マネジメント現場ですっかり市民権を得た感のある「1on1(ワンオンワン)ミーティング」。上司と部下が1対1で対話の場を持つことが、部下のモチベーションやエンゲージメント向上にも効果的らしい、あるいは自律型人材として成長を加速させることができる、そんな期待感を持って、今、多くの企業で活用されています。
一方で、この1on1がうまく機能していない、むしろ上司部下双方にとってモチベーションを下げる苦痛な場になってしまっているというケースも残念ながら少なくないようです。また、人事部門が主導して導入したものの、その本来の目的が現場には伝わりきらずに「人事への報告のためのミーティング」と化してしまっている、そんな実態を持つ企業も少なくないのではないでしょうか。
では、そもそも1on1とは誰のためのものなのか?また、どんなことに留意して導入・運用すればいいのか?従業員の自律と成長をグンと後押しすることのできる効果的な1on1とは、何がポイントなのか?部下をダメにしてしまうNGケースはどこに問題があるのか?
今回は、1on1など部下との対話を通したマネジメントで多数の組織改革を支援されている株式会社オフィス・アニバーサリー 代表取締役社長の北方伸樹氏をお迎えして、株式会社Be&Do 代表取締役の石見一女が実際のケースもご紹介しつつ、部下をダメにする1on1、部下がぐんぐん成長する1on1、その違いとは?!という課題について、事前質問もお受けして徹底討論しました。
2022年4月28日に開催した心理的資本セミナーのレポートとなります。
目次
パネリスト紹介
・北方 伸樹 氏(画面右上)
株式会社オフィス・アニバーサリー 代表取締役社長
・石見一女(画面下)
株式会社Be&Do 代表取締役
・橋本 豊輝 ※モデレータ (画面左上)
株式会社Be&Do 取締役/COO
はじめに
橋本:はじめに、本日の主題にもなっている心理的資本について少し簡単にご紹介したいと思います。
人の成果、パフォーマンスは何で定義づけられるか?っていうことが経営学でずっと研究されてきているんですが、知識やスキル、もちろん大事ですよね。でもそれだけはダメで、じゃあ社内外の人的なネットワークも必要だろう、でもこの2つが揃っててもなかなか成果につながらないっていうことで、今注目されているのが心理的資本なんです。これは、やり遂げる自信、ポジティブな心のエネルギー源、エンジンという風にご理解ください。
橋本:心理的資本の特徴は、測定できて、開発ができるっていうことです。心理的資本が高くなることで10%〜25%業績が向上するとか、望ましい態度や行動と正の相関が認められていたり、その逆に望ましくない態度や行動に対して負の相関が出る、という研究結果が出ています。
この心理的資本を現場のマネジメントで高めていくには、上司部下の対話っていうのは、ものすごくキーになることなので、今日はそこに着目して「部下ダメにする1on1、部下がぐんぐん成長する1on1 その違いとは?」というテーマでお話ししていきます。
1on1の一般的な定義は、上司と部下による1対1の話し合い、マネジメント手法のひとつと言われています。シリコンバレーで取り組まれていたものが日本でも書籍などで紹介されて注目を集めてきました。効果としては、上司と部下の関係性づくりとか、部下のパフォーマンス向上や人材育成に欠かせない取り組みだと言われていて、週1回から月1回程度マンツーマンでやるっていうのが一般的とされています。
実際私もですね、いろんな企業様からいろんな声を聞きます。
橋本:うまくいっていない例としては、「何を話したらよいのかわからない」とか「ただ業務の進捗を確認する場になっている」とか「詰められる、詰める場に場になってしまっている」とか、ちょっと辛い声もよく聞きます。
一方でうまくいっているところでは、「良い相談の機会になっている」とか「すり合わせして違和感をなくしていくための場になっている」とか「前向きになれる時間になっている」とか、そういう例もあります。
今回、事前にいくつかお悩みやご質問いただいてもいるので、ここからは北方さん、石見さんを巻き込んで、そこも含めてトークを進めていきたいと思います。
ダメな1on1の特徴は?
