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「第4次産業革命時代のマネジメントについて考える」というテーマで識者の方にお話しを聞く企画の第3弾は、大阪大学大学院経済学研究科経営学教授の開本浩矢氏です。
AIやIoTが出てきたことで、時代変化はよりいっそう激しくなっています。新しい事業、新しいサービス、新しい商品を生み出すには、過去の成功に頼っていては、革新的なイノベーションは生まれてきません。
このことは多くの企業で深刻な経営課題です。
いかにクリエイティビティを引き出し、新しいことにチャレンジできる人材をマネジメントできるかについて、大阪大学大学院経済学研究科経営学教授である開本浩矢先生にお話しを伺いました。開本先生はクリエイティビティ・マネジメント、組織行動論、人的資源管理論のご専門です。
開本 浩矢 氏
大阪大学大学院経済学研究科経営学教授、兵庫県立大学名誉教授
専門はクリエイティビティ・マネジメント、組織行動論、人的資源管理論。著書『クリエイティビティ・マネジメント』『入門組織行動論(第2版)』『研究開発の組織行動』等
目次
AI、IoTの時代でも人の本質は変わらない。
石見:AI、IoTの時代になって、マネジメントは何か変化がおこるものなのでしょうか。
開本:マネジメントをどう考えるか、結構幅広いと思うのですが、少なくとも人のマネジメントという僕の専門から考えると、本質のマネジメントは結局は変わらないと考えます。
端的にイエス、ノーみたいですが、結局、AIもIoTもそうなんですが、経営をやっているとこれもひとつの手段というか、ツールでしかないので。それを使って何かをするのは、結局は人なんですよね。
そう考えると、これまでの産業革命、今は第4次産業革命といわれますが、第2次も第3次も、人は本質的には変わっていないのだけど、経済とか文明に影響を与えるテクノロジー、例えば蒸気機関車が発明されたとか、対象が変わっただけで、使って何かをするという主人公の「人」は変わっていないので、マネジメントに何か大きな変化があるかといわれると、変わってないといえるのだと思います。
でもこれはあくまでも本質的な問題であって、じゃマネジメントの仕方が変わらないのかというと、とてもそんなことはないですよね。
例えばデータサイエンスとか、ビッグデータを使ってどうするかということが出てきていますから、そういうものを使える能力とかスキルとか人材を育てるという意味では、そこにフォーカスをあてないといけないので、ずいぶんマネジメントのやり方にも影響があると思います。
開本:日本の企業はCEOもいますし、CFOもいますが、テクノロジーのCTOとかありますけど、情報を扱うCIOとか、そういった役割が大事になってくるというところでは変わっていくところかなと思います。どれだけその情報をマネジメントの中でうまく取り込むかというところでは変わってくるところかもしれません。それから最近、働き改革とか生産性向上とかというふうなことを考えると、AIとかIoTなどをどれだけうまく使えるかによって、生産性などはずいぶん違ってきます。
これまで、AIとかIoTとかロボットはどちらかというと、新しい脅威というか、ネガティブに考えてしまう、そんなもんが来るから身構えなさいよとか。これからの将来が大変なことになるから、何とかしなきゃとか、お尻をたたくような論調が多くみられましたが、本質的にはそんなことではなくて、それを使って便利になる部分とか、働き方がこれまでは時間がかかっていたのが、一瞬でできるようになるとか、という意味ではポジティブな要素はたくさんあるように思います。
必要以上に、こんな仕事が何パーセントなくなるとか、といえばいうほど、何か怖いものというか、近寄りたくないものになってしまって、結局そういう近寄りたくないものになると、(AIやIoTやロボットなどの最新技術は)使えないものになってしまいそうです。
なのでマネジメントする層がそう思ってしまうと、組織全体がそういう方向に流れてしまいがちなので、そういうことでは、マネジメントする側の人はもっとAIとかIoTとかを知るということがまず大事。知ることによって、無意味な脅威や恐れというか、ネガティブな反応をせずに済むんじゃないかな。そういうところは変わらないといけないのかもしれませんね。
高度な情報技術を積極的に取り入れ、変化に対応するマネジメントスキルが求められる
石見:CIOの役割がクローズアップされてくるのですか?
