インタビュー

これからは多様性を活かした企業だけが生き残るー山際邦明氏インタビュー(1)多様性こそ変化の核心

本コラムのプロローグはこちらからご覧いただけます。

「第4次産業革命時代のマネジメントについて考える」というテーマで識者の方にお話しを聞く企画の第2弾は、豊田通商株式会社取締役副社長 山際邦明氏です。

山際氏は、1977年に豊田通商に入社後、アメリカ勤務などを経て、2000年4月に人事部長就任後、主に人事・組織人材戦略畑を歩んでこられました。
実務家の立場で豊田通商の未来を見据えた組織人材戦略の見事さ、そしてその取り組みは20年前からすでに始めていたという先見性の高さに、大変刺激を受けました。
キーワードは「多様性」です。

Profile山際 邦明 氏
豊田通商株式会社取締役副社長執行役員。
1977年に豊田通商に入社。2000年に人事部長。2003年に株式会社トーメン経営企画部長、取締役。2006年より豊田通商にて執行役員、常務、専務を経て現職。

豊田通商の人材マネジメントの特徴

石見:まず豊田通商の人材マネジメントの特徴、取り組みなどを教えてください。

山際:豊田通商のビジネスの特徴として、トヨタグループの商社ということもあって、 1990年あたりから自動車周りの物流や加工などの事業を、まず海外でコアモデルを作って、それを海外各地域に横展していくと言うパターンがあります。この場合、持分利益というのは少なくて メジャー出資をやりながら自分たちで経営していくと言うやり方 がひとつの特徴ですね。
2000年に加商と言う専門商社との合併、 2006年に総合商社トーメンとの合併、 この二つの日本の商社との合併を経験して、 四年前にフランスのCFAOという商社をTOBしました。大型の M & A を経験してきたことで違う経験文化の人たちと一緒に 新しいシナリオを作って実行している、挑戦しているということが特徴だと思います 。
その中で、オフサイトミーティングというものを、20年ぐらい前からずっとやってきました。

石見:オフサイトミーティングはどのようなものですか?

山際:問題を解決すべきテーマだったり、戦略をこうやっていこうといったとき、役員から当時の事務職(現在は職掌統合実施)まで皆さん議論に加わって、そこでコンセンサスを得、対応していくというようなオフサイトミーティングをやってきています。
例えば合併前に両社の営業のメンバーを集めて、合併後、どんな事業展開にしようかと議論したり、コーポレートでも同様に議論したり。 たいてい金曜日の午後から、会社とは別の場所に行って議論して、一泊してからまた、土曜日に役職に関係なく気軽で率直にまじめな議論を通じてコンセンサスを得ていく、 という感じです。

石見:評価制度としての取り組みは?

山際:目標登録を20年前からやっています
年俸制度とともに導入はしているのですが、 目標登録の仕方は20年前から短期の視点だけでなく、長期の視点のものも入れるようにしています。
即ち長期軸の中で、今年は何をやるのかと短期思考に陥らないことを重視しています。
またチームでどんな成果をつくっていくのかという考え方も入れています。
能力評価の中でも人材育成を重視しています。どうしても個人の成果になりすぎるのが危険なので特に評価の中で人材育成を意識しています。

石見:リーダーの育成にはどのようにされていますか?

山際:2000年ぐらいから日本のハイポテンシャルリーダーだけでなく、 海外のハイポテンシャルのリーダーとも交えて取り組んでいる研修があります。特にこの4~5年は最上級 は グローバルアドバンスドリーダーシップ研修といって、これは日本人が10名弱、海外のハイポテンシャルが10名弱、すべて英語で1週間単位で、日本とか欧州、アジアで合計4回開催します。
リーダーシップだとかリベラルアーツだとか、イノベーションを学習して、すべて英語でおこないます。全員いっしょにアクションラーニングし、経営陣に提案ながら取り組んでいます。

次のバージョンはリーダーシップデベロップメント研修。これも日本人だけではなく 海外の人達も一緒にやります 。1週間のプログラムを4回もやると、ネットワークが強いものになります。そして数年に一回は、数年間の参加者全員がリユニオンで集まることで、新たなネットワークが追加されることになります。
これによって、社内のネットワークが いろんな組織体の壁を乗り越えて広がっていくということを意識しています 。
日本、海外のリーダー間の相互リスペクトが醸成できるような仕掛けをしています。

石見:リーダー以外の一般社員に対してはどのような育成機会を提供されていますか?

山際:当時の事務職の方にも2000年から「いきキャリ」という研修を16年くらいやっていました。いきいきキャリアという意味です。
会社全体のビジョン戦略はどうなっているか。所属している組織の戦略は何か。そんな中で自分たちには具体的にどういうことに取り組んでいきたいか、取り組むべきかということを アクションラーニングという手法を使って毎年6ヶ月ぐらいの期間でやっていました。そこにグループリーダーがアドバイスをするなどの方法も加えて続けてきました。
その他、新しいビジネスモデルを常に作っていかないといけないので、イノベーション関係の研修などもやっています。この研修は自分で手を上げてビジネスモデルを作っていく、またチームで手を上げてビジネスモデルを作っていくというものです。これは日本だけでなく海外の各拠点でもやっていて、我々もコーチングなどに行きます。

石見:キャリア採用は積極的にされていますか?