橋本:まず聞いてみたいのですが、お二人ともそれぞれにいろいろな組織づくりや人材育成の側面支援に関わられている中で、実際見聞きした、部下をダメにしちゃう1on1や、やりがちだなっていうようなうまくいっていないケース、どんなものがあるでしょうか?
北方:一言で言うと、上司の方がしゃべっている1on1ですよね。1on1の時間のうち、上司と部下、どっちの方がたくさんしゃべっているのか?っていうのが、一番わかりやすくバロメーターになります。上司がいっぱいしゃべっちゃってるってことは、ひょっとしたらお説教や、あーしろこーしろっていう指示になってしまっているかもしれないんですよ。そういうケースは結構多いんですが、部下からすると、定期的にお説教されるための時間を取られてるわけで、なんとか逃れたいって考えるようになります。それが1番うまくいっていない典型例じゃないかなって思います。
橋本:説教とフィードバックの違いも、ポイントがありそうですね。
北方:そこは、上司として”あり方”みたいなものがすごく重要なんです。「自分の思うように部下に動いて欲しい」と思っていると、フィードバックじゃなくてお説教になりますし、「部下が自分で仕事をするのを支援するんだ」っていうスタンスであれば、部下がどんなこと考えているのかとか、何に困っているのかなっていうスタンスで聞けると思うんです。この上司の立ち位置っていうのが1番大きいんじゃないかと思いますね。
石見:実は、私、今日こういう立場で参加していますが、私自身も1on1が実はあんまり得意じゃないなって思っているんです。なぜかと言うと、やっぱり、まどろっこしいんですよね。上司の立場からすると、ここまではいけるな、ここは足りないなっていうのが見えてる中で、それを部下から引き出していくっていうのがまどろこっしくなって言いたくなってしまうので、私自身も良い1on1ができていなのかもしれないんですけど(笑)
良くない1on1ということで言うと、そもそも1on1っていうのをわかっていない人たちが多いことの方が私は問題のような気がしています。私は、1on1ってフラットな会話の場であるべきだと思ってるんですけど、そのように理解されていない人も多い気がしています。
たとえば、ある会社の方が「うちは仕事のことは一切言わないルールで1on1をするんだ」とおっしゃっていたんですね。きっと1on1で仕事のことを責めないための施策だったんだと思うんですけど、毎回仕事以外の話題で何を話せばいいんだ?ってなりますよね。
そんな風に、1on1では仕事に触れちゃいけないって思ってる人もいらっしゃるし、逆にただの評価者面談になってしまうとか、会社が1on1やれっていうからとりあえず時間は取ってるんですけどネタがないとか…。そういう話を聞いていると、そもそも良い悪いの前に、1on1って何のためにやってるんだろう?っていうのが意外と浸透していないなっていうのが私の中の印象としてありますね。
北方:副作用って言うか、逆に働いてしまってるんでしょうね。1on1が進捗確認ミーティングになってしまわないように、部下の人となりを聞きましょうっていうのがその方の意図だと思うんですけど、本来仕事を前に進めるために時間を取っているはずなので、そればっかりだと一体この時間は何なんですか?って部下としては思っちゃいますよね。
石見:1on1を浸透させたいっていう前提には、職場のコミュニケーションを良いものにする、というのがありますよね。それはまさしく北方さんの1番得意な対話作りの場だと思うんですけど、対話の本質をわからないままとりあえず時間を取らなきゃっていうところに意識がいってしまっているのかなって思いますね。
1on1の目的。誰のための1on1?