開本:そう思います。これだけIoTとか、AIとかが出てくると、それを知るか知らないかでずいぶん機会ロスになるでしょうし、何も知らなくても使わなくても、外部から攻撃をされるとか、顧客のデータが流れるとかで、トラブルになりがちなので、積極的に使うか、あるいは自社を守るというものといっても、どちらの意味でも大事になってくると思いますね。
石見:当社に絡めてこのことを考えると、Habi*doがようやくマネジメントで使う目的で入りはじめています。
ところがHabi*doをいれるというのは組織変革そのものに直結すると受け取られているようです。Habi*doは目標とかプロセスがすべて可視化できるというものだから、マネジメントの在り方を見直さなければならないといった組織変革のトリガーになっているところがあって、それに対する抵抗感も正直あります。
新しい情報システムを入れることで見えてしまう、今までブラックボックスだったところが見えてしまう、見られてしまう、そこへの抵抗感でしょうか。
Habi*do以外でも、AIとかIoTとか新しいツールを入れて、組織の生産性を上げていこうというときに結構な抵抗がある。これを乗り越えていくことも生産性にどう影響するかなと思うのですけど。
開本:そのIoTとかAIとか入れるのは簡単だけれど、それによって、新しい技術が組織や集団や人にあたえる影響は興味深いですね。そういうのはイギリスが好きですね。タビストック研究所とかあったりするくらいです。
そういう考え方を以前「ソシオテック」ってありましたね。ソーシャルとソサエティーとテクノロジーとの関係で、コンピュータ化が職場で進むと職場がどういう変化があるかということなんですが、そういう議論というのはテクノロジーががらっと変わって新しくなるたびに、常に起こっていて、そこはヘンに過剰に反応すればするほど使えないという、抵抗も増えるということになりますよね。
開本:一方で、人間ってしたたかで、表面的にはやろうと言っているんですけど、どっかで手を抜いて、これまでのやり方を維持しようとするので、入れるだけでなくて、運用するとか定着するとかが次のハードルになりますよね。
そのためには、小さな成功を経験させる、これはいいものだと思ってもらうしかなくて、そういう意味では、働き方改革も生産性向上もそうなんですけど、一朝一夕にこれをやったら劇的に変わるというものではない。
そういう意味では、マネジメントは本質的に変わらないということですが、地道なことをやるということは、産業革命が3次であろうと4次であろうと一緒なんですけどね。
石見:人類の進歩はそういう軋轢と、それを乗り越えて、また軋轢‥そういった進化のプロセスなんですよね。
開本:歴史は繰り返される、ある程度パターンは繰り返されるし、人類は進化をしているように思えていても結構同じところで苦労しているんでしょうね。
対象が変わるだけで、キャスティングが変わるけどストーリーは変わらない演劇を見ているようなものかもしれませんけど。
そういう意味では本質的に変わらないし、AIとかIoTをへんに敵視するとか怖がる必要もないだろうなと思います。
日本人の生産性が低いというデータは付加価値に対する対価の違いが大きい
石見:日本人が生産性が低いといわれるじゃないですか。なぜ欧米の人の生産性が高くて、日本人の生産性が低いといわれるのでしょう。
開本:僕も実はね、日本の生産性が低いというのは、数字で見ると確かにそのとおりになっているんだけど、まずは数字の取り方が正しいのか、統計のマジックの問題というのがあります。
特に、付加価値を時間で割るようなやり方というのは、日本人の職場の労働時間が過大に評価されていないかどうか、分母が大きくなりすぎていないかどうかがポイントでしょうか。例えば、午前中あんた来ているけど、仕事してないでしょ、という人が残業しますとなると、この人は1日10時間働いていますよ、と。でも正味は6時間しか働いていません、となると6時間で見たときの生産性は跳ね上がります。
そういうマジックはひとつあります(笑)
結構日本の職場だとありうる話かもしれないし。その仕事していない時間を単にぼーっとしていると捉えるのか、もしかすると役に立たない会議のための資料をつくっているかもしれないし、膨大なCCのメールを読むことに時間がかかっているのかもしれないし、分母の時間をどう考えるか、ですね。
