや経験の差異による属人性

支援者のスキルや経験には差異があり、属人的なクオリティになりがちです。また、人が故に相談者への関わり方にバイアスが生じることがあります。

AIの強み:アクセスの容易さと客観性

次に、AIの強みを見ていきましょう。

1. いつでもどこでも相談可能

AIは、理論上24時間365日アクセス可能であり、時間や場所の制約なく、いつでも相談ができます。モヤモヤを抱え続けると、気づけば大きなストレスにつながることがあります。日々の業務で忙しい方にとって、キャリア形成のモヤモヤに即座に向き合える環境があることは非常に大切です。

利用推進の側が、使用タイミングをデザインできるのもAIの利点です。キャリア研修の後、職場でモヤモヤしたときのメンターとして、1on1前にAIと対話し内省を深めておく、といった活用方法も可能です。人の面談以上に柔軟に検討しやすいでしょう。

2. 本音を開示しやすい心理的ハードルの低さ

人に話しづらいことや、「こんな小さなことを相談していいのか?」と躊躇してしまいがちな悩みでも、AIには気持ちの上で相談しやすいです。さらに、人の相談者と比べAIに対しては利害関係が一切ないため、本音を打ち明けやすく、客観的な対話を通じて自己理解を深めることができます。自身のモヤモヤに向き合うことを繰り返すと、内省の力が養われていくことでしょう。相談の第一歩を踏み出す心理的なハードルが大きく下がります。

3. 言葉の整理能力の高さ

AIは、相談者の言葉を要約したり、整理したりする能力に非常に優れています。「こういうことですね」と素早く的確に文字で整理できるため、相談者自身の思考の整理を助けます。

4. 超豊富な知識で広範囲の分野に対応

面談では、支援者が相談者の持つ知識についていけない、あるいは興味がない分野の話の相談が出てくる場合も十分に考えられます。AIであれば、汎用的な知識であればウェブ上の情報を参照しながら対話ができるため、万能に対応できます。ただし、会社独自の用語や業務知識は基本的には持ち合わせないことに留意する必要があります。

5. 対応の再現性

AIは疲れることがありません。クライアントが何度も同じ話を繰り返しても、いつでも話を聞き、承認し、励まし、背中を押してくれます。人のように対応がばらつくことはありません。人の支援者が表面的には飽きたりうんざりしていないように振る舞っていたとしても、相談者はそれを見透かすものです。

6. 面談の支援力を”着実に”進化させていくことができる

AIのキャリア自律支援の対話力は、サービス提供側が試行錯誤を重ねながら着実に進化させていくことができます。どう対話するか(例えば、問いの立て方や問いのバランス)というプロンプトの調整や、ベースとする知識のアップデートなどの検討を行います。AI自体の性能もどんどん向上しているため、今までできなかった柔軟な対応の壁を突破できる可能性を秘めています。

7. コストを抑え広範囲の社員が利用できる状態を整えられる

人件費と比較してコストを抑えることができ、広範囲に社員のサポート体制を敷くことができます。

★なお、より独自的なHERO Me の強みについては、記事内容が複雑になるため深く言及しておりません。詳しいお話はHERO Me 体験会にてお伝えします

AIの弱み:感情的なサポートと信頼関係の構築

AIにももちろん弱みがあります。

1. 感情的なサポートの限界

AIは現在のところ、テキストでのやり取りに依存するため、声色や表情、仕草といった非言語情報から相手の心理状態を察することはできません。

2. 相談側の「相談の仕方」に左右される

相談側が、AIの回答を見て、その能力を過小評価したり、「こんなものか」と見限ってしまう可能性もあります。しかし実際のところ、相談側の聞き方(入力内容)が適切でないケースも考えられます。AIを自分にとって心強い相棒にするには、うまく活用するスキルも求められます。

人の面談であれば、相談側が何を相談したらいいかわからないといった状況でも、巧みに問いを出してあげるなど、支援者が関わり方を工夫することができます。

3. 会話の一方的な終了による気づきを逸す可能性

キャリア自律支援に限りませんが、単に相談者にとって「心地よい」対応だけでなく、時には耳の痛い示唆を伝えることで、相談者が気づきを得られる場合も考えられます。しかしAI対話では、相談者が一方的に会話を終了できてしまいます。利用者がAIとの会話に不満を感じて対話をやめてしまえば、この気づきは得られないことになります。