橋本:1on1の根本の目的って本来、その人の成長や成長によってパフォーマンスが上がるようになるための支援ですし、お互いにとってwin-winになれる対話の場だと思うんですけど、いきなりそれは難しいと判断した推進者が、まず関係性がそもそもできていないから雑談をしましょう、みたいな発信をしてしまっているのかなと。でも一律でルールを作ってやれるものじゃないんですよね、みんな状況が違うので。そこから見直しが必要だと思うんですけどどうでしょうかね。
北方:それは本当に思うところですね。仕事をする上で「誰が考えて行動を起こすのか?」っていうのが、いわゆる高度成長期あるいはバブル後とは、今まったく変わってきているなと思ってるんですよね。
以前は、おそらく経営者やリーダーが、仕事のやり方も成功パターンもこの通りやればいいからって言える世界だったと思うんですよね。それが働き方改革があり、コロナがやってきてリモートワークになる中で、より社員一人ひとりが自分で考えてその環境の中で判断して物事を進めなくちゃいけなくなっていると思うんです。昔はリーダーに答えがあったんですが、今はリーダーに答えはなくて、こっちの方へ行くぞとか何のためにやるのかは明確に示す必要があるんですけど、メンバー一人ひとりが具体的にこの課題をどう解決するのか?って自分で考えて自分で答えを出さなきゃいけない世界になってると思うんですよね。
仕事の民主化ですね。中央集権型から分散型になったと思うんです。そうするとリーダーの役割っていうのは、一人ひとりのメンバーがいかに自分で考える状態を作るのか、いかに行動を効果的に進められるかを支援する立場になっている。その世の中の構造が変わっていってることにうまく寄り添っていかないと、企業の競争力って弱くなってしまうんじゃないかなって思いますよね。
橋本:一方で、上司も部下も両方が、なぜこれが必要とされているかの理解をしないと本当の意味でうまくいく1on1ミーティングはできないのかもしれないですね。
石見:私は最初、「1on1は部下のための時間です」っていう考え方が広まったときに非常に共感をしてたんですけど、ある時から違うんじゃないかって思い始めたんですね。なぜ違うかと言うと、実は上司のための時間でもあると思うんです。上司も部下と接点を持ちたいけど昔のように飲みに行く機会もないし、ましてやコロナで必要最小限のことしかオンラインで繋がらない中なので、コミュニケーションの機会がなかなかない。上司もいろんなフィードバックもしたいし支援もしたいけど、そのための場がないって考えたときに、1on1は、お互いがお互いの成長を促すとか、お互いを支援し合うフラットな場だと考える方が自然かなと最近は思うんですけど、どうでしょうか?
北方:それは共感しますね。やっぱり部下と対話をすることで上司の方が気づいたり成長したりする機会がものすごくあると思うんですよね。それは部下のための時間であることが上司のための時間になっていて、上司のためになってることが部下に影響しているっていうことで相互に作用し合ってると思いますね。
石見:相互に作用し合う場として1on1を考えると、上司も1on1に対するプレッシャーみたいなものが減るかなと思ってるんです。実は1on1って上司にとっても、ある意味苦痛なんですよ。苦痛って言ったらいけないんですけど、上司一人に対して部下は複数ですよね。複数の部下と向き合う時間を取るっていうのは、上司にとっても学びの場であったりだとか、鍛えられる場じゃないと、すり減ってしまうっていうことがあるので、上司の方が学べる場として考えていければ、1on1ってもっと違うものになるんじゃないかなって気がしますね。
北方:そうですね。上司の側はものすごく大変だと思うんですよ。私は外の講師、コーチとしてリーダの方たちと関わってるんですけど、外部から関わる方がよっぽど楽なんですよ。何が楽かって言うと、コーチってクライアントの成功にコミットはしているものの、そのクライアントが行動するかしないのかっていうのは最終的にはその人の責任なんです。でも上司と部下という立場だと、部下が動くか動かないかっていうのは、上司自身が責任を取らないといけないんですよね。だからあなたが好きにやっていいとは言えないし、成長させなきゃいけないし、その結果自分のリーダーとしての評価も気にしないといけないので、ものすごく難しい仕事だと思いますね。
効果的な1on1をする対話のコツ
石見:そう考えると、今日の事前質問の中に「対話が難しいと感じている。どのように話を聞いてあげたらいいのか、トークスキルなのかなという気もしますが…」というご質問があったんですけど、上司として、1on1を進めていく上で捉え方であったりスキルであったり、何か注意点ってありますかね。
北方:そうですね。ちょっとスライドを見せちゃってもいいでしょうか。