後は分子のほう。付加価値の測定のほうですが、例えば日本で500円出してランチを食べようとすると結構いろいろ食べれるんですけど、ヨーロッパにいって500円でランチしようとすると何もないんです。スーパーで買うしかないくらい値段の違い、物価の違い、サービスに対する値段のつけ方が違うので、それを単純にドル換算したからといって、ほんとに比較して意味があるのかな、と。
同じユーザエクスペリエンスというか、付加価値を感じているという主観的な比較をきちんとしないと比較にならないと思うのですが。
石見:そもそも日本人の労働観の問題にもなりそうな気がしますね
開本:特にサービス業ではその差は歴然としている。無駄に欧米は人件費が高いですし、外食とかいくとものすごく食べ物の値段が高くなる。それを付加価値だと定義をしてしまえば、日本の生産性は低くなりますよね。でもそれはほんとの付加価値なのかな、と。
石見:一風堂のラーメンがニューヨークでは2000円以上しますものね。
開本:そうなんですよ。それが日本だと1000円しませんものね。お客さんからすれば同じものです。それで一風堂のニューヨークの従業員の生産性が高いといわれても、あれ?という感じですよね。
後、自動車メーカーが欧米に進出すると1日で生産される台数は日本とはまったく違うんですよね。そういう意味で考えても日本の生産性が低いというのは、測定の仕方にクエスチョンなんじゃないかな、というのがありますね。
ただ一方で働く人の立場からしますと、時給が低い。その時給が低い人たちがものすごく頑張るところもあって、企業としては救われているんでしょうけど、見た目の付加価値が低くなってしまう。
このことは消費者としての購買意欲にも跳ね返ってきてしまうので、結果的に経済が大きくならないという問題はあるかなと思います。
日本の課題は生産性よりもむしろ「イノベーション」
開本:僕はあんまり日本人の生産性が低いという議論についてはクエスチョンかなという気がします。むしろ、日本の課題として生産性の低さよりも、新しいものにチャレンジしない、創造性とかクリエイティビティとか、イノベーションが活発じゃないほうが問題です。
特に研究開発に対する支出が特に少ない。結局それが特許の数とか、論文の数とかに徐々に効いてきています。
石見:ノーベル賞もそろそろ厳しい、なんて言われていますよね。
開本:そうなんですよ。もうネタ切れともいわれていますよね。その典型が、先日、超大型買収を行うことにした製薬メーカーさんではないでしょうか。
なにせ、15年間新薬が出てないですよね。そして今のその会社の新製品が全部外部から買ったものなんですよね。
スタートアップで買ったものがようやっと今、商品として花開いているところで、自社の研究所からひとつも出ていないそうです。こっちのほうが問題だと思います。
生産性も広い意味ではイノベーションも含まれるとは思いますが、へんに残業を少なくする、労働時間を少なくするというだけでは、確かに日本人はそういうのが好きなんですけど、きちんとやっていくとは思うんですけど、むしろ、それよりも、付加価値をどーんと伸ばすイノベーションとか創造性を伸ばすことを考えたほうが前向きなんじゃないかなと思いますし、本質的にはそこが問題だと思います。
それができないから、へんに改善とかでコストカットをするのかもしれないですし。
石見:確かに前回のこの記事で豊田通商の山際副社長もいかに付加価値を生むかが課題で、個人の評価も付加価値と貢献度で見ていかないと、これからの人材マネジメントはできないということをおっしゃっていました。
開本:付加価値は大事ですよね。一方でその付加価値を見るときに、売上とコストの差を付加価値とみてしまうと、売上を伸ばすのか、コストを削減するのか、どっち行くの?ということになると成果が出やすいのはコスト削減なんですよね。
それがバブル崩壊して以降の20年から30年の日本経済低迷の一番の理由なのかもしれませんね。守りに入ってしまうという。
石見:コスト削減は簡単ですものね。
開本:欧米で転職市場が発達していると、優秀な人が抜けていくとお互いけん制しあうのですが、日本のように労働市場で流動性が低いと、みんな一律に下げるよと言われると、共感してもらえるというか、そういう意味では真面目なんですよね。
なんで、あなたが下がるのに、私まで下げられるのか、なんの関係もないのに、ですよね(笑)そうなるとこれを付加価値といっていいのかわかりませんが、確実に売上とコストの差が開くことになります。
そこに株主資本主義なんて入ってくると、株主はそれで良いわけなんで。
石見:株主とすれば、利益がちゃんと出てさえいればいいということになるのでしょうね。
開本:そういうことでしょうね。なので、前出の製薬メーカーの意思決定に対して、株価は非常に厳しい(笑)経営者は、5年後10年後にこれが3倍になりますよ、と言っているのに、口を酸っぱくして言えば言うほど、市場は財務リスクが高いと言われます^^
これはコストの話なんですよね。
石見:投資に対して寛容でないと新しいものは生まれないですよね。
開本:コストを削減しても、限界はあります。それに新しいものが生まれなければ、今度は売上のほうがどんどん下がってきますからね。コストばかりを優先すると縮小均衡するしかなくて、どうしたらいいかわからなくなります。
石見:株主にも理解してもらわないといけませんね。新しいことにチャレンジしていろんな事業をしないといけないのに、お金は使うな、というのは矛盾しています(笑)
開本:15年間自社から新商品がでていないということのほうが問題だと株主は思わなければいけないですよね。非常に寂しい話です。そういう意味ではみんなが元気がないというか、前向きじゃないですよね。悲観的というか。
株主資本主義が行き過ぎていたという反省の下、その揺り戻しがきているようですね。従業員に対して、ちゃんと還元する会社を長期的に持とうという考え方が出てきていますし。
でも、その次はイノベーションです。
イノベーションを起こす鍵となる「心理的資本(Psychological Captal 略称:Psycap)」
石見:先生が注目されている心理的資本の話を伺いたいのですが。
開本:先ほど、「前向きじゃない」という話が出ましたが、前向きになるための、ひとつの考え方というか、ツールというとちょっと言いすぎでしょうけど、そのコンセプトになるものが、この心理的資本と言われています。
結局、これまでスキルがどうだとか、知識がどうだとか、結構言われましたけど、スキルを持っていても、知識を持っていても、それをどう使うかというところが最終的に行動なり、行動を反映した結果がパフォーマンスにつながります。
じゃあ、スキルとか知識とかどういう方向で使おうか、というその心構えとか、精神性というか、そのほうにもう少し目をむけないと、というのが、心理的資本の背景にあると思います。
スキルと知識以外には、ネットワークとか、人間関係資本とか、大事だという時代がありましたけど、それも含めて、持っているものをどう使うかというところに経営者は目をむけないと、貴重な経営資源を持ち腐れさせてしまうかもしれません。いいものを持っているのに、発揮できていないというのは究極的にそれは生産性が低い状態ですよね。
日本の企業がこれまでバブル崩壊以降、もひとつ元気がないのはこのような要因かもしれません。バブルが崩壊して、日本企業が急にダメになったわけではなくて、いいものもっているはずなのに、それを発揮するのがちょっと弱くなってきているのかな、というような気がします。
石見:この心理的資本はいつから提唱されているのでしょうか?また、今、どこの方々が取り入れているのでしょうか?
開本:何時からというのは結構難しいと思うのですが、基本的に心理学というのはこれまではネガティビティ中心だったと心理的資本をやる人たちはいっています。
人の心理的な健康とか心理的な状態を問題を抱えているという状態をなんとかリカバーしようというのが、これまでの心理学のメインテーマでした。鬱をなんとかしたい、とかPTSDの問題とか。ストレスのマネジメントの問題とか。
すべて、健康な状態、望ましい状態から逸脱した状態で、それをもとに戻そうというのが心理学の大きな流れだったのです。
そこに、ここ10年、15年だと思いますが、やっとそこから一歩踏み出したというか、そもそも根本的に異なるアプローチが出てきました。もっと人ってポテンシャルがあるし、可能性もあるし、いいところをたくさん持っているのに、それを伸ばすことを考えよう。これまでの心理学は、悪いところばかり直そうという意味でしかやっていなかったと。その揺り戻しというか、反動といったところでしょうね。
医療の世界では、治療というのがあって、問題があった状態を元にもどすのは究極のゴールかもしれませんが、心に関していうと、むしろそうではなくて、治療というより未病にちかいような形でしょうね。より健康になろうとポジティビティに注目すると結果的にネガティブな要素が防げるんじゃないかという考えです。
石見:今、健康な人がより健康になるための考え方ということですか?
開本:今までの欠点を直すというよりも、持っている長所の部分をより伸ばしていこういうところですかね。
ただ、あまりポジティブな話ばかりをしてしまうと、それは宗教的と捉えられるむきもあってなかなか定着してこなかった。それはほんとに科学なの?っていう批判が常にあるんだというところです。
世の中にもそういう根拠がない自己啓発的なビジネス書ってあると思うのですが、それと結びついてしまって、日の目を見ないんじゃないかなと思います。
石見:でも、今、この心理的資本が出てきているのは、なんらかのエビデンスのようなものが確立されてきたということでしょうか。
開本:そうです。これまでの研究の蓄積から、こういう概念、心理的資本という概念がようやく整理されてきたのです。
心理的資本というものを心理学の中でどう定義するかが見えてきたということになるかと思います。
そして見えてきた中身が、頭文字でHEROと呼ばれるものです。
H→Hope
E→Efficacy
R→Resilience
O→Optimism
ですね。
これまでの心理学では、オプティミズムであっても、エフェカシーであっても、それぞれ別に研究をされてきたのですが、そういうのを全部まとめるような、より上位の概念として、心理的資本がやっと出てきたということだと思います。
心理的資本の概念は、ここ10年です。ルーザッツという研究者が、それを提示をし始めて、ようやく一般に認知をされているところです。
そういうカンファレンスがここ10年ぐらいまえからどんどんと開催されるようになって、より認知度もあがってきています。
石見:まだこれは日本には入ってきていないのですか?
開本:いくつかの人たちは使っていると思います。しかし、メジャーなテキストがでているとか、心理的資本の名前をつけた研究書がでてくるといった状況ではないですね。
石見:そこを先生がまとめていただけるということでしょうか?
開本:そうです。心理的資本のテキストができれば、日本でも使いやすくなると思うのですよね。研究者が使いやすくなりますし、実務をする人も使いやすくなります。
第4次産業革命のようなことが心理学の世界でも起こっていて、ネガティビティーからポジティビティーへと大きく変わっていくと思います。
石見:実務の世界では、ネガティブよりポジティブですよね。
開本:そうなんです。先ほどの売上かコストかというのと同じで、コストをいくら削減してもということは、これまでの心理学のネガティビティな部分に対応していて、どうイノベーションとか、新商品を出していくか、ということになるとはやりポジティブじゃないと。
そもそもイノベーションは新しいことにチャレンジしないとダメなんで、そこはネガティブな心理ではとてもできないですよね。新しいことにチャレンジするには前向きな気持ちがないとできないので、絶対大事だと思います。
もともと僕は、創造性、クリエイティビティが結果の変数で、それをどう高める要因があるのかという中で、エフェカシーが出てくるんですよね。エフェカシーの流れの中で、それを含んだ大きな概念として心理的資本というのが出てきたというところが心理的資本との出会いです。
もともとはイノベーションとかクリエイションの要因として出会ったので、心理的資本を取り入れることはイノベーションにかかわると考えています。
石見:イノベーションといっている会社はここに注目してほしいですよね。
開本:特に前述の製薬メーカーのように(笑)、あんなにお金を扱っているのに15年間出てこないというのは(笑)
石見:新規事業開発部って、大企業になるほど難しいように感じます。既存事業にはまらない人が新規事業に行っているような場合はメンタリティも影響しそうです。
開本:本人たちも既存事業でうまくいかなかったという負い目を持っていくわけですから。そこにもネガティビティしかないですよね。
そこをネガティビティからポジティビティに変えるとガラって変わります。
既存の事業にあっていないからこそ、新しいものにチャレンジできる因子を持っているのかもしれないですね。
既存のしがらみはあまりないでしょうから、思い切ったこともできるでしょうし。そういうふうにうまくマネジメントしていくと、いい結果がでると思いますね。
石見:新規事業にエース級をもってくる場合もありますね。
開本:新規事業にエース級を持ってくる場合でも、それでもうまくいかないケースがありますね。金も出す、人も出すのに、成果がでないという。これは結局、心のありようの問題です。いいもの持っているのに、その人たちの心理的資本は低いんでしょうね。
石見:なぜですか?
開本:単にプレッシャーしか感じていない。なので、新しいことのチャレンジするより、これまでうまくいったことを改善してやろうということになってしまっているのではないかな。
うまくいった人ほど、成功体験にしばられるということもあるかもしれませんね。トップが期待すればするほど、プレッシャーになっちゃうでしょうね。
石見:どうすれば心理的資本を高められるでしょうか。
開本:心理的資本からすれば、ポジティビティに転換するには、どこかで、失敗してもいいよというようなサポーティブなところも必要だと思うんですよね。でもそんな余裕がなくなったんでしょうね、きっと。
前出の製薬メーカーの話が何度もでますが、15年新薬でないのも、優秀な人が成果がでないのはこのことかなと思います。いい人も採っているし、研究費もそこそこつぎ込んでいるんでしょうけどね。
新しいことに一歩踏み出せるかといったところに、成果が出ないというのは、心理的資本が低かったんじゃなかったかと思うですよね
なのでこの製薬メーカーは今度、ノーレイティングにするみたいですよね。そういうのがひとつきっかけになるかもしれませんね。
相対的評価は心理的資本をさげる。評価はフィードバックでよい。
石見:そのことは、人がどうやったらもっともパフォーマンスが上がるのかということに、単にスキルだけじゃなくて、人の心のありようなどにしっかり入っていった評価システムをつくらないとだめだということに気づいた、ということですよね。
開本:むしろ評価をすることが、萎縮させ、新しいことにチャレンジしなくなるというネガティブにつながったと気づいたということでしょうね。
評価をして、それに基づいたインセンティブをつけると、それで人はがんばるという考え方をどこか否定をしている、という。
評価をすればするほど、仕事が面白いとか、楽しいといった気持ちがどんどんと減っていくものなので。それはモチベーションの話の中では、もはや常識なんですけどね。でも企業の中ではそれが通常行われているんですよね。
それでうまくいく職場も当然あるんですが、新しいことにチャレンジしてほしいといいながら、評価の仕方は旧態依然だと、なんのことかわかりませんね。
石見:評価というとネガティブなものというのは、相対評価が一般的だからでしょうか。報酬の総量が決まっているので、誰かを上にすると誰かを下にしないといけないというの相対評価では、評価はネガティブなものになってしまうのでしょう。一方で、ここはよく頑張っていますね、とか、ここをもう少し改善してほしいといったフィードバックのような評価はあってよいと思うのですが。
開本:できたかどうかをフィードバックすることは大事だと思うんですよね。やっぱりみんな自分ができたかどうかを知りたいと思うので。
但しそれが限られた原資の中で、相対評価に代わってくるとおかしなことになりますよね。
それに気づいたから、ノーレイティングに行こうと思っているんでしょうね。
石見:評価=フィードバックでいいですよね。
開本:そうなんですよ。できたか、できなかったか、どうすればうまくいくのかをフィードバックするのが上長や、上の人達の仕事ですよね。
石見:それをうまくやるのがHabi*doです(笑)
開本:そうなんですよ。究極にいうとノーレイティングですし、自己評価ですべて完結してしまう話なんです。
日々、Habi*doでフィードバックがある中で、自分ができているかできていないかわかってきて、それによってすべて解決するところもありますね。
少し話は戻りますが、IoTとかAIが職場に入ることはネガティブなことだけじゃないんですよね。これまで見えなかったものが、見えるようになるんで。
フリーライド(ただ乗り)している人たちは大変でしょうけど(笑)
ばれちゃうんで。やったふりしている人は。
石見:みんな自律しないといけなくなりますよね。
開本:今まで上司だけだましていたら良かったんですけど、Habi*do入ると周りにみな、見えますものね(^^)
全員にがんばりをしめそうとすると、ほんとにがんばらなくてはいけませんものね。
石見:ちゃんとがんばらないと承認もされないのがHabi*doなんですよね。
Habi*doの提案で面白い現象があります。
企業のトップの方に提案すると、トップは入れたいとおっしゃいます。
現場の人に、自分たちの行動やがんばりが見える化できるよ、上の人からちゃんと評価してもらえるよ、というと、意外とやってみたいという反応をいただくんです。
ところが抵抗勢力になるのはミドル管理職なんです。
開本:自分たちの存在意義にかかわりますものね。
石見:そうなんです。彼らミドルがかならずいうのは「僕の仕事が増えるんじゃないか。部下は自分の行動をチェックするだけだが、自分は20人からの部下を全部見ないといけない。大変です」と。
いやいや部下を見るのがミドルの役目ではないかと思うのですが。。
Habi*doを入れると、部下のひとりひとりの行動が見えるため、各部門のミドルが抱え込んでいたブラックボックス化していたものがある意味公開されてしまうところがあるんですよね。自分の存在価値が問われる危機感があるのかもしれません(苦笑)
開本:でもそこのところが生産性とか働き方改革のネックになっているんですよね。
石見:ミドルも困っているんだろうと思うんです。いろんな変化の中で、自分はどうすればいいか。
開本:これまでは、今までのやり方でうまくやってきた人たちなので、できれば今までどおりで続けたいなというのがありますね。
石見:ほんとはHabi*doはミドル助けのはずなんです。ミドルの人たちが部下に対するフィードバックできるデータを提供しているわけなんですから。
また部下のがんばりを承認するのに、メールなどだとすごくパワーがかかるけれど、Habi*doならスタンプで承認の気持を表すことができるわけだし。
開本:そこ(ミドル)が、あらゆる組織開発のネックになるところなんですよね。トップがどれだけミドルの意識改革にコミットできるかなんですよね。
まずはトップが本腰入れてHabi*doやらないとだけですけどね。トップが社員を承認することで、「おまえ、やってないだろ」ということにしないといけないですね。
まずはフォロワーの立場でミドルに参加してもらうしかないですね。
石見:シダックスビューティケアマネジメントさんのケースでは、トップが承認のスタンプを押しているので、エステシャンさんたちも成果がでたと聞いています。
開本:IoTとかAIとかが出てくればくるほど、ブラックボックスな部分が減りますよね。
ミドルにとってはそれば怖いでしょうね。それが権力の源泉みたいなところがありましたから。
石見:ちゃんと部下を承認しているか、フィードバックしているかも見える化できますものね。
開本:ちゃんとやっているか、やっていないかもわかるというのも意味がありますね。
石見:時代が変わっていく中で、「ダメじゃないか」「できてないじゃないか」というネガティブなマネジメントから、「ここいいね」とか「これを進めよう」といったポジティブなマネジメントに変わっていっていく最中ということなんでしょうかね。
そうしていかないとクリエイティビティが発揮できない。「ダメだ、ダメだ」では過去の成果を踏襲するしかできない。
第4次産業革命の時代ではポジティブなマネジメントに変えていなかいといけない。
開本:そもそも人に対する考え方がネガティブからポジティブに変えていかないと、これからの社会は厳しいだろうなと思います。
石見:ネガティブのほうがわかりやすいからネガティブ優位になるんでしょうか。
私はネガティブな話って、仲間を作りやすいのだと思います。
あの人のココがダメ、という話は盛り上がる。でもあの人のココがいいという話は、それで終わっちゃう。
開本:人の感情って6種類あるんですけど、ポジティブな感情って1つしかないんです。
喜び・驚き・恐れ・悲しみ・怒り・嫌悪の中で、「驚き」は中立的ですが、ポジティブは喜びしかない。
その他はすべてネガティブ。そう考えると人はネガティブにできているのかもしれません。
なので意識的にポジティブにしないといけないのかもしれませんね。
石見:ポジティブってスキルが必要なのかもしれませんね。
開本:ポジティブになるためのモチベーションとかポジティビティとか、どんどん哲学的になってしまいますけど(笑)
これまでの心理学はネガティブばかり見ていたというのは、人間の本質からするとある意味、正しかったのかもしれませんね。
石見:最後にこれから人材育成のカギになるものは?
開本:ひとつはポジティビティは大事ですよね。次にクリエイティビティ。もうひとつはトランスペアレントというのでしょうか、透明性というのでしょうか。クリアであるということが大事と思います。今日も見える化という話が出てきたと思いますけれども、これからはどんどんデータが蓄積されて、分析されて、人が具体的に職場で何をしているかが見えるようになってくるので、見える以上はそれをきちんと評価してあげるという透明性が大事になってくるし、これまでうやむやであうんの呼吸でやってきたことがすべて説明しないといけないし、説得しないといけないし。これは結構大変ですよね。
これまで以上に働いている人たちのパワーが強くなるというか、より対等な労働契約に近づくと思うので、それを納得させるには、やはり透明性が必要だと思います。これまでの慣習でこれでいいやというのは厳しくなってくるでしょう。
そういう意味では経済学でいわれているようなホントの意味で市場取引みたいなものが出てくるでしょうね。これまでは企業の側がすごく情報が多くって、労働契約もすごく有利だったのが、格差がなくなってくると企業も簡単に優秀な人を囲い込めなくなってくるという。大変な時代になってきます。
何かマネジメントは変わるんじゃないかという話になってきていますけど、(笑)でも人は変わりませんから(笑)
石見:ありがとうございました!