山際:キャリア採用も20年前から意識的に継続して行っています。
M&Aも経験していますし、豊田通商が、多様な人材が一緒にやっていく、そういう会社になることを意識しています 。会社自身の変化成長に合わせて対応していっています。

石見:事業環境を見据えた人材育成については?

山際:海外での自動車まわりのコアモデルが創出できたということもありますが、そのモデルを他の地域に横展しているうちに、組織の縦割りの問題が出てきました。豊田通商はもともと縦横斜めの連携がよくて、縦の壁が強くないというのが特徴でしたが、2000年ぐらいから少し壁ができ始めているというのが、今の問題意識です。海外からの横展が増えたことや、海外での成長が急激だったということが背景にあると思っています。

これからの時代は豊田通商にとって強みだった自動車分野もモビリティと広く捉えて対応していくことが重要な時代。100年に一度といわれる変化が発生しつつあり、予測困難な時代に入りました。
モビリティ分野でもモビリティ以外の分野でも、クロスインダストリーの領域で、イノベーションが起こっています。決して「金属は」とか「化学品は」という産業別にイノベーションは起こって来ません。
そういう意味では、もう一度、縦横斜め、特に横の連携を加速する必要があると思っていて、特にそれをグローバルにやらないといけないと思っています。
その観点からグローバルダイバーシティ&インクルージョンにも取り組んでいます。
それがさっき言ったグローバルアドバンスドリーダーシップ研修とリーダーシップディベロップメント研修、それに加えて、グローバル人事委員会を通じて、ハイポテンシャル人材を海外サイドと日本サイドときちんと共通の認識にして、この人物にはどういう修羅場機会を与えて、育成するか、議論して実行していくという取り組みをしています。
本気でグローバルダイバーシティ&インクルージョンをやりきりたいと思います。

「多様性」こそ変化の大きい時代を生き残る核心

石見:グローバルダイバーシティ&インクルージョンを推進するうえで重視されているポイントはなんでしょうか?

山際:グローバルダイバーシティー&インクルージョンを推進するうえで、大事なのは全社的で重要なプランを作るときからに初めの段階から海外のスタッフをインクルードするということです。
進め方においても海外のコーポレートや営業の多様なハイポテンシャル人材を最初に集めて議論します。
まずは、英語で議論する、英語でグローバルビジョンをつくる。
それから日本語に訳す。
昔は日本語でつくって、これを英語でいうとどうなんだとやっていました。最後のところで、伝えたかったことのニュアンスが変わってしまうこともありました。
豊田通商の現在のグローバルビジョンBe the Right ONEは、日本語版も、英語のままにしました。
このビジョンができた背景はまさしく最初から英語で議論したところにあります。

COCE(グローバルコートオブコンタクト&エシックス)という行動規範の規定についても同じように始めから英語で議論をしました。
最初のころは日本人から、COCEは基本動作が大事だよねと、その基本動作を英語にしてみても全く通じないのですね。
海外では、きちんと言葉にしていくのが当たり前と考えますが、日本人の場合、ハイコンテクストな文化で育っているので、一つの言葉で何となくわかった気になってしまう。
でも、グローバルに展開するとき、それはすごく危険です。ローコンテクストな状況でいかに理解してもらえるよう表現することが重要だということは、英語でやると当たり前のようにクローズアップされてきます。

石見:ダイバーシティ&インクルージョンを20年も前から徹底して取り組まれているのはすごいですね。

山際:かなり意識して取り組んでいます。
女性活躍については、まだまだ足りないと感じています。もっと意識して取り組まないといけないですね。
もうひとつは、今年から取り組んでいるのはNextモビリティという次世代のモビリティ分野でのビジネスモデルを創造です。組織のサイロ化を溶かしながら、縦横斜めの連携で新たなイノベーションが起きることを期待しています。
Nextモビリティという全社横断組織がNextテクノロジーファンドというファンドも持ちながら、各営業本部の中のNextモビリティ組織と連携して活動を加速しています。
モビリティの世界はすごく早くビジネスモデルが変化します。最近では豊田通商の中だけでなく、豊田通商の関連企業、外部の多様な企業とのアライアンスが急増しています。
こういうことを積み重ねて実績をあげることで、豊通の新しい文化にしていきたいですね。

石見:変化の激しいビジネス環境では、ダイバーシティ&インクルージョンを進めて、組織の柔軟性を高めることの重要性が増してきますね。

山際:本年度、アフリカ本部という豊通としては、初めての地域本部をつくったのはCFAOというフランスの商社をTOBしたのがきっかけです。アフリカという地域の中で、いろんな社会的課題がでています。
これは金属本部だ、とか、これは自動車本部だとか単一の商品本部では解決できません。
クロスファンクショナルで水平共創的に解決していかなければならない。
それが、地域本部をはじめてつくった背景です。アフリカ各国の課題解決に適した多様な組み合わせのチームで向かっていく、そして多様なアプローチによって解決していくということだと思っています。

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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執筆者プロフィール

石見 一女

石見 一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。「なぜあの人は『イキイキ』としているのか」第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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