北方:これは重要度緊急度のチェックなんですけど、どの分野の話をしたらいいのかって言うと、1on1で扱うのはこの左上のところなんですよ。「ちょっと気にかかるけど、今すぐ解決しなくてもいいこと。だけどここを解決すると本質的に仕事の状態が良くなるもの」、ここに関するものだと思うんですよね。
日頃仕事をしながら改善したいと思っていることは何か?とか、どんなことにやりがいを感じてどうなりたいのか?とか、これから自分が成長するための課題であったり、職場のコミュニケーションに関することだったり、こういったことが1on1の場では相応しいのかなと思うんですけど、一方で仕事をする上での重要事項(右上)もここで扱うべきなんですよ。
ここら辺がちゃんと話せてたら、右下の日頃の報告連絡相談をわざわざ1on1の中でやらなくても気軽に話せるようになるんですよね。こっちからも伝えられるし向こうからも伝えられるし、実際に1on1でこういうテーマを扱ってもらっていくと、関係が変わっていくっていう現象が起こります。
あと、話の進め方としては、部下が考える思考の流れを問いで作ってあげるっていうのがありますね。何か答えを言わせようと質問してそこに落とすのではなくて、何について考えるべきなのか?っていうことを問いで流れを作っていくと良いと思いますね。
例えば、「改善したいと思ってることがあるんです」ってお題が出てきたとしたら、「それって現状はどうなの?」「本当はどうなりたいと思ってるの?」ってありたい姿を出して、「そのギャップが起こってる理由は何でしょう?」「それを解決するにはどんな行動を起こしていけばいいんだろうね?」という風に、いわゆる問題解決までの思考の流れを問いで作っていくということですね。
大事なのは、セッションの時間が終わる時に、次までに何をするのかっていうのを決めてもらうってことですね。話しっぱなしにするんじゃなくて、「いろいろ話したけどどんなことをやってみたいですか?」っていうので聞いて、「こういうことをやりたいです」で、「また定期的にするんでその話の結果教えてくれる?」って約束をしておくとそれが行動になるんです。
で、行動して手応えを感じると部下はこの1on1に価値を感じるのでまた話したくなるんですね。上司もその後どうなったのか聞きたいし、いろいろやってきてくれたことを聞くとそんなこともやったんだ、っていう発見があったりするんでお互いにやりたくなるんですよね。ただそこに辿り着くまでにある程度の時間がかかるので継続しないと元に戻ります。
橋本:そういった意味では頻度も重要になってきますよね。半年に1回とか四半期に1回の、評価面談みたいなものを1on1だと言ってるケースも意外とまだ聞くんですけど。場をどうデザインするか、頻度をデザインするのかって大事だなと思いますね。
北方:そうですね。みなさんに試していただいた結果、いわゆるホワイトカラーの仕事であれば2週間に1回くらいは確保した方がいいと思っています。さっき言ったとおり次までに何すんの?って決めてもらって1ヶ月だと長過ぎるんですよ。だから2週間程度、仕事の種類によっては1週間に1回がいいと思います。
橋本:ちなみにうちの会社は 1on1は月に1回なんですけど、間をつなぐ報告連絡相談以外の機会を頻度高く持つようにしたり、あと途中報告もできるようにして常にプロセスを可視化するみたいな工夫をしているんですけど、そういうので補完できるものですかね。
北方:そうだと思います。
石見:私は今、コミュニケーション量がコロナになって減ってしまったので、1on1というよりもっとライトな「デイリーショートミーティング」みたいなものを毎日5分でもいいから話しましょうっていうのをやっています。なぜかっていうと、そういうちょっとした何をいっても良い個別に話ができる場が、頻度多くあることで、いつでも相談できるっていう心理的安全性が築かれるっていうのがあると思っています。多くの会社で今、1on1の進捗を人事管理ツールに登録するという運用をされているところが結構あるかなと思うんですけど、それをやると管理のための1on1になってしまって、1on1をやるのが重たくなるんですよね。
だからもっとフラットなコミュニケーションの場をしっかり作っていくと、1on1をされる上司の方ももっとやりやすくなるんじゃないかなと。
対話の場づくりと、これからの上司の役割
北方:そうですね。そういう意味でいうと、1対1の場だけじゃなくて、チームとしてみんなが気楽に話せる場を意図的に作るってことも一方で必要ですね。
橋本:今実際上司となっている方々の時代の背景もあると思いますが、彼ら自身が今まで良い面談というか1on1というものを、自分の上司からされたことがないケースって結構多いんじゃないかと思うんです。その課題って現状の中でどう解決していったらいいって思われますか?
北方:理想的にはトップからやるってことですかね。トップが役員に対して1on1というか話を聞いて受け止めるっていうことをやっていく。下まで浸透させるっていう意味で言うとそこからやるのが1番早いといえば早いですね。
経営者にとって、リーダーシップのあり方を変える必要があるってことだと思います。やっぱり創業経営者とかってスピード感がものすごく早いんで、社員たちを見ていると、さっさとやれよってイラっとするんですよね。だけど、「あなたはどう思ってんの?」っていうのをちゃんと聞けるっていうのが必要なんだと思うんです。それで、言った時に怒らない、「そうじゃねーだろ」とは言わない。「あなたはそう思うんだね。なんでそう思ったの?」って聞ける度量が必要だと思いますね。
橋本:それは大変ですね。でもそうすると、今の経営者の人たちのリーダーシップを見直さないといけないところが多いかもしれませんね。
北方:そうですね。今の時代、トップを含め部下をお持ちの方っておそらく自分の人間としての器を問われる時代になっちゃったんだろうなって思いますね。
橋本:今、組織がどんどんフラット化してきてますよね。一人が対応する部下の人数が多くなりすぎていて1on1が物理的にしんどいって声も時々聞くんですけど、そういうのも、何か対策はあるでしょうか?
北方:自分もプレイングマネージャーとして仕事をすることを考えると、多分4~5人位が限界じゃないかなっていうのは感覚値としてありますよね。
橋本:人材育成を1on1で担っているのであれば、ひとつのユニットでそれくらいが最適なのかなっていうのは僕も感覚的に持ってますね。
石見:北方さんにご質問したいんですけど、1on1って、上司部下だけじゃなくて、同僚同士っていうのもありえるんですかね。
北方:もちろんです。だからたとえば私のやってるプログラムで部下マネジメントについてリーダー同士で語りあうって場面をいっぱい作ってるんですけど、リーダー同士で1on1してもらうんですね。そうやって横同士もできるし、なんだったら下から上もできます。部下に「ちょっと1on1して」っていうのも実際やってる人もいますね。
石見:なるほど。部下の数が多過ぎて1on1の機会が持ちにくいと悩まれてる管理職の方がいらっしゃれば、自分の1on1は月1回でも、間はメンバー同士でお互い高めあうような場を推奨していくのも、ひとつのやり方としてはありですよね。
北方:そうですね。すごく良いアイデアだと思います。
橋本:職場の飲み会の場が減ってるのもあるかもしれないですけど、普段思ってることを同僚と語る場がなくなっていますよね。普段のオフィスではできていないような話を、壁打ちと言うか、「こう思ってるんだけどどう思う?」とか「どんなふうな工夫をしてる?」みたいなことをシェアするだけでもすごく刺激になるし、その人にとっても学びが大きくなりそうだなと思うんですよね。
ただ1on1を上司部下で一斉に一律にやりましょう、じゃなくて、チーム単位や部門単位でそれぞれの最適なやり方って多分あると思うので、同僚同士でやるなどの工夫もすごくいいなと思いました。
うまくいく1on1のポイントは?
橋本:逆にうまく1on1が機能してるなって思うようなケース、たとえば部下やメンバーが自然と自律的に育ってるっていうようなケースって心当たりありますか?
北方:たくさんありますよ。うまくやってる人の特徴としては、自分のエゴって言ったらいいのかな、自分の思いだとか「こうあるべき」っていうのを脇に置くことができるようになった人ですね。いろいろ沸き起こるじゃないですか、部下の話を聞いていると。「もっとこうした方がいいのにな」とか「こうしなきゃだめじゃん」とかっていろいろ思うんですけど、その思いは一旦ちょっと脇に置いて、「この人ってどう考えてるんだろうか」とか、「そういう意見が出てくるのは自分とは違うけどなんでなんだろう」とか、興味を持って話を聞けるようになった人は、ちょっと一皮向ける感じです。
石見:へぇー面白いですね!これは、教えていただいた話なのでデータが手元にあるわけではないんですけど、知り合いの方がご自身がお勤めになっている関係会社で、1on1の満足度の調査をされたんですね。で、その時におもしろい結果が出たと仰っていて、1on1で承認をされると当然のことながら1on1の満足度は非常に高いんですけど、満足度が高い人たちが、じゃあ行動変容を起こしてるか?って言うとあながちそこは関係がないと。じゃあ行動変容を起こしている人たちはどんな人たちか?って言うと、1on1の場で適切なフィードバックを受けたと感じた人たちなんだと。もっと言えば、満足度の高い人と、行動変容を起こした人はあまり相関がないと出たらしいんですよ。
これはどう考えたらいいんだろうって考えると、その人を認める、承認っていうのは重要なことだとは思うのですが、結局プラスαなんでしょうね。だた一方的にすごいねすごいねで終わらずに、たとえば今一歩こうしたらどうだろうっていうような、ちょっとしたフィードバックやアドバイスが加わることで、より行動変容に結びつくのかなって、思ったんですよね。
北方:大変興味深いですよね。すごいねとかよく頑張ったよねとか言われるのは、ありがたいことなんですけど、それって「これでいいんだな」って思ってしまうじゃないですか。だから常に次の成長課題を認識させていくことを上司側として考えて行く必要があると思うんですよ。常に現状と向かいたい先のギャップを作り続けて、成長するにはこれをやらなきゃ、これをやりたいってことを1on1の中で聞き出して、「これやってみたいと思います」って言わせるっていうか、そこまで辿り着かせないと「なんか認められてよかったな」で終わってしまって、行動変容にはならないって思うんですよね。
石見:なるほど。だから満足度とは相関しないってことなのかも知れないですよね。
北方:そうだと思います。聞いてもらうだけで満足しますから。
石見:結局自分はまだまだ挑戦しないといけない課題があるんだと気付かされるから、そこではまだ満足していないってことですもんね。
冒頭でお話したみたいに、仕事のことは話さないでプライベートの応援をするような1on1に果たして意味があるのかな?って思ってたんですけど、対話を通してその人の成長にどれだけ良いサポートができるのか?までが1on1の果たすべき役割ですし、そのためにはちゃんと話を聞く、相手を知る、ここが課題だよっていうこともきちっとフィードバックするっていうのもすごく重要な側面なんだろうなって。
北方:そう思います。多分1on1の場が、単に気持ちの良い場ではなくて、どっちかって言うと痛気持ちいい感じ、これ大変なんだけど、でもぜひやってみたいなという状態を作ってあげることだと思いますね。
橋本:相手の興味とか関心とか相手をより知っていくっていう第一段階をしっかりとやっていく必要がありますね。例えば相手がすごく自信がなくてしんどいって思ってる人だったら、まずそこを引き上げることが先決なので、まず聞いてあげるとか承認を重視するっていうのは必要だと思いますし、その人が次のステップに行けるなって思ったら、ちゃんとフィードバックして、次の目標に向かうっていうサイクル回していく。相手をよく知って、相手の状態を知っていく、っていうのがある意味上司の大きな仕事ですよね。
北方:そうですね。部下からも、「今こんな状態なんです」っていうことを語れる相手でいるってことはとても大事だと思います。
橋本:ほんとに信頼関係ですよね。関係性の質をまず大事にしようってことですよね。
石見:私も今、外部メンターとしていろんなマネージャさんたちのメンタリングに入っているんですけど、みなさん「なかなかこういうのを社内で言えないですよね」って、かなりの人が仰るので、それが組織の中の限界だっていうのも知っておく必要があるのかなとも思います。いくら社内で良い1on1をやったとしても100%ではないというのもちゃんと理解をしつつ、それを100%に近づけるためにはどうしていけばいいのかっていうことを考えるのもすごく大事なのかなって思いますね。
北方:そうですね。会社の中でどれだけ自己開示できるのかってことでもあるんですけど、何もかも自己開示はできないしすべきではないですよね。だって夫婦だって自己開示100%してないですからね(笑)。ある程度やっぱり気を遣う部分もあるし、会社の中であればなおさら「それを言っちゃおしまいよ」ってこともいっぱいあるわけですから。とはいえ、何も言えませんっていうのはまずいので、良い塩梅のところに持っていくってことだと思いますね。
1on1における目標設定の支援・ダイバーシティへの活用
橋本:ありがとうございます。ここで、みなさんから事前にいただいた質問にご回答いただけたらなと思うのですが、「部下に自分で目標を立ててもらっていますが、優先順位や具体性があやふやなことが多いです。どのように対話を進めることが効果的でしょうか?」というご質問。これは何かコツとかありますか?北方さん
北方:これは上司側も部下の目標に責任を持っているので100%部下にお任せ、ではないと私は思っています。部下が出してきた目標のレベルが低かったら、「それ2倍にしたらどうなの?」と言ってみる。いや詰めるわけではないですけど(笑)これは、コーチの典型的な質問でよく使うんですよね。最終的に2倍にしろって話じゃなくて、2倍になったときにトリガーが外れた感じがするっていうことなんですけど。
橋本:制限を突破させるってことですね。
北方:はい。思い込みが多分あると思うので、例えば目標値を2倍にしてみたら「どんな行動の仕方になるんだろうね?」だとか「その先には何があるんだろうね?」とか、そういうのを聞くともう少しはっきりするんじゃないかなと思いますし、上司からの期待として「あなたにはこれくらいはやって欲しい」とか「成長課題としてこの分野のことについて取り組んで欲しい」だとか、要望として伝えるのもありかと思います。
橋本:ありがとうございます。もうひとつ、これは質問ではないのですが、「ダイバーシティ意識向上を全社的に横展開したい」というコメントをくださっていて、これ、1on1ってあちこちで対話がたくさん行われていくわけじゃないですか。ほんとに丁寧にやっていけば、従業員一人ひとりがどんな思いを持ってるかとかを聞けるものなので、1on1ってすごく良いダイバーシティ意識を広げるツールになるなと思うんですけど、この辺に関して見解とかありますか?石見さん、どうですか?
石見:多様性ってことなので、さっき北方さんも仰っておられたみたいに、自分の価値感を押し付けている限りは多様性っていうのは実現しないんですよね。1on1を導入していくときに、相手を認めていくんだとか相手の価値感や行動を応援するんだっていう視点を組織の中に入れていくっていう目的を明確にしていくことだと思いますね。
北方:1on1をすること自体がダイバーシティだと思うんですね。自分が思ってることと違うことを言われたり、違う答えが部下から出てきた時に、なぜそう思ったのかをちゃんと聞けて、「それは確かに一理あるよね」って思えるかどうかっていう、そのスタンスそのものがダイバーシティだと思いますね。
だからジェンダー的なダイバーシティとか年齢差のダイバーシティとかいろいろありますけど、誰もがダイバーシティですからね、一人ひとり違うので。それをちゃんと違うものと思って理解する、そういった取り組みとして1on1はすごく使えますが、石見さんがおっしゃっている通り、前提として1on1とは何なのか?っていうのはちゃんと伝える必要があると思います。
1on1の浸透のためには?
橋本:この1on1をどう社内に浸透させていくか、どんなふうに進めていくと現場で本来のマネジメントツールの一つとして活きてくるのかなっていうのもお聞きしたいなと思うんですけど、石見さん、いかがですか。
石見:2つのアプローチがあるかなって思うんですが、まず、1on1ってよくわからないけど、とりあえず対話の機会を与えて、実際にやっていきながらどうしたらいいんだろうって考えていくというのがあると思います。もう一つは、職場のコミュニケーションを良くしたいっていう素直な気持ちから1on1を使っていくということですよね。でも大抵の人は、形を設定した方が入りやすかったりするので、まずやってみる、やりながら工夫する、頭を打ちながらやってみるってことの方が大事かなって気がしますね。
橋本:確かにそうですね。あえてこういう風にやってみましょう、この頻度でやってみましょうって言わないと、そもそもやらない人が多いと思うんですよね。忙しいとか、それより目の前の業務を終わらせたいんだとか。
石見:ただやっぱりそういう時にちゃんとサポートするというか、このことの意味とか、1on1を通じてどういう場づくりや人材育成をしていくのか?っていう理解を得るための発信はし続けないと、「とりあえずやってます」ってことになってしまってとてももったいないので、サポートは必要ですね。
橋本:面倒くさがっちゃダメって気がしますよね。北方さんいかがですか。
北方:私のプログラムでは、リーダーの方たちに隔週で8回集まってもらってるんですね。
その間で部下とセッションをやっていて宿題を出すんですね。会社からこの研修に参加しろって送り込まれてる人も多いので、最初はほとんどの人がやらされ感なんですよ。それで、研修だからって部下との時間を持って、部下も最初それにお付き合いしてる感じなんですけど、だいたい早い人で4回目、遅い人でも最終回くらいには、これをやってることの意味がわかってくるんです。で、部下との関係が変わってくるので、そこでようやく「これは意味がある」って理解するんです。
だから最初大変だと思いますけど、やっぱり会社の仕組みとしてやる、やって定期的に集まりながらリーダー同士が話してふりかえるっていう場を作る。そのことによって、1on1がまずいケースに落ちていかないようにして、継続することでリーダー自身も部下もその時間に価値を感じるようになっていくので、1on1が定着する状態が出来上がってくると思います。
最後に
橋本:では、最後に参加されている皆さんにお一人ずつメッセージをいただけたらなと思います。
石見:1on1をやり慣れていない管理職の方からすると面倒に感じたり、負担に感じたりすることもあるかもしれませんが、本当にそれで部下が育ってくれると、ご自身はもっと視座の高い仕事ができるようになってくるし、これだけ時代が変わってきてますので、若い人の感性から得られる情報もビジネスの大きなポイントになると思いますので、ぜひ厭わずに挑戦していただきたいなと思います。
北方:やはり1on1の場を持つこと自体がとても重要だと思っています。2週間に1回1人ずつ30分会話をすると、それだけで結構な時間を取られるわけですけど、1人あたり30分の投資がちゃんとできれば10倍にも20倍にもなって返ってきますから、投資だと思って取り組んでいただくと良いとおもいます。
橋本:ありがとうございます。本当に会社のマネジメントの根幹を支えるコミュニケーションの場になるんじゃないかなと思うので、これをきっかけにより良い1on1をみなさんの職場でも実践していただきたいなと思います。
北方さん、石見さん、ありがとうございました!