4. 信頼関係やロールモデルにはなりえない

AIは、情報提供や示唆はできますが、人としての信頼関係を築いたり、ロールモデルになることはできません。人は自分と近い立場の人物から刺激を受けやすく、それが行動のエネルギーにつながることがありますが、AIに対して「尊敬する」「あの人みたいになりたい」といった感情を相談者が抱くことは無いでしょう。

★なお、これらの弱みに対しHERO Me の独自性で対応できることがありますが、記事内容が複雑になるため言及していません。詳しいお話はHERO Me 体験会にてお伝えします。

人とAIのそれぞれの良さを活かす:HERO Meの目指す未来

私たちBe&Doは、人とAIのそれぞれの強みを最大限に活かすことで、効果的なキャリア自律支援に繋げられると考えています。

AIは、キャリア相談の「最初の壁」を乗り越える上で非常に有効です。「いきなり人に相談するのはハードルが高い」と感じる方にとって、AIは気軽に相談できる存在となります。
キャリア相談の壁が低くなることで、人に相談するハードルも低くなるでしょう。AIは人への相談の橋渡し役となります。

人に相談する内容は、人の強みをより発揮できるものに集中し、AIで相談できる内容はAIがその役割を担う。こう棲み分けて考えることもできます。

私達Be&Doは、AIキャリア相談室「HERO Me(ヒロミー)」を通じて、働く社員のキャリア自律を支援し、人と組織の活性化支援を目指しています。

HERO Meの取り組みについて、さらに詳しく知りたい方はぜひお気軽にお問い合わせいただくか、HERO Me の体験会にご参加ください。

赤澤智貴

赤澤智貴

株式会社Be&Doの事業開発ディレクター。大阪府柏原市出身。学生時代、野球部のキャプテンを務める中でチームマネジメントの難しさを実感。自身がイップス(精神的な要因で思い通りにボールを投げられなくなる症状)に苦しんだ経験から、「人を怒りでコントロールするのではなく、前向きな気持ちやモチベーションを引き出すリーダーシップ」が重要だと気づく。新卒で採用支援会社にて企画営業を経験した後、2019年に株式会社Be&Doに参画。事業開発全般に携わり、PsyCap Master認定講座の運営責任者も務め、個人・組織の心理的資本の向上を追及している。また、個人の活動としてアンガーマネジメントの普及活動にも取り組み、企業研修の実施や、関西支部の副支部長としてコミュニティ運営にも携わる。

心理的資本の概要/高める方法を資料で詳しく見る!心理的資本とは、人が何か目標達成を目指したり、課題解決を行うために前に進もうと行動を起こすためのポジティブな心のエネルギーであり、原動力となるエンジンです。「心理的資本について詳しく知りたい」方は、以下の項目にご入力のうえ「送信する」ボタンを押してください。
◆資料内容抜粋 (全16ページ)
・心理的資本が求められる背景
・心理的資本の特徴
・構成要素「HERO」の解説/開発手法とは? など

関連記事

執筆者プロフィール

赤澤智貴

赤澤智貴

株式会社Be&Doの事業開発ディレクター。大阪府柏原市出身。学生時代、野球部のキャプテンを務める中でチームマネジメントの難しさを実感。自身がイップス(精神的な要因で思い通りにボールを投げられなくなる症状)に苦しんだ経験から、「人を怒りでコントロールするのではなく、前向きな気持ちやモチベーションを引き出すリーダーシップ」が重要だと気づく。新卒で採用支援会社にて企画営業を経験した後、2019年に株式会社Be&Doに参画。事業開発全般に携わり、PsyCap Master認定講座の運営責任者も務め、個人・組織の心理的資本の向上を追及している。また、個人の活動としてアンガーマネジメントの普及活動にも取り組み、企業研修の実施や、関西支部の副支部長としてコミュニティ運営にも携わる。

研究員リスト

  • 赤澤智貴
  • 小西ちひろ
  • 橋本豊輝
  • 石見 一女
  • Li Zheng
  • 心理的資本研究員
  • 下山美紀
  • 舞田美和
  • 岡本映一
  • 雪丸由香

最近の記事

  1. 対話における「人の強み」と「AIの強み」とは何か?社員のキャリア自律支援は”ハイブリッド”で考える。

  2. 現代社会における「見えない退職」の波紋~静かなる変革と組織の未来

  3. 若手・中堅社員のキャリア自律を、もっと身近なものにするには?

